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第7話 男のレベルアップ
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朝起きると、すぐ近くに麗の顔がある。
いつまでも見ていたいが出勤しなくてはならない。
「レーイ」
麗はゆっくりと目を開けて微笑むと、オレの下唇に指で触れる。
彼女を寝かせたままキスをして立ち上がった。
「なーん」
「会社に行ってくるぞ」
「なー」
洗面台で身だしなみを整え、その間に食パンを二枚焼く。
一枚は麗のため。一枚はすぐ食べた。
ワイシャツを着てスラックスに足を通す。それを麗はベッドに横たわりながら笑顔で見ていた。
ネクタイを締め、上を羽織れば出勤準備完了。
オレはキーホルダーから、鍵を一つ外した。
「レイ。これは二人の部屋の鍵。ひとつしかないから、週末合鍵を作りに行こう。今週はこれ預けておくから。戸締まりちゃんとするんだぞ」
「えー。レイ分かんない」
「鍵を穴に入れて回せば閉じられるよ」
「いいや。出ないから」
「飯のおかずはどうすんだよ」
「……うーん。分かった」
オレは電車の時間があるので玄関に急いだ。麗はそれにちょこちょこついてくる。
「なーん」
「早く帰ってくるから。ご飯よそってチキン食べろよ? レンジは使えるよな」
「なーん」
「昨日した洗濯物干せよ。頼むぞ」
「なーん」
「掃除機はクローゼットにあるから。窓開けて空気の入れ換えもすること」
「なーん」
「じゃ、いってくる」
麗は目を閉じて唇を出してきた。
なんて可愛い。
それに軽いキス。そして、部屋を飛び出した。
駅から通勤電車に揺られて30分。
今日は景色が違う。
顔の筋肉が緩む。
余裕があるってこういうことなんだろうなと思った。
微笑みを浮かべながら出社。
「おはようございます!」
「あ、おはよう」
自分の会社の紙媒体のデザイン会社。
そこそこ有名だが、給料は高くはない。
でも麗一人なら何とかなるかな?
先週残していった熱帯魚のパンフレットのデザインを始める。
今日中に出稿するため、校正のチームに早々に渡さなくてはならない。
先週までにやっていたものはすでにプリントしている。
それをまず渡しに行き、残りは午後一との話を取り付けに行った。
「じゃ、これ先週話してたヤツ。よろしくお願いします」
「あ、はい。あれ? 先輩、ちょっと様子かわった?」
聞いてきたのは同じ専門学校の後輩だった、柿沢唯。
そこからの付き合いなのだが、女子に免疫が無かったオレは、今までは言葉少な目だった。
「ふふ。なんで?」
「なんか余裕が出来たっていうか、楽しそうっていうか」
「あっそ。分かる?」
「まさか、彼女とか?」
「よく分かったな。その通りだよ」
「……え?」
「ようやく、オレの人生にも光が射してきたぞぉ。柿沢」
「あっ。そうですか。仕事中なんで、私語はやめていただけます?」
少し語気が強くなる。怒ってることを感じた。余計なこと言い過ぎたかな。
女子は怖い。気弱なオレはビクつきながらデスクに戻った。
途中、DMやA4チラシなど細かい仕事があったものの楽勝。この調子なら定時で帰れるぅ。そしたら麗が晩ご飯を用意してくれてるぞぉ。……出来合いだけど。
ニヤニヤしていると、女上司である、アラサーの畑中さん。
オレの目の前に新たな伝票を出してきた。
「明るいな」
「マジですか?」
「出来たな」
「ありがとうございます」
それだけだった。眼鏡の奥がキラリと光る。
やはり、センスのいい人は気付くのが早い。
尊敬する畑中さんに気付かれて少し嬉しくなった。
午後三時。バサリと目の前に突き出される校正用紙。
柿沢だ。思わず恐怖の目。彼女は席に座るオレを見下ろしていた。
「ちゃんと原稿みましたかぁ~」
「え? あの……」
「見たかどうかです。イエスかノーでお答え下さい!」
「あの、その。……イエス」
「見てこれですか。呆れます。修正してすぐ持ってきて下さい!」
ピシャリ。課内がザワつく。
いつも温厚な柿沢が。畑中さんが、心配して近くに来てくれた。
「なんだ? サイズでも違ったか? 仕様が間違ってるか?」
「い、いえ。伝票通りですが……」
中を改めてみてみると、ピンクの付箋が一箇所。
ただ、原稿が平仮名に対し、漢字になってるだけだった。
「なんかあったのか?」
「いえ……」
