囚われ姫の妄想と現実

家紋武範

文字の大きさ
20 / 36

第20話 ラースは大きい

しおりを挟む
ラースはしつこいくらい何度も私に口づけをする。私はそれに応えるよう、それを受けた。
その時、背後のしげみから音がする。
途端ラースの面持ちが変わり、私を背中に隠した。

「だれだ!?」

平然と現れたのは、身長80cmほどの小人。先ほどの魔物とは形態が違う。
白髪で年老いている優しそうな老小人。背中には薪を背負い、片手にはナタを持っていた。

「やれやれこれは大きな御仁ごじんじゃ。旅の方か?」
「そうだ」

私たちの身長は彼らの2倍。大きなと言われてラースは胸を張って応えた。

「ワシはピクシーのクピトと申します。この辺のもので、山にはたきぎを取りに来ておりました。旅の方なら大歓迎です。村には宿もございますので、立ち寄っていってくだされ」

そう言って、背中を向ける。ラースと私は顔を見合わせた。
ここは敵地。しかし私の体の疲れはまだまだ取れる様子がない。
魔力を使い切って、動くのも大変な有様だ。
ラースもそれに気付いて、私に向かって大きく頷いた。

「よ、よし。案内してもらおう」
「お安い御用で。足下にお気をつけ下されよ。お客人」

ラースは背中に荷物を背負い、私を片手に抱きながら老人の背中を追う。私はというと、話は出来るが歩ける体力はすでに無く、ラースに寄りかかりながら進んだ。

彼らピクシーの村は本当に小さい村だった。雪の中の小さな村。それもそのはず。彼らの身長自体が小さい。そこでは私たちは巨人のようだ。村人たちが集まってきて次々に自己紹介をする。

老人や青年、子どもたち。まるで人間の小さな村だ。私たちを人間だと知っているのだろうか?
だが彼らはそれに触れず、久々の客を歓待しようと準備を始めた。

「旅人は体が大きいので、宿は大きく作っております」

と老人クピトに案内されたのは小さな宿屋。ラースは満足に動けない私をソファへと運んでくれた。私がソファの背もたれに寄りかかると宿屋の主人が出てきて我々を見て驚いた。

「これは何という大きい方々だ」

普段自分たちの種族しか見てないのであろう。顔を見上げている。そこにはラースの顔。彼は大きいと言われて気をよくした。

「あー店主。あの方は私の主人なのだ。ご無礼がないように、それから部屋は分けてくれ」

ん? 部屋を分ける?

「ラース。いつも近くにいるのに部屋を分けるの?」
「いやぁ、さすがに同じ空間にいるのは──」

「お二人はご夫婦ではないのですか?」

店主の言葉にラースはたじろぐ。だが嬉しそうだ。

「まぁそのぅ。なんだ。護衛? まぁ将来は誓い合っているというか、恋人? 婚約者? ふふ。うーん。バカ。言わせるな。察せ」

照れてる。ラースのこんな姿初めて見た。

「では同室でも構わないのでは? 大きい方。ご主人もお守りせねばならないでしょうし」
「お、大きい? まぁ君たちから見ればそうだなぁ。大きいか? ふふ。まぁルビーさえ良ければ同室でもいいかな」

「そのほうが宿代も安いですよ」
「そうなんだよなぁ~。あー同室でもしょうがないかぁ」

ラースは完全に誉められて参ってしまっている。
同室──。
別に今までも一緒にいたし、特段不都合は無かろうと思ったが違った。案内される部屋に入るなり、ラースはわざとらしく大声を上げる。

「ああ、そうか! 夫婦と思っているから、ベッドがツインじゃない。ダブルだ~。しかししょうがない。同室なんだから。ねぇ、ルビー」

ラースの嬉しそうな声。こんなにいやらしい笑い方をする男だったとは。いささか呆れた。英雄色を好むとは言っても、嫌らしさの度合いが変な感じだ。そもそも私は魔法の使いすぎで動けないのだ。

ラースはそんなことなど構わず鼻息荒く私をベットまで運び、優しく下ろした。

「ルビー、体を拭いてあげようか?」

拭いては欲しいが、この下心丸出しの男に釘を刺しておかなくては。

「ああ私も疲れてしまった。一度横になろうかな──」

言いながら私の横に倒れ込み、その勢いのまま頬にキスしてきた。大胆さに驚いて首を彼の方に向けるとうっとりとした顔がそこにあった。

「ルビー、愛しているよ」

うおい! いや嬉しい!
嬉しいのよ?
私の妄想を超えちゃってるよ!
でもさ、でもさ、ラース急転換過ぎだよ。
それにここは敵地。
睦み合いの最中が危険って、この前で勉強するべきよ。

ラースは私のそんな思いなど関係なく、体を近づける。まだ満足に身を起こせない私に。

「ちょっとラース」
「なんだいルビー」

そう言いながら私の長い髪を一つ優しく摑み、自分の鼻先へと近づける。

「ラースがこれからしたいこと、分かるわ。すっごく分かる。私も同じ気持ちよ。でもここはまだ敵地よ。敵のいる真っ只中。そこで睦み合うのは時期尚早じゃなくて? ましてや私は王族。婚姻の約束を結ぶ前に救いに来た英雄に手をつけられましたとバレたらあなたも信用を失うのよ? 分かってる?」
「──分かってる。けど」

「けど、なに?」
「いや、分かってるけども~」

「だからなによ」
「ホラ、バレなければ。いいんです」

「そりゃバレないかもしれないけど、愛し合いすぎて妊娠したらどうするの?」
「それは──」

「うん」
「あー……」

完全にテンションのさがるラース。身を起こしてベッドの端に座り込んでしまった。
しかし、次の瞬間!
まるで戦闘になったときのような目で私に近づいてきた!

