囚われ姫の妄想と現実

家紋武範

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第12話 また見つかったけど、私のせいじゃない

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塔を出てから一週間。
もうどれくらい歩いただろうか。
ラースに聞いても「もう少しです」としか言わない。
まぁ、ラースとこうしている時間が楽しいからいいけど。

ラースが小川で取った川魚を、私の必殺の魔法ボルで焼く。
とたんにごちそうに早変わり。

「きゃぁ! ラース、見て、見てぇ」
「お見事でございます。姫」

最初は川魚なんて食べれないと思ってたけど、自分たちでとって調理したとなると味も格段に違ってくるわ。
岩塩を多めに削って食べるとうーん。デリシャス。

「私の魔法もバカにしたもんじゃないでしょう」
「まったくもって。素晴らしい腕前でございます」

それにこの魔法。不思議な力って面白いわ。
早く城に帰ってみんなに見せてやりたい気分。

「では姫。そろそろ参りましょう」

あーん。もっとラースとこうしてまったりしてたいのにぃ。
ここが敵地じゃなければなぁ。

はっ!
私ったらなんてはしたないことを。
でもこうして座ってたら、ラースが無理矢理また抱き上げるんじゃないかしら?

「姫、いかが致しました?」
「もう歩けないわ」

「……そうですか。ではキャンプの用意をいたしましょう」

そうかクソーっ!
ここはキャンプに適していたようだわ。
そうよね。だからこその休憩地。
こういうところにラースは抜け目がないのよねぇ……。

「はっ! 姫。身を低くしてあの大樹の影へ!」

驚いた様子のラースは荷物を背負い上げ、私を先頭にして大きな木の陰へと連れて行く。

まさか──!
キス?
恥ずかしいから物陰ってことかしらね?
やんやん。ラースったら恥ずかしがり屋さん。

しかしラースは大樹の影へ来ても寄り添うことはなく、大樹を背につけて辺りを警戒している。
なーんだ。

「また敵なの?」
「はい。ここは街道に近いのかも知れません。騎馬の馬蹄が聞こえます。早々に離れた方がよろしいかと」

「そんなぁ。あなたがやっつければいいじゃない」
「それが……あまり敵を呼び込むと、次から次へと追っ手が増えるかも知れないので……」

「なるほど、下策ってやつね」
「さ、さようにございます」

狭いのでラースに顔を近づけると、ラースは恥ずかしがって、身を仰け反った。
かーわいい。

「ぬぅ! いたぞ! 人間だ!」

ラースが余りに身を仰け反ったので、大樹から身をはみ出してしまったのだ。
そこを魔物に見つかった。激しい馬蹄の音がこちらに近づいてくる。

「ふ、不覚っ!」
「今度は、私じゃないわよね」

「仰せの通りで……」

ラースはそのまま剣を抜き、大樹の陰から飛び出す。
そういえば、ラースの戦いかたを見るのは初めてかも知れない。
塔の中での決戦は扉の向こうだったし、狼の大群に襲われたときは暗闇の中で魔法をくりだしてたっけ。
この前の小隊を全滅させたときは岩陰だったもんね。

騎馬は三騎。少ないようだが隊長はかなり大きい。いわゆる巨人というやつね。
塔にいたバースのような。
馬もみたこともない巨馬だわ。まるで像。太い足が六本もある。
あれではラースが踏みつぶされてしまう!

「姫には指一本触れさせない」
「やはりルビー王女と一緒か。しかし少々出遅れたと思ったが。先の部隊はもはや国境付近を捜索中だぞ。それがなぜまだ塔から15km地点でうろうろしている。このウスノロめ」

「はは……。グズとかノロイと言われるには慣れてしまったよ」

騎馬隊がラースを囲み、グルグルとその間合いを詰める。
ラースは一度剣を鞘に納めて身を低くした。

「ダメよラース! 剣をとりなさい!」
「ん? ルビー王女はあそこか」

一斉に魔物たちがこちらを向いた瞬間!
ラースは勢い良く剣を抜いてその場で一回転。

「いくぞ! シャイニングブレイク!」

ラースの体から、光りの剣の軌跡が波状になって魔物の体を通過する。
すると、その光りの通過した場所から魔物の体は真っ二つに切れて地面に大きな音を立てて落ちた。
巨馬も血を噴き出してその場に倒れた。

「ふぅ。姫、ご無事ですか」
「無事、無事。無事! すっごい! ラース! かっこよかったわよ!」

「ありがたき幸せに存じます」
「それにしても、まだ塔から15km地点なのかぁ」

「は。それは姫、私の案内不足でして」
「もーいーわよ」

「は、はい」

別に国境までまだまだとかどうでもいい。
だってラースとこうして一緒にいる時間が増えるってことだもの。
でも国には早く帰らなくちゃならないというジレンマ。
あーん。ルビーったらどうしたらいい?
ん? ラースが巨馬の辺りを観察してるわね。

「姫、これはいい」
「どうしたのよ」

「この巨馬のくらを外し、ソリを作りましょう。これだけ大きいなら二人が乗るのも容易いでしょう。これで雪原の傾斜はラクラク進めます。滑らない場所は私が引いて進めばよいのですから」

スゴーい!
ラースったら何でも出来るのね!
名案だわ。歩き続けるのも疲れるしね。

「スゴいわラース。誉めてつかわす」
「は。ありがたき幸せに存じます」

ラースは巨馬より鞍を外し、ひっくり返した。
なるほど、二人が乗って荷物まで積めるわね。
前にはツタをくくりつけていつでも引っ張れる形。
左右に動けるように細工し、それを操作できるようにハンドルまでつけた。
すごいすごい。でもこれじゃ、二人きりの旅はあっという間に終わっちゃうんじゃない?
それはそれで残念な感じ。
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