囚われ姫の妄想と現実

家紋武範

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第25話 たくさんの足音

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ピクシーたちは歓声を持って私たちを迎え入れてくれた。
まるでこの小さい小人たちの女王になったような気分だけど、それではいけない。
この小さき恩人たちに、返礼しなくては。

「ラース。魚を調理するのに、薪を用意してくれない?」
「ああいいとも」

ラースはさっそく薪を用意し、魚に太い串を刺した。
両側に又のある枝を地面に差し込み、その又に魚を刺した串を薪の上へと渡す。

「じゃ、ルビー。火をつけていいよ」
「ありがとうラース。ボル!」

私は魔法の契約の言葉を囁いてボルの魔法を薪に向かって使った。
たちまち炎は燃え上がり、大魚を徐々に炙って行く。
ピクシーたちは一つ一つに声をあげてくれたので楽しくなった。
焼き上がった大魚はとても村人たちの腹を満足させるものではなかったけど、みんな喜んでくれた。

なにも魚はボルで直接焼いてしまえばいいかもしれない。魔法の杖を振るって焼けばいいのかもしれない。でもそうしたくなかった。ところどころでは魔法を使っても、魚を焼くのは私自身がしたかったのだ。

「いやぁ、素晴らしい。ルビー王女殿下が手ずから作って下さった料理は我が集落の伝説となりましょう」
「いいえ、お礼を言うのはこちらの方よ。この数日、本当にありがとう」

私たちは集落のみんなに別れを告げた。
たくさんの食糧は小さなソリに乗せて、元いた場所へと戻っていった。




私たちの大ゾリは、少し雪を被っていたけど前のままだった。ラースは小さなソリの荷物を私たちのソリへと移し替える。

「ルビー。準備ができたよ」
「うふ。ありがとうラース。じゃ行きましょう。私たちの国へ向けて」

私たちがソリに乗り込もうとしたその時。
ラースが口の前に指を立てて、静かにするようにとゼスチャーをする。

聞こえる。雪を踏む音。
一つではない。たくさんの数だ。

「また魔物だわ。ピクシーじゃないわね。結構足音が大きいもの」
「お見事。その通りです。ルビー。でも無駄な戦いは避けたい。向こうの様子を見ましょう」

それは、ワイワイガヤガヤとこちらに向かってくる。私たちに緊張が走った。しかし私は幾分ラースよりも安心していただろう。なぜなら、ラースなら何とかしてくれるとの思いがとても強かったからだ。

「あ! ルビー王女殿下だ!」

声を上げた者の方を見て、私とラースは安堵のため息をついた。
人