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灰色世界Ⅱ ~夏休みの向こう側~
エピローグ
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ぼくらが乗ってきたバスは、残骸になっていた。
どれだけの間かしれない、ぼくらは眠っていたようで……体のふしぶしが痛む。バスを下りて、軽く体を動かすと、今度は逆に不思議なくらい軽やかになった。
バスは、窓ガラスが割れて、ドアは崩れ落ち、天井には幾つも穴が開き、ぼろぼろで、……まるでとおの昔に、壊れていたみたいだ。
見わたせば、ぼくらが乗っていたバス以外にも、大小のたくさんの乗り物が、残骸になってあちこちにちらばっていた。乗り物だけじゃない、家や、工場や、鉄塔校舎のような高い建てものが、どれも、ほとんど形が崩れたすがたで、そこかしこにひっそりたたずんでいるのだった。ぼくらのバスが向いているのと反対の方向には、とてつもなくおおきな、ドームがあった。確かにぼくらは、あそこからやって来たんだろう。ずいぶん離れた位置にあったけれど、それは確かに、一個の世界をまるごとかかえこんでいると思えるような、巨大な、……ぼくは図鑑でみた「星」を思い出した。ぼくらの世界のまがいものだった星じゃなく、かつて夜空に浮かんでいたという無数の星の一つ一つが、実際にはとてもおおきくて、まるい形をしているのだって書いてあった。それの、はんぱだ。あの、ぼくらが住んでいたドームは。世界は。それはとても、悲しい……なぜかとても悲しい形だともぼくにはふと思えたんだ。
それに……ぼくらはもうなにも言わなかったけど、いざたどりついてみた世界の外……もう今は「あちらの世界」になった世界の外、ここも……灰色の世界が広がっているばかりだったんだ。
ただ、空には、ぼくらのもとの世界よりずっと高いところに雲があって、ほとんど動いていないようだった。地面には粉らしきものが一面に積もっていた。ここの灰色は、もとの世界の灰色よりも、少し赤みをおびて見えた。
それから、ヨドミのすがたは、どこにもなかった。
「イキ」
カケラが、はじめてここで声を発した。
奇妙なくらい静まりかえった世界で、その声はとてもよく響いた。ぼくは、この世界ではじめてよばれた名前がぼくの名前みたいな気がして、なんだかほこらしく思えた。元気が、出てきた。
「カケラ……」
ぼくも、呼びかけてみた。少し、よわよわしかったけれど……
カケラは、すうっと、ぼくのうしろを、指さしてみせた。
その方向、重たい雲の向こうに、ほんのうっすらと、だけど、確かに、赤。赤い、なにか、赤くてまるいものが見える。おおきい。ぼくらの生きてきたドームより、もっとおおきいかもしれない。かすかにしか映らないほの赤い影。
ぼくは、昔、人間が神様から盗んだという火を思い浮かべていた。あるいは……あれが……
ぼくらは、歩き出していた。
その、なにかとても大切な気がする、ほの赤いものの方へ。
どれだけの間かしれない、ぼくらは眠っていたようで……体のふしぶしが痛む。バスを下りて、軽く体を動かすと、今度は逆に不思議なくらい軽やかになった。
バスは、窓ガラスが割れて、ドアは崩れ落ち、天井には幾つも穴が開き、ぼろぼろで、……まるでとおの昔に、壊れていたみたいだ。
見わたせば、ぼくらが乗っていたバス以外にも、大小のたくさんの乗り物が、残骸になってあちこちにちらばっていた。乗り物だけじゃない、家や、工場や、鉄塔校舎のような高い建てものが、どれも、ほとんど形が崩れたすがたで、そこかしこにひっそりたたずんでいるのだった。ぼくらのバスが向いているのと反対の方向には、とてつもなくおおきな、ドームがあった。確かにぼくらは、あそこからやって来たんだろう。ずいぶん離れた位置にあったけれど、それは確かに、一個の世界をまるごとかかえこんでいると思えるような、巨大な、……ぼくは図鑑でみた「星」を思い出した。ぼくらの世界のまがいものだった星じゃなく、かつて夜空に浮かんでいたという無数の星の一つ一つが、実際にはとてもおおきくて、まるい形をしているのだって書いてあった。それの、はんぱだ。あの、ぼくらが住んでいたドームは。世界は。それはとても、悲しい……なぜかとても悲しい形だともぼくにはふと思えたんだ。
それに……ぼくらはもうなにも言わなかったけど、いざたどりついてみた世界の外……もう今は「あちらの世界」になった世界の外、ここも……灰色の世界が広がっているばかりだったんだ。
ただ、空には、ぼくらのもとの世界よりずっと高いところに雲があって、ほとんど動いていないようだった。地面には粉らしきものが一面に積もっていた。ここの灰色は、もとの世界の灰色よりも、少し赤みをおびて見えた。
それから、ヨドミのすがたは、どこにもなかった。
「イキ」
カケラが、はじめてここで声を発した。
奇妙なくらい静まりかえった世界で、その声はとてもよく響いた。ぼくは、この世界ではじめてよばれた名前がぼくの名前みたいな気がして、なんだかほこらしく思えた。元気が、出てきた。
「カケラ……」
ぼくも、呼びかけてみた。少し、よわよわしかったけれど……
カケラは、すうっと、ぼくのうしろを、指さしてみせた。
その方向、重たい雲の向こうに、ほんのうっすらと、だけど、確かに、赤。赤い、なにか、赤くてまるいものが見える。おおきい。ぼくらの生きてきたドームより、もっとおおきいかもしれない。かすかにしか映らないほの赤い影。
ぼくは、昔、人間が神様から盗んだという火を思い浮かべていた。あるいは……あれが……
ぼくらは、歩き出していた。
その、なにかとても大切な気がする、ほの赤いものの方へ。
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