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第57話 ボクとこねことおおかみと
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『ボクとこねことおおかみと』
え・ぶん おさかなたいし
ボクは魚のエンジニアだぞ。
自分で作った水槽付きの車で世界中の陸地を旅するんだ。
だけど、あれれ。
途中で片方のタイヤが飛んでっちゃった。
これじゃ車は進めない。
水槽の水も汚れてくるし、海を出るんじゃなかったなぁ。
そんなことを考えていると、通りがかったのは一匹のこねこ。
ボクは食べられちゃうかと思って水槽の中で震えた。
でもこねこは優しかったんだ。
「なー。どうしたの?」
「タイヤが外れちゃって前に進めないんだ」
「ならボクのウチへおいでよ」
「ボクを食べないの?」
「ボクはひとりぼっちだから家族が欲しいのさ」
ボクたちは家族になった。
小さい段ボール箱のおうちにお椀に水を入れて。
仲良く楽しく暮らしてたんだ。
こねこはいつもパンを持ってきてくれた。それをちぎってお椀に入れてくれる。
「なー。おいしいかなー」
「うん。おいしいよ。いつもありがとう」
でもあるときパン屋さんがやって来て、こねこを捕まえてしまった。
「ドロボウこねこめ。とうとう捕まえたぞ」
「こねこくん。ドロボウをしたの? ボク信じられないよ。もう絶交だ」
こねこは寂しい顔をしてパン屋さんに連れて行かれたんだ。
でも気付いた。今まで食べてたパンはどこから来たのだろう?
「こねこくんは、動けないボクのために仕方なくドロボウをしたんだ。ドロボウは悪いことだけど、元はと言えばボクがここに来たからじゃないか」
ボクは泣いた。泣きすぎてお椀の中の水があふれたけど泣き続けたんだ。
そこに通りかかったのは、おおかみだった。
おおかみは旅の途中で泣いているボクを気にしてくれたのだ。
「どうしたんだ。泣くんじゃない。食っちゃうぞ」
「食べないで。食べられたらこねこくんに会えなくなっちゃう」
「こねこくんはどこに行ったんだ」
「ドロボウをした彼に絶交って言ったら寂しくパン屋さんに連れて行かれちゃったんだ。ボクはこねこくんに謝りたい!」
「だがどうやって?」
「タイヤさえ見つかれば、車を直して彼の元に行けるのに」
「タイヤだって? あれかなぁ?」
おおかみが指したのは木のてっぺん。
そこにはボクの車のタイヤがあった。
でも魚のボクには木登りは出来ないと、また泣いてしまったんだ。
「よし。オレが取ってきてやる」
おおかみは、するするすると木に登るとタイヤを取ってくれた。
「とったぞ!」
にこやかにタイヤを片手に微笑むものの、バランスを崩して真っ逆さま。おおかみは地面と衝突してしまったのだ。
「おおかみさん!」
「なんてこった。このおおかみさまとあろうものが」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ボクのために」
「なぁに。大丈夫だ。はやく車を修理してこねこを探しに行け」
おおかみさんはそう言うと、痛そうに体を引きずりながらどこかへ行ってしまった。
ボクは泣いた。泣き続けた。
親切なおおかみさんを思うと涙が止まらなかったんだ。
でもどこからかおおかみさんから声が聞こえたんだ。
「バカだなぁ。食われたいのかよ。さっさとこねこくんのところへいけよ」
それは、空耳だったのかも知れない。
でもおおかみさんの強がったアドバイスだと思ったんだ。
ボクは車を直してパン屋さんに行くと、こねこは謝ってようやく許してもらったところだった。
でも、ボクの姿を見ると寂しそうに背中を向けたのだ。
「こねこくん! ボクがバカだった。キミはボクのためにパンを持ってきてくれたのに。もう一度、家族になってくれないか?」
こねこは嬉しそうに「なーん」と泣いた。
それからボクはこねこと家族になって幸せに暮らしたんだ。
世界旅行の夢はいつか二人でかなえればいい。
ボクたちは段ボールの家に小さい魚の形をした旗を立てた。
おしまい
え・ぶん おさかなたいし
ボクは魚のエンジニアだぞ。
自分で作った水槽付きの車で世界中の陸地を旅するんだ。
だけど、あれれ。
途中で片方のタイヤが飛んでっちゃった。
これじゃ車は進めない。
水槽の水も汚れてくるし、海を出るんじゃなかったなぁ。
そんなことを考えていると、通りがかったのは一匹のこねこ。
ボクは食べられちゃうかと思って水槽の中で震えた。
でもこねこは優しかったんだ。
「なー。どうしたの?」
「タイヤが外れちゃって前に進めないんだ」
「ならボクのウチへおいでよ」
「ボクを食べないの?」
「ボクはひとりぼっちだから家族が欲しいのさ」
ボクたちは家族になった。
小さい段ボール箱のおうちにお椀に水を入れて。
仲良く楽しく暮らしてたんだ。
こねこはいつもパンを持ってきてくれた。それをちぎってお椀に入れてくれる。
「なー。おいしいかなー」
「うん。おいしいよ。いつもありがとう」
でもあるときパン屋さんがやって来て、こねこを捕まえてしまった。
「ドロボウこねこめ。とうとう捕まえたぞ」
「こねこくん。ドロボウをしたの? ボク信じられないよ。もう絶交だ」
こねこは寂しい顔をしてパン屋さんに連れて行かれたんだ。
でも気付いた。今まで食べてたパンはどこから来たのだろう?
「こねこくんは、動けないボクのために仕方なくドロボウをしたんだ。ドロボウは悪いことだけど、元はと言えばボクがここに来たからじゃないか」
ボクは泣いた。泣きすぎてお椀の中の水があふれたけど泣き続けたんだ。
そこに通りかかったのは、おおかみだった。
おおかみは旅の途中で泣いているボクを気にしてくれたのだ。
「どうしたんだ。泣くんじゃない。食っちゃうぞ」
「食べないで。食べられたらこねこくんに会えなくなっちゃう」
「こねこくんはどこに行ったんだ」
「ドロボウをした彼に絶交って言ったら寂しくパン屋さんに連れて行かれちゃったんだ。ボクはこねこくんに謝りたい!」
「だがどうやって?」
「タイヤさえ見つかれば、車を直して彼の元に行けるのに」
「タイヤだって? あれかなぁ?」
おおかみが指したのは木のてっぺん。
そこにはボクの車のタイヤがあった。
でも魚のボクには木登りは出来ないと、また泣いてしまったんだ。
「よし。オレが取ってきてやる」
おおかみは、するするすると木に登るとタイヤを取ってくれた。
「とったぞ!」
にこやかにタイヤを片手に微笑むものの、バランスを崩して真っ逆さま。おおかみは地面と衝突してしまったのだ。
「おおかみさん!」
「なんてこった。このおおかみさまとあろうものが」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ボクのために」
「なぁに。大丈夫だ。はやく車を修理してこねこを探しに行け」
おおかみさんはそう言うと、痛そうに体を引きずりながらどこかへ行ってしまった。
ボクは泣いた。泣き続けた。
親切なおおかみさんを思うと涙が止まらなかったんだ。
でもどこからかおおかみさんから声が聞こえたんだ。
「バカだなぁ。食われたいのかよ。さっさとこねこくんのところへいけよ」
それは、空耳だったのかも知れない。
でもおおかみさんの強がったアドバイスだと思ったんだ。
ボクは車を直してパン屋さんに行くと、こねこは謝ってようやく許してもらったところだった。
でも、ボクの姿を見ると寂しそうに背中を向けたのだ。
「こねこくん! ボクがバカだった。キミはボクのためにパンを持ってきてくれたのに。もう一度、家族になってくれないか?」
こねこは嬉しそうに「なーん」と泣いた。
それからボクはこねこと家族になって幸せに暮らしたんだ。
世界旅行の夢はいつか二人でかなえればいい。
ボクたちは段ボールの家に小さい魚の形をした旗を立てた。
おしまい
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