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第7話 救助隊 などいない
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まだ太陽は登らないが、空は白く明るくなりかけたころ。
ラースは「フガー」といいながらよだれを垂らして無様に寝ていたが、パッチリと目を覚まし、私がたき火の管理をしているのを見てその場に土下座した。
「ま、まさか姫に火の番をさせてしまうとは。ラース面目次第もございません」
平伏する様にますます腹が立った。
しかし、ここから国境までの道程。この男、使えるかも知れない。
私は今まで魔法を使える人を見たことがない。
そういうものがいるとは知ってはいたが、実際に会ったのは初めてだ。そして、私を空中に放り投げるほどの怪力。
そのくらいの能力がなければこの敵地の中心部には入り込めないということだろう。
しかし、ここまでたった一人だったのだろうか?
そんなはずはない。仲間がいなければならない。
ひょっとしたら、もうその辺に救助隊がいて待っているのでは?
その隊長がリカルドとかパトリックというのもあり得るわ。
そしたら手柄は隊長のもの。
ふふ。そうよ。きっとそうなんだわ。
「ねえラース。救助隊の本隊はどの辺にいるのかしら?」
「え? 救助隊?」
「そうよ。私を助けるために結成された救助隊がいるのでしょう? あなたはその隊の隊員なのよね?」
ラースは首をひねって不思議そうな顔をした。
「そういう部隊がいるとは聞いておりませんでした。私は国王陛下に召しだされ、王女殿下の救出に一人でやってきたのです」
想像からかけ離れている──。
一人。ひとり。独りで来た。
こんな年端もいかない子どもに頼むほど我が国には人材がいないのかしら?
いや、そんなことないわ。
リカルドやパトリックはどうしてるのかしら?
「騎士長リカルドや近衛兵長パトリックはどうしてるのかしら? そのぉ、ファーガス将軍とかは?」
「は。あのぉ。リカルド様やパトリック様は救出は無理と進言されまして、王女殿下を継承権より外し、新たに国王陛下の弟君に継承権を渡すよう運動していると聞きました」
「は、はぁ!? な、なぜ?」
「い、いえ、私は政治には疎いですし、そのようなことまでは分かりません……」
「ファーガス将軍は?」
「たしか、戦で負けまして降伏し、魔王軍配属されていると……」
「な、なんですって!?」
「スイマセン! 聞いた話なのですが」
「……その話はそなたの聞き間違いであろう。控えなさいラース。流言飛語にかかってはなりません」
「流言飛語……。なるほど、敵の流した噂かも知れませんね。以後控えます」
「そうよ……」
そうよ。そう。きっとそうだわ。
リカルドやパトリックが叔父のガラハッドに国権を委ねるように運動しているだなんて。
たしかに──。
叔父は野望高き人。リカルドやパトリックを抱き込む謀略に長けているといえばそうよ。
私が誘拐されてからしめたと思って、重臣たちを抱き込んだんだわ。
市井の民であるラースまで噂が流れているということは敵の謀略も考えられるけど、本当にそうなっているということも考えていた方がいいわ。
お父様の権力もすでに奪われて久しいのではないかしら。
そうだったらどうしよう。私に帰る場所はあるのかしら……。
ファーガスはもうどうでもいいか。
ラースは荷物をまとめ、それを背負い込み、武器のベルトが安全かどうか確かめてから、靴の紐を結び直していた。
「これラース。質問があります」
「は、はい。なんでしょう」
「お父様はなぜあなたを指名したのかしら。そしてそのご褒美はあるのかしら?」
「は。陛下はもう頼める人が少なくなってしまったと。王女殿下を秘密裏に救出しなければ国の全てを奪われてしまうとおっしゃっておりました。そこで私を見つけ出して密命を下したのです」
なるほど。やはり叔父ガラハッドの権力が増しているようね。
私がいなければ、国権の禅譲を迫るつもりかも知れないわ。これは猶予がないのかも。
「それで? ご褒美は?」
「いや、それは、あのぅ」
「いいなさい。おそらく私を嫁に与えるとか言われなかった?」
「は、はい」
「まぁ。やっぱり。でも会って幻滅したでしょ? キツイ君主だと思ったでしょう?」
「いえ、あの」
「はっきりしないわね。正直におっしゃい」
「あのぅ。実は私、13歳の頃に薪を売りに町に出まして。その時、初めて姫の姿絵が飾られているのを見たのです」
「はぁ……で? っていう」
「あの時から……姫に恋をしているのでございます……」
真っ白──。
こんなちんちくりんが私に恋をしているですって?
うーん。上から、下まで見てみたけど、やっぱりどれをとってもないわね。
うん。ない。惚れる要素がない。もう少し気品というか洒落っ気というか威厳というか。
そういうものが兼ね備わってないんだわ。
え? 13歳の頃?
プ。正直、この身長だから12歳くらいだと思ってたわ。
今いくつなのかしら。
「ラースは今いくつなの?」
「は。わたくしめは今15歳でございます」
15歳だってぇーーーッ!
私と一つしか違わないじゃない。
つーか、この身長140cmくらいの小男が15歳だなんて信じられないわ。
人間? よねぇ。でも種族が違うのかも知れないわ。
「それに魔法とか力とか。あなたは普通の人とは少し違っているようね。お父様が探して頼むくらいだからなにか特殊な地域のものなのかしら?」
「いえ。普通の人間です。しかし血は大分薄くなってはおりますが、ユークの末裔です」
ユーク!