「じゃ、じゃ、じゃあ、抱き締めるだけ。抱き締めてキスするだけ。ね。ね。ね」

なんと可愛らしい!
今までのラースからは考えられない。
お預けをくらってなおも尻尾をふる犬のよう。

「あなたは、私が疲れて動けないのに、自分の欲望を消化することしか考えないの? おおいやだ」
「まぁまぁお姫さま、そんなこと言いっこなし」

そう言いながら寝ている私の横に寝転んだまま抱きしめる。
この自信はどうだ。おそらく、両想いになって、この村で、大きい巨人だと言われて男の自信がさらに上がったのだろう。
彼の温もりを感じながら私たちは一時の休息に落ちた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」  出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。  冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?  

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

聖女は秘密の皇帝に抱かれる

アルケミスト
恋愛
 神が皇帝を定める国、バラッハ帝国。 『次期皇帝は国の紋章を背負う者』という神託を得た聖女候補ツェリルは昔見た、腰に痣を持つ男を探し始める。  行き着いたのは権力を忌み嫌う皇太子、ドゥラコン、  痣を確かめたいと頼むが「俺は身も心も重ねる女にしか肌を見せない」と迫られる。  戸惑うツェリルだが、彼を『その気』にさせるため、寝室で、浴場で、淫らな逢瀬を重ねることになる。  快楽に溺れてはだめ。  そう思いつつも、いつまでも服を脱がない彼に焦れたある日、別の人間の腰に痣を見つけて……。  果たして次期皇帝は誰なのか?  ツェリルは無事聖女になることはできるのか?

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

王冠の乙女

ボンボンP
恋愛
『王冠の乙女』と呼ばれる存在、彼女に愛された者は国の頂点に立つ。 インカラナータ王国の王子アーサーに囲われたフェリーチェは  何も知らないまま政治の道具として理不尽に生きることを強いられる。 しかしフェリーチェが全てを知ったとき彼女を利用した者たちは報いを受ける。 フェリーチェが幸せになるまでのお話。 ※ 残酷な描写があります ※ Sideで少しだけBL表現があります ★誤字脱字は見つけ次第、修正していますので申し分ございません。  人物設定がぶれていましたので手直作業をしています。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完】お兄ちゃんは私を甘く戴く

Bu-cha
恋愛
親同士の再婚予定により、社宅の隣の部屋でほぼ一緒に暮らしていた。 血が繋がっていないから、結婚出来る。 私はお兄ちゃんと妹で結婚がしたい。 お兄ちゃん、私を戴いて・・・? ※妹が暴走しておりますので、ラブシーン多めになりそうです。 苦手な方はご注意くださいませ。 関連物語 『可愛くて美味しい真理姉』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高13位 『拳に愛を込めて』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高29位 『秋の夜長に見る恋の夢』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高17位 『交際0日で結婚!指輪ゲットを目指しラスボスを攻略してゲームをクリア』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位 『幼馴染みの小太郎君が、今日も私の眼鏡を外す』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高8位 『女社長紅葉(32)の雷は稲妻を光らせる』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 44位 『女神達が愛した弟』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高66位 『ムラムラムラムラモヤモヤモヤモヤ今日も秘書は止まらない』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高32位 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

『婚約破棄された聖女リリアナの庭には、ちょっと変わった来訪者しか来ません。』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
王都から少し離れた小高い丘の上。 そこには、聖女リリアナの庭と呼ばれる不思議な場所がある。 ──けれど、誰もがたどり着けるわけではない。 恋するルミナ五歳、夢みるルーナ三歳。 ふたりはリリアナの庭で、今日もやさしい魔法を育てています。 この庭に来られるのは、心がちょっぴりさびしい人だけ。 まほうに傷ついた王子さま、眠ることでしか気持ちを伝えられない子、 そして──ほんとうは泣きたかった小さな精霊たち。 お姉ちゃんのルミナは、花を咲かせる明るい音楽のまほうつかい。 ちょっとだけ背伸びして、だいすきな人に恋をしています。 妹のルーナは、ねむねむ魔法で、夢の中を旅するやさしい子。 ときどき、だれかの心のなかで、静かに花を咲かせます。 ふたりのまほうは、まだ小さくて、でもあたたかい。 「だいすきって気持ちは、  きっと一番すてきなまほうなの──!」 風がふくたびに、花がひらき、恋がそっと実る。 これは、リリアナの庭で育つ、 小さなまほうつかいたちの恋と夢の物語です。

処理中です...