コボルド将軍の息子 ──チャブチ

家紋武範

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転生の章 決戦篇

第31話 軍議

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次の日の朝、ボクが彼女に言葉を教えていると、幕舎の外から義父の声がした。

「チャブチ。入るぞ」
「わわわわ!」

ゴブリン達が義父に威厳に負けて通したんだと悟った。
ボクは慌ててイスに座っている彼女に毛布を被せて隠したが、彼女は何かの遊びだと思ってすぐにヒョイと顔を出してボクを見つけてニッと笑った。
ボクは何やってんだろと、自分の顔を押さえた。
そこに義父が入って来て、コノハと戯れているボクを見てまたも呆れた顔をしていた。
ボクが恥ずかしくなってしまった。

「な、何用です?」
「何用とはなんです。ここに何しに来てらっしゃる? 戦ではないのですか? もう他の副団長や隊長たちを呼びました。軍議を始めますゆえ、そうそうに団長閣下も来られたし!」

そう力強く言い放つと出て行ってしまった。
ボクは仕方なく鎧を身につけマントを羽織ると、コノハがまた何かの遊びと思ったらしい。

「チャブチどこに行く? ションベンか?」
「いや、ちょっと会議……。と言っても分からないか。コノハはテントで寝てて……」

「やだ。チャブチもここにいろ」
「それがダメなんだ。ボクもコノハと一緒にいたいけど……」

彼女はサッとボクの体によじ登り胸と顎に手をあてて首筋に噛みついてきた。

「あー♡」

猛烈に性的欲求が体を駆け巡る。
首筋に噛みつくと服従するのは何も雌のコボルドだけでは無い。
雄も同じなのだ。
首筋を噛んだ方がその時の性交の立場が上になるのだ。

「行くな。コノハといろ」
「ダメダメ。あー♡ちょっと待っててよ。聞き分けてよ」

彼女を引き離し寝台においてすぐに脱出出来ないように毛布を複雑にかけて急いで、テントをでて会議場に入った。

ボクが団長席に向かって歩き出すと義父シルバーはコホンと空咳を打つと並み居る隊長たちは全員起立した。
ボクは驚いてその場に立ち尽くしてしまったが、義父はそのまま団長席に行くようにと手で合図した。
席にたどり着くと義父が全員に聞こえる声で司会を始めた。

「初戦で倒れた大勢の同胞、そしてゴールド副団長の冥福を祈り黙祷せよ!」

全員に黙祷を命じると、みな規律正しく目を閉じた。

「やめ。全員着席」

一分ほど立つと全員を座らせ、軍議を開始した。

「まず、団長閣下よりご挨拶があります」

聞いて無いが、義父にとっては当たり前のことなのであろう。
義父に気に入る挨拶が出来るか不安ではあったが、ボクは軽く咳払いしてから挨拶を始めた。

「えー。……先の初戦において多数のゴブリン兵を失ったのは、団長たる私の責任です。この戦に勝利した暁には、残された家族には多大の遺族年金を支払うことをお約束します。その責任を感じ入り、今後の作戦はシルバー副団長を軍司令に任命し、その采配をお願いしたいと思います。また、この軍議も軍司令に議長をお願いしたいです」

ボクの挨拶が終わると義父は真っ直ぐに立ち上がり、隊長達に対して深々と頭を下げた。

「僭越ではありますがお受け致します。皆の者。ゴールド参謀長は先の初戦においてゴブリンたちの死を大変感じ入り責任をとって自害した。どうかその様なことはせんでくれ。今はたった一人の死が我らの存亡に関わる。ましてやゴールドほどの者の死は一万の兵を失うより大きい」

安心した。叔父の死はボクが女を拾ったことの諫死じゃなく、正式発表を初戦の責任問題としてくれたかと義父シルバーの顔を見ると目が合った。

「一人の軽はずみな行動は軍全体を揺るがす。どうか一人一人身を慎み軍規に従って責任を持った行動をするように」

ジッとボクの顔を見据えながら言った。

何だよ。叔父の死を一番悲しんでるのはボクなんだぞ?
今はそっとしておいてくれてもいいじゃないか……。

チビとクロとポチが義父の前に城や砦の模型を持ってきた。
兵隊を模した木片もある。義父はそれをつまんで作戦を伝え始めた。

「先ほど、この後ろの三名とともに敵の城を見てきたがいやはやかなり堅固だ。敵には多数の騎馬隊がいる。ゴブリン族は背が低いので騎馬隊には大変弱い。何しろこちらの武器が当たらないのだから」

なるほど納得だった。
初戦の敗戦はそういうことか。やみくもに攻撃させすぎたと言うことだろう。

「騎馬隊が出てきたらホブゴブリンの部隊で担当してくれ」

ホブゴブリンの副団長は立ち上がって頭を下げた。

「かしこまりました。軍司令」
「うむ。そしてオーク族だがこのような兵器を用意してもらいたい」

彼が手にした物は丸太の先端を鉛筆のように削り、そこから三分の一ずつの地点をロープで結び、吊し上げる。ロープはちょうど三角形の形になる。
それを指で押してユラユラと動かしてみせた。

「これを形にして欲しい。攻城兵器だ。この振り子によって城壁、跳ね橋を破壊する」

画期的な作戦だ。
道具による攻城。みんな『オオ!』と声を上げた。

だが義父シルバーはそれをトンと机の上に置き、ニッと笑った。

「しかしこれはフェイクだ。これで城を落とせるなんて思っちゃいない」

今の説明は何だったのか?
意味が分からない。オーク族は無駄な苦労をすると言うこと?
並み居る隊長たちも顔を見合わせた。

「オーク族が攻城兵器を作っていることを城の連中情報を摑むだろう。それに対して対策を打つ。だがそれはフェイク。その間にゴブリン族がこの砦より穴を掘って城に侵入する。穴攻だ!」

そう叫んで広がっている地図に、この砦から城の中央に向かって黒インキでズイっと矢印を書いた。

穴攻! 父が前に人間の砦を落としたときの作戦だ。
しかし攻城兵器の準備をしていると目を引いているうちに、その実は穴を掘り進める。
なんて大胆な作戦なんだ!

みんな義父の奇略に驚きの声を上げた。
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