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転生の章 決戦篇

第35話 団長夫人の慰問

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その日の夜、また軍議を開き、義父シルバーが報告書を読み上げた。

「討ち死にしたゴブリン67名、オーク14名、ホブゴブリン7名、コボルド5名。失った攻城兵器5基」

ボクは深く頭を下げ、全員の前で敗戦の陳謝をした。

「申し訳ない。ホブゴブリン隊に魔法をかけているスキを狙われてしまった。魔法は他のコボルドに任せ、私は戦況を眺めているべきであった」

義父はボクの反省の言を聞き、慌てて報告書をクルクルと巻いてリボンを結びながらフォローしてくれた。

「今日の失敗は明日への成功のため。よき勉強になったと思いなされ。……さて、オーク兵はすまんがもう一度攻城兵器を作ってくれ。ゴブリン兵はそのまま穴攻を進めるのだ」

軍議は終了し、みんなそれぞれ自分の幕舎に帰って行ったが、ボクは落ち込んで下を向いたままだった。
そんなボクに義父は肩を叩いて慰めてくれた。

「たまに敗戦を経験しなくてはいかん。ブラウン将軍も何度も敗戦した。だが同じ失敗をしなかったのだ。チャブチもここへ来て、自分の用兵で砦を二つ落としたじゃないか」
「うん……。でもボク、初戦で500のゴブリン兵を失ってしまって、また……。さすがに嫌になります」

義父は首を横に振った。

「勝敗は兵家の常だ。それで気落ちするな」
「う、うん……」

しかし、なおも顔を上げれないボクに

「あのなぁ。チャブチ。三軍得やすく一将求め難しと言う。兵士は集められても指揮する将校はそう簡単には見つからんのだ。我が軍はゴールドを失ったが、かの国はラインホルトとエドワードを失った。その二人を討ち取ったのは他ならぬチャブチ。オマエではないか。プラマイプラだ! その調子だぞ。ふふふ」

と褒めてくれた。


義父に慰められ、少し元気を取り戻したボクは幕舎に戻り、机に座って国元のピンクに手紙を書いた。

「ピンク。ここに君がいないのが寂しくて仕方がない。キミの香りが忘れられない。ボクは憐れなやつなんだ。今日敗戦してしまった。キミの父君に慰められた。このつらさを忘れるのに君を思い切り抱きしめたい。抱きたいんだ」

その手紙を出して6日目。砦に二頭立ての黒い馬車が入って来た。
ピンクだった。ブルーのドレスに身を包み、大きな羽根つきの帽子。まるで都の貴族の女性のようだ。それに続いて軍服姿の七歳の長男、六歳の次男の息子二人と共に馬車から降りた。


ボクと義父はそれを両手を広げて迎えた。
息子たちはすぐにボクに飛びついて来たがボクの視線はドレス姿のピンクだ。なんて美しい……。
ボクは子供の背中をポンポンと叩いて、うわの空気味に義父の方へ体を向けた。

「おじいちゃんに軍隊を見せてもらいなさい」

義父シルバーに向けて子供の背中を押すと、子供たちは義父の元へ走り出した。

「うん、おじーちゃん、いこー!」
「はっはっは。そうかそうか。ではおじいちゃんと行くか」

歴戦の猛者、義父シルバーの顔がほころんで孫二人をつれてオークの攻城兵器をつくる現場に向かったようだった。


ボクはすぐにピンクに近づいて、その手をひいた。

「なんと美しい……」
「あら? 今頃気付きまして?」

「……うん。今頃」

彼女は笑っていた。昔ならば平手打ちをしたが、ここには他の兵士たちもいる。団長の妻というものには自由が無いのだと思った。
人目をはばからず、彼女の手を引いてボクの幕舎に入れると、強引に下着をはぎ取って首筋に噛みついた。

「ああん……。お茶も飲みませんの??」
「ああ。もうガマンできん」

そしてすぐに彼女と快楽を共にした。
ボクは乱れた彼女の髪を舌でなめて毛づくろいをした。

「もう、せっかちなんだから」
「ゴメンゴメン。いいじゃないか」

すでに二人とも素っ裸で寝台の上の睦言。
彼女の露出している肌をじっくりと撫でまわした。

「ベジュとキャメルはここにいるが他の子は?」

と訪ねると

「あら? あなたには何人妻がいまして? 他にも家政婦もばあやもいますので心配はいりませんよ」

と言いながら彼女は立ってもう一度着なおした。今度は軍服だった。

「さ、団長閣下。夫人とともに兵士を慰問しましょう。威厳をもって」
「あ。そうか」

彼女は考えていた。ボクは彼女を抱くことしか考えていなかったが、夫人がくるということはそれなりに理由があるものだものな。
ボクは彼女をつれて、それぞれの陣に向かった。

まずは攻城兵器を作製しているオークの陣。
ボクたちがくると、オークのファッティ副団長は作業を中断させ、全員を規律正しく整列させた。
彼女は前列のオークに握手を求めた。

「まぁ、なんて太い腕。これで器用に兵器を作られるのね!」

と言うと、彼らは照れて頭を掻いた。


続いてホブゴブリンの陣へ。
ホブゴブリンの副団長も同じように整列させる。
彼女はまたも兵士たちと握手をした。

「相変わらず大きな手ね! この自慢の腕で敵をなぎ倒すのね!」

と言うと、彼らはフフフと笑い、緊張した陣も穏やかな雰囲気となった。


そして一番、兵を失い作戦の要であるゴブリンの陣。
ゴブリンの副団長は穴で作業しているものを入り口まで集め、ピンクに覗かせた。
作戦中で人間に勘付かれてはまずい。
彼女は穴を覗きながらの慰問をした。

「糧秣はちゃんと正規の量が配られていますか? 寒くはありませんか? ご家族が恋しいでしょう。もう少しの辛抱ですよ。我ら鬼族の領土が増え、生活がもっと楽になります。あなた方の踏ん張りが我々の未来を変えるのです」

と声をかけた。さすが、義父シルバーの娘だ。
戦士たちは彼女の言葉に涙を流して「団長夫人万歳」と小さく叫んだ。
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