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転生の章 雌伏篇
第17話 上京
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数週間後、ボクは深緑色の団長の制服に着替え、ドレス姿のピンクと母とともに6頭立ての馬車に乗り込んだ。
うれしそうなボクとピンクとは裏腹に、叔父ゴールドと義父シルバーは心配そうな顔をしていた。
「チャブチ! 帽子が曲がっておる! そんな調子では困るぞ。魔王様に決して粗相がないようにな。うーん心配だ」
「いえいえ、大丈夫! ……だと思います。ボクだって、叔父上を連れて色々アドバイスを頂きたいですが招待はボクと妻と母なので……」
「う、うむ。まぁ、道中気を付けてな。都の雰囲気を楽しんでこい」
「はい! では行って参ります」
叔父と義父は進み出る馬車に敬礼をした。
馬車は都に向けて出発した。
魔王様より団長の任命式をするから来いとのことで、お金と立派な馬車が送られてきた。馬車の四つ角には小さな団長旗がたなびいていた。
初めての都。母は前に父と行ったことがあるらしい。
それはそうだろう。将軍の任命式をしたことがあるだろうし。母は落ち着いた様子でどっしりと座席に座っている。
ボクとピンクは遠足気分だった。だって旅行なんて人生で一度もしたことがなかったのだから。
「ふふ。楽しみだね! 大都会ってどんなとこかな?」
「ボクたちの砦もでかいけど、お城はどんなもんかな?」
そんな想像に花を咲かせた。
途中何度か宿場町の旅館に泊まって5日目に都に到着した。
我々の砦の百倍の広さが魔法の城壁に囲まれていた。
難攻不落な城だ!
道も石畳となって土がむき出しになっているところがなくなった。
街の表通りには婦人服の店やカフェ、うまそうな食事処。その裏の通りが飲み屋街。
武器や防具の店は別の地区に固まってあるらしい。道を歩く人は羽飾りの帽子を着けドレスを着た人、シルクハットをかぶった紳士等、人間のそれとあまり変わりはなかった。
いやはや、きらびやかで驚きの連続。母はキョロキョロしているボクたち夫婦にため息をついた。
「なんです。はしたない。お上りさん丸出しじゃない!」
注意されたがピンクは全然聞いていない様子。
「まぁ! お義母様! あの服屋さんに行ってみません?」
「……高くて買えませんよ。ブランドのお店じゃないの」
母に呆れられても、はしゃぎ過ぎの彼女。看板の文字をたどたどしい言葉で読んで行く。
「えと、えーと、『こな ひきます』……『きぬ したてや』……『らんぷ の みせ』……『うらない の やか……』……あ! 早くて読めなかったぁ……」
馬車のスピードはそれほど速くないのに見過ごしてしまったようだ。
我々は林の集落に入って、勉強どころではなかった。ピンクも読んでも書くことはあまりできない。
しかし、都はそこらじゅう文字だらけ。彼女はホーリーに習った文字を思い出し、必死に看板を読んでいたが、その様子にボクも母も笑ってしまった。
「あ! 宝石だ! スゴいね! チャブチ! ……いや団長閣下」
彼女は実父のシルバーに人前でチャブチなどと団長の名前を気安く言うでない。都ならなおさらだ。と言われていたので、言ってしまった手前辺りをキョロキョロと見渡した。ボクはそんな彼女の姿を微笑ましく見た後で、御者に声をかけた。
「スイマセン。ここで止めて下さい」
大通りの宝石店の前でボクたちの馬車は止まった。
六頭だての馬車だ。小さい団長旗までついている。路地を歩く人達も、どこの貴族様が。といった感じで見ていたが、ボクが馬車から降りた姿を見ると知らない田舎武者といった感じで去って行った。当たり前だ。
ピンクは不思議そうな顔で馬車から首を出した。
「どうしたの? 閣下」
「いやぁ。ボクたちの結婚式は貧しいもので、突然だったから装飾品の一つも贈れなかった。まぁボクも革の首輪を未だに贈っていない。でもせっかく魔王様からお金をたんまり頂いたんだ。妻に高価なプレゼントくらい買ってもいいだろ?」
そう言って彼女の手を引いて馬車から降ろした。母も久々の都と言って降りて来た。
店主は下半身が蛇の単眼の女性だった。
「あら! ひょっとしてブラウン将軍閣下!? あら、ブラウン夫人もお久しぶりにございます」
と店主は、父と母を知っているようだった。母もその声を聞いて彼女の方を見て驚いた。
「まぁ、セリーナじゃない。都で宝石商をしていたのね。久しぶり」
二人は手を取り合って話し始めた。
「将軍にはお世話になりっぱなしで……。ようやくお目にかかれましたわ」
「いえ、主人は……将軍は討ち死にしてしまったの。あそこにいるのは息子なのよ」
店主はレンズが一つしかない眼鏡をかけてボクを見上げた。
「んま! お若い! あらそうでしたの……。将軍が……。軍事の話しはこちらに入って来ませんから……。恩返しもできず……」
と、母と悲しみだした。顔見知りの二人は話をさせておこうとボクはピンクと店内を見回ることにした。
「あの。妻に装飾品を見せたいのですが……」
というと、店主はまたも驚いていた。
「ま! 奥さんなの!? お若いのに」
「そうなの。新婚なのよ。まだ子供同士なんだけどね。息子は先日初陣で戦功を立てて団長に任じられたの。それで魔王様からご褒美をいただけて……。将軍は一族の戦士たちに武器や防具を買ったものだけどねぇ。まぁ、息子は若いしヨメを一番に考えることはよっぽどカワイイんでしょうね」
母がそんなことを店主のセリーナに話しているうちに、ボクとピンクは店内に並べられている宝飾品を眺めた。
「うわー! これすごい!」
「ホントだ。キレイだね。君に似合いそうだ」
銀と真珠がベースで小さい宝石もちりばめられた首輪だ。ピンクの細い首にピッタリだった。
「これを彼女に」
「まぁ! よくお似合いで……」
ピンクも鏡、ボク、鏡、ボクと交互に向いて、大変気に入っているようだった。
「すごーい! こんなの付けたことない!」
「団長の妻なんだからいいものを付けないとな」
ボクは、気取りながら店主のセリーナにお金を渡し、母とピンクを馬車に乗せた。
母は大変落ち着いた様子で話し始めた。
「で、城に行って、都督閣下に挨拶しましょう。気を引き締めてね。優しい方ではないから」
「は、はい」
都督閣下……。軍事の最高位だ。優しくない方。
たしかに、ブタン将軍に地位を与え、その後の様子など省みずただ反乱を起こさない将軍とそのまま留任させっぱなしの方だ。
我らの生活など考えてない。ただまとまっていればいいとかそういう考え方か。
ボクは馬車の中でぎっしりと手を握りしめた。
うれしそうなボクとピンクとは裏腹に、叔父ゴールドと義父シルバーは心配そうな顔をしていた。
「チャブチ! 帽子が曲がっておる! そんな調子では困るぞ。魔王様に決して粗相がないようにな。うーん心配だ」
「いえいえ、大丈夫! ……だと思います。ボクだって、叔父上を連れて色々アドバイスを頂きたいですが招待はボクと妻と母なので……」
「う、うむ。まぁ、道中気を付けてな。都の雰囲気を楽しんでこい」
「はい! では行って参ります」
叔父と義父は進み出る馬車に敬礼をした。
馬車は都に向けて出発した。
魔王様より団長の任命式をするから来いとのことで、お金と立派な馬車が送られてきた。馬車の四つ角には小さな団長旗がたなびいていた。
初めての都。母は前に父と行ったことがあるらしい。
それはそうだろう。将軍の任命式をしたことがあるだろうし。母は落ち着いた様子でどっしりと座席に座っている。
ボクとピンクは遠足気分だった。だって旅行なんて人生で一度もしたことがなかったのだから。
「ふふ。楽しみだね! 大都会ってどんなとこかな?」
「ボクたちの砦もでかいけど、お城はどんなもんかな?」
そんな想像に花を咲かせた。
途中何度か宿場町の旅館に泊まって5日目に都に到着した。
我々の砦の百倍の広さが魔法の城壁に囲まれていた。
難攻不落な城だ!
道も石畳となって土がむき出しになっているところがなくなった。
街の表通りには婦人服の店やカフェ、うまそうな食事処。その裏の通りが飲み屋街。
武器や防具の店は別の地区に固まってあるらしい。道を歩く人は羽飾りの帽子を着けドレスを着た人、シルクハットをかぶった紳士等、人間のそれとあまり変わりはなかった。
いやはや、きらびやかで驚きの連続。母はキョロキョロしているボクたち夫婦にため息をついた。
「なんです。はしたない。お上りさん丸出しじゃない!」
注意されたがピンクは全然聞いていない様子。
「まぁ! お義母様! あの服屋さんに行ってみません?」
「……高くて買えませんよ。ブランドのお店じゃないの」
母に呆れられても、はしゃぎ過ぎの彼女。看板の文字をたどたどしい言葉で読んで行く。
「えと、えーと、『こな ひきます』……『きぬ したてや』……『らんぷ の みせ』……『うらない の やか……』……あ! 早くて読めなかったぁ……」
馬車のスピードはそれほど速くないのに見過ごしてしまったようだ。
我々は林の集落に入って、勉強どころではなかった。ピンクも読んでも書くことはあまりできない。
しかし、都はそこらじゅう文字だらけ。彼女はホーリーに習った文字を思い出し、必死に看板を読んでいたが、その様子にボクも母も笑ってしまった。
「あ! 宝石だ! スゴいね! チャブチ! ……いや団長閣下」
彼女は実父のシルバーに人前でチャブチなどと団長の名前を気安く言うでない。都ならなおさらだ。と言われていたので、言ってしまった手前辺りをキョロキョロと見渡した。ボクはそんな彼女の姿を微笑ましく見た後で、御者に声をかけた。
「スイマセン。ここで止めて下さい」
大通りの宝石店の前でボクたちの馬車は止まった。
六頭だての馬車だ。小さい団長旗までついている。路地を歩く人達も、どこの貴族様が。といった感じで見ていたが、ボクが馬車から降りた姿を見ると知らない田舎武者といった感じで去って行った。当たり前だ。
ピンクは不思議そうな顔で馬車から首を出した。
「どうしたの? 閣下」
「いやぁ。ボクたちの結婚式は貧しいもので、突然だったから装飾品の一つも贈れなかった。まぁボクも革の首輪を未だに贈っていない。でもせっかく魔王様からお金をたんまり頂いたんだ。妻に高価なプレゼントくらい買ってもいいだろ?」
そう言って彼女の手を引いて馬車から降ろした。母も久々の都と言って降りて来た。
店主は下半身が蛇の単眼の女性だった。
「あら! ひょっとしてブラウン将軍閣下!? あら、ブラウン夫人もお久しぶりにございます」
と店主は、父と母を知っているようだった。母もその声を聞いて彼女の方を見て驚いた。
「まぁ、セリーナじゃない。都で宝石商をしていたのね。久しぶり」
二人は手を取り合って話し始めた。
「将軍にはお世話になりっぱなしで……。ようやくお目にかかれましたわ」
「いえ、主人は……将軍は討ち死にしてしまったの。あそこにいるのは息子なのよ」
店主はレンズが一つしかない眼鏡をかけてボクを見上げた。
「んま! お若い! あらそうでしたの……。将軍が……。軍事の話しはこちらに入って来ませんから……。恩返しもできず……」
と、母と悲しみだした。顔見知りの二人は話をさせておこうとボクはピンクと店内を見回ることにした。
「あの。妻に装飾品を見せたいのですが……」
というと、店主はまたも驚いていた。
「ま! 奥さんなの!? お若いのに」
「そうなの。新婚なのよ。まだ子供同士なんだけどね。息子は先日初陣で戦功を立てて団長に任じられたの。それで魔王様からご褒美をいただけて……。将軍は一族の戦士たちに武器や防具を買ったものだけどねぇ。まぁ、息子は若いしヨメを一番に考えることはよっぽどカワイイんでしょうね」
母がそんなことを店主のセリーナに話しているうちに、ボクとピンクは店内に並べられている宝飾品を眺めた。
「うわー! これすごい!」
「ホントだ。キレイだね。君に似合いそうだ」
銀と真珠がベースで小さい宝石もちりばめられた首輪だ。ピンクの細い首にピッタリだった。
「これを彼女に」
「まぁ! よくお似合いで……」
ピンクも鏡、ボク、鏡、ボクと交互に向いて、大変気に入っているようだった。
「すごーい! こんなの付けたことない!」
「団長の妻なんだからいいものを付けないとな」
ボクは、気取りながら店主のセリーナにお金を渡し、母とピンクを馬車に乗せた。
母は大変落ち着いた様子で話し始めた。
「で、城に行って、都督閣下に挨拶しましょう。気を引き締めてね。優しい方ではないから」
「は、はい」
都督閣下……。軍事の最高位だ。優しくない方。
たしかに、ブタン将軍に地位を与え、その後の様子など省みずただ反乱を起こさない将軍とそのまま留任させっぱなしの方だ。
我らの生活など考えてない。ただまとまっていればいいとかそういう考え方か。
ボクは馬車の中でぎっしりと手を握りしめた。
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