「ふーん。複雑になっちまったか?」
畑中さんはニヤリと笑ったが、意味は分からなかった。
いつまでも見ていたいが出勤しなくてはならない。
「レーイ」
麗はゆっくりと目を開けて微笑むと、オレの下唇に指で触れる。
彼女を寝かせたままキスをして立ち上がった。
「なーん」
「会社に行ってくるぞ」
「なー」
洗面台で身だしなみを整え、その間に食パンを二枚焼く。
一枚は麗のため。一枚はすぐ食べた。
ワイシャツを着てスラックスに足を通す。それを麗はベッドに横たわりながら笑顔で見ていた。
ネクタイを締め、上を羽織れば出勤準備完了。
オレはキーホルダーから、鍵を一つ外した。
「レイ。これは二人の部屋の鍵。ひとつしかないから、週末合鍵を作りに行こう。今週はこれ預けておくから。戸締まりちゃんとするんだぞ」
「えー。レイ分かんない」
「鍵を穴に入れて回せば閉じられるよ」
「いいや。出ないから」
「飯のおかずはどうすんだよ」
「……うーん。分かった」
オレは電車の時間があるので玄関に急いだ。麗はそれにちょこちょこついてくる。
「なーん」
「早く帰ってくるから。ご飯よそってチキン食べろよ? レンジは使えるよな」
「なーん」
「昨日した洗濯物干せよ。頼むぞ」
「なーん」
「掃除機はクローゼットにあるから。窓開けて空気の入れ換えもすること」
「なーん」
「じゃ、いってくる」
麗は目を閉じて唇を出してきた。
なんて可愛い。
それに軽いキス。そして、部屋を飛び出した。
駅から通勤電車に揺られて30分。
今日は景色が違う。
顔の筋肉が緩む。
余裕があるってこういうことなんだろうなと思った。
微笑みを浮かべながら出社。
「おはようございます!」
「あ、おはよう」
自分の会社の紙媒体のデザイン会社。
そこそこ有名だが、給料は高くはない。
でも麗一人なら何とかなるかな?
先週残していった熱帯魚のパンフレットのデザインを始める。
今日中に出稿するため、校正のチームに早々に渡さなくてはならない。
先週までにやっていたものはすでにプリントしている。
それをまず渡しに行き、残りは午後一との話を取り付けに行った。
「じゃ、これ先週話してたヤツ。よろしくお願いします」
「あ、はい。あれ? 先輩、ちょっと様子かわった?」
聞いてきたのは同じ専門学校の後輩だった、柿沢唯。
そこからの付き合いなのだが、女子に免疫が無かったオレは、今までは言葉少な目だった。
「ふふ。なんで?」
「なんか余裕が出来たっていうか、楽しそうっていうか」
「あっそ。分かる?」
「まさか、彼女とか?」
「よく分かったな。その通りだよ」
「……え?」
「ようやく、オレの人生にも光が射してきたぞぉ。柿沢」
「あっ。そうですか。仕事中なんで、私語はやめていただけます?」
少し語気が強くなる。怒ってることを感じた。余計なこと言い過ぎたかな。
女子は怖い。気弱なオレはビクつきながらデスクに戻った。
途中、DMやA4チラシなど細かい仕事があったものの楽勝。この調子なら定時で帰れるぅ。そしたら麗が晩ご飯を用意してくれてるぞぉ。……出来合いだけど。
ニヤニヤしていると、女上司である、アラサーの畑中さん。
オレの目の前に新たな伝票を出してきた。
「明るいな」
「マジですか?」
「出来たな」
「ありがとうございます」
それだけだった。眼鏡の奥がキラリと光る。
やはり、センスのいい人は気付くのが早い。
尊敬する畑中さんに気付かれて少し嬉しくなった。
午後三時。バサリと目の前に突き出される校正用紙。
柿沢だ。思わず恐怖の目。彼女は席に座るオレを見下ろしていた。
「ちゃんと原稿みましたかぁ~」
「え? あの……」
「見たかどうかです。イエスかノーでお答え下さい!」
「あの、その。……イエス」
「見てこれですか。呆れます。修正してすぐ持ってきて下さい!」
ピシャリ。課内がザワつく。
いつも温厚な柿沢が。畑中さんが、心配して近くに来てくれた。
「なんだ? サイズでも違ったか? 仕様が間違ってるか?」
「い、いえ。伝票通りですが……」
中を改めてみてみると、ピンクの付箋が一箇所。
ただ、原稿が平仮名に対し、漢字になってるだけだった。
「なんかあったのか?」
「いえ……」
「ふーん。複雑になっちまったか?」
畑中さんはニヤリと笑ったが、意味は分からなかった。
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