コボルド将軍の息子 ──チャブチ

家紋武範

文字の大きさ
38 / 47
転生の章 決戦篇

第37話 母への手紙

しおりを挟む
深夜にたいまつをつけた黒い馬車が砦を出て行った。
妻を……。ピンクを乗せた馬車が……。
ボクはそれを砦の壁の上から見送ることしかできなかった。

自分のテントに戻り、力を失ってドッカリと寝台に音を立てて座った。
そこに、コノハがボクの肩によじ登って絡みついて来たが、ボクは下を向いてふさぎ込むことしかできなかった。
ボクに反応がないので、彼女はボクの腰に絡みついて性器を触り始めた。
すぐにボクはその気になってまた交わってしまい、情事を終え平静になると、またやってしまったと反省した。
このままではピンクに完全に嫌われてしまう。
ボクはもうどうしようもなくなって、母ユキに執り成してもらおうと正直に手紙をしたためることにした。

「お母さん、久しぶりに書をいたすことをお許しください。ボクは今戦場に出ています。そこで女を拾いました。それを叔父に咎められ、悪びれないでいたら、叔父は自殺してしまいました。そして、今日ピンクに女のことが露見してしまい、彼女を怒らせてしまいました。彼女は離縁するといいました。ボクはどうすればよいのでしょう? 昔、お母さんに叱られたときに素直に聞いておけば叔父も死なず、ピンクもこんなことを言わなかったのでしょう。ボクはピンクさえいればそれでいいのです。側室も家に帰してもいいです。しかし、もう子供もいますし、おそらくここにいる拾った女もすでに懐妊していると思います。ボクの身持ちの悪さです。ですが子供たちには罪はありませんのでどうにもなりません。どうか、お母さん、ピンクに離縁を考え直すように言っていただけませんか?」

その手紙を早馬で飛ばすと、次の日には母ユキの元に届いていた。
母は手紙を見て天を仰いで嘆息した。

「彼のために一族が隆盛し、彼のために一族がダメになっていく……」

母は手紙をたたみ、ボクの屋敷に向かった。
外には黒い馬車が止められすでにピンクは帰ってきているようだった。

母を見ると、子どもたちが寄ってきて抱き着いて来た。
母は孫たちの頭をそれぞれ撫でてやって、家の中に入って行った。
ピンクはイスに座ってボウっとしていたが、母に気付いて立ち上がって一礼した。

「お義母さま。気付きませんで……。申し訳ありません」

母はその横に進んでピンクの手を握ると共に座って握った手を自分の膝の上においた。
二人はしばらくそのまま。
ピンクはうつむいて、ボクとのことを母に相談したのだ。

「私……。チャブチにひどいことを言ってしまって……。そんな気持ちないくせに離縁なんて……」

だが母は愉快そうに笑った。
ピンクは何が面白いのか分からなかったようだった。

「あら、いいじゃない離縁」

ピンクは驚いて「え?」と言った。
自分の不手際だ。義母に嫌われても仕方がないとも思ったが、母の言葉はその逆だった。
母はピンクにボクからの書簡を見せた。

「ごめんね。息子の教育が悪過ぎたわ。でもあなたのことは大好きみたいね。こらしめるために孫も、ジュンも、キャラも連れてワタクシのお屋敷にいらっしゃいな。貴女たちを全員収容するくらいわけないわよ。もうあの英雄をみんなで見限っちゃいましょう。うふふふふふ」

ピンクは母の真意がわかり、二人は顔を見合わせてイタズラっぽく笑った。


それからボクは母からの返信がないことでイライラしていた。
コボルドの副団長を呼んで動きが機敏で優秀なスパイを三人も借りた。

「閣下は人間の城にこやつらを忍び込ませようと言うのですな。なるほど。見つかれば大騒ぎですが、彼らならやってくれるでしょう」
「いや、違う……」

「……と、おっしゃいますと?」
「母だ。母ユキが何をしているのか? 手紙の返事が返ってこない。病気なら病気と返信してくるだろうがそれも無い。悪いが母、そして正妻のピンクが何をしているか探ってきてくれ。もしも、ピンクに男の影があったらそれも教えてくれ!」

スパイたちはすぐに国元に走って探り始めた。
彼らが見たものは、まるで貴婦人の旅行のように、楽しそうに荷車に家財を積んで、先のコボルド将軍夫人の家に家移りしている様子だった。

彼らはそれをボクに伝えてきた。
みんなボクを見限って出て行ってしまい、屋敷の中にはいないと言うことを。
そしてどうやら母の家にいるらしい。

もう、どうすることも出来ない。為す術無しだ。
妻たちも母も、もうボクが嫌いになってしまったのだ。
ボクはひとりぼっちだ!

やきもきして、戦でもかなり熱が入ってしまい、敵の重騎兵に単騎で斬り込みを敢行し大こん棒で数十騎殴り倒した。
ホブゴブリンたちはボクの勇猛さに拍手を送ってくれたが、一番認めて欲しいはずの義父は、またも眉毛を吊り上げて叱ってきた。

「そんなもの、大将がする戦じゃありません!」

もうどうすりゃいいのか?
父を失い、叔父を失い、ピンクや側室たちに嫌われ、義父だってピンクがそんな様子だったらボクのことを放り投げるに違いない。
一族の中に居場所がなくなり、自信がどんどん失われていってしまうことを感じた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...