ユーク?
誰だっけ。
ラースは「フガー」といいながらよだれを垂らして無様に寝ていたが、パッチリと目を覚まし、私がたき火の管理をしているのを見てその場に土下座した。
「ま、まさか姫に火の番をさせてしまうとは。ラース面目次第もございません」
平伏する様にますます腹が立った。
しかし、ここから国境までの道程。この男、使えるかも知れない。
私は今まで魔法を使える人を見たことがない。
そういうものがいるとは知ってはいたが、実際に会ったのは初めてだ。そして、私を空中に放り投げるほどの怪力。
そのくらいの能力がなければこの敵地の中心部には入り込めないということだろう。
しかし、ここまでたった一人だったのだろうか?
そんなはずはない。仲間がいなければならない。
ひょっとしたら、もうその辺に救助隊がいて待っているのでは?
その隊長がリカルドとかパトリックというのもあり得るわ。
そしたら手柄は隊長のもの。
ふふ。そうよ。きっとそうなんだわ。
「ねえラース。救助隊の本隊はどの辺にいるのかしら?」
「え? 救助隊?」
「そうよ。私を助けるために結成された救助隊がいるのでしょう? あなたはその隊の隊員なのよね?」
ラースは首をひねって不思議そうな顔をした。
「そういう部隊がいるとは聞いておりませんでした。私は国王陛下に召しだされ、王女殿下の救出に一人でやってきたのです」
想像からかけ離れている──。
一人。ひとり。独りで来た。
こんな年端もいかない子どもに頼むほど我が国には人材がいないのかしら?
いや、そんなことないわ。
リカルドやパトリックはどうしてるのかしら?
「騎士長リカルドや近衛兵長パトリックはどうしてるのかしら? そのぉ、ファーガス将軍とかは?」
「は。あのぉ。リカルド様やパトリック様は救出は無理と進言されまして、王女殿下を継承権より外し、新たに国王陛下の弟君に継承権を渡すよう運動していると聞きました」
「は、はぁ!? な、なぜ?」
「い、いえ、私は政治には疎いですし、そのようなことまでは分かりません……」
「ファーガス将軍は?」
「たしか、戦で負けまして降伏し、魔王軍配属されていると……」
「な、なんですって!?」
「スイマセン! 聞いた話なのですが」
「……その話はそなたの聞き間違いであろう。控えなさいラース。流言飛語にかかってはなりません」
「流言飛語……。なるほど、敵の流した噂かも知れませんね。以後控えます」
「そうよ……」
そうよ。そう。きっとそうだわ。
リカルドやパトリックが叔父のガラハッドに国権を委ねるように運動しているだなんて。
たしかに──。
叔父は野望高き人。リカルドやパトリックを抱き込む謀略に長けているといえばそうよ。
私が誘拐されてからしめたと思って、重臣たちを抱き込んだんだわ。
市井の民であるラースまで噂が流れているということは敵の謀略も考えられるけど、本当にそうなっているということも考えていた方がいいわ。
お父様の権力もすでに奪われて久しいのではないかしら。
そうだったらどうしよう。私に帰る場所はあるのかしら……。
ファーガスはもうどうでもいいか。
ラースは荷物をまとめ、それを背負い込み、武器のベルトが安全かどうか確かめてから、靴の紐を結び直していた。
「これラース。質問があります」
「は、はい。なんでしょう」
「お父様はなぜあなたを指名したのかしら。そしてそのご褒美はあるのかしら?」
「は。陛下はもう頼める人が少なくなってしまったと。王女殿下を秘密裏に救出しなければ国の全てを奪われてしまうとおっしゃっておりました。そこで私を見つけ出して密命を下したのです」
なるほど。やはり叔父ガラハッドの権力が増しているようね。
私がいなければ、国権の禅譲を迫るつもりかも知れないわ。これは猶予がないのかも。
「それで? ご褒美は?」
「いや、それは、あのぅ」
「いいなさい。おそらく私を嫁に与えるとか言われなかった?」
「は、はい」
「まぁ。やっぱり。でも会って幻滅したでしょ? キツイ君主だと思ったでしょう?」
「いえ、あの」
「はっきりしないわね。正直におっしゃい」
「あのぅ。実は私、13歳の頃に薪を売りに町に出まして。その時、初めて姫の姿絵が飾られているのを見たのです」
「はぁ……で? っていう」
「あの時から……姫に恋をしているのでございます……」
真っ白──。
こんなちんちくりんが私に恋をしているですって?
うーん。上から、下まで見てみたけど、やっぱりどれをとってもないわね。
うん。ない。惚れる要素がない。もう少し気品というか洒落っ気というか威厳というか。
そういうものが兼ね備わってないんだわ。
え? 13歳の頃?
プ。正直、この身長だから12歳くらいだと思ってたわ。
今いくつなのかしら。
「ラースは今いくつなの?」
「は。わたくしめは今15歳でございます」
15歳だってぇーーーッ!
私と一つしか違わないじゃない。
つーか、この身長140cmくらいの小男が15歳だなんて信じられないわ。
人間? よねぇ。でも種族が違うのかも知れないわ。
「それに魔法とか力とか。あなたは普通の人とは少し違っているようね。お父様が探して頼むくらいだからなにか特殊な地域のものなのかしら?」
「いえ。普通の人間です。しかし血は大分薄くなってはおりますが、ユークの末裔です」
ユーク!
ユーク?
誰だっけ。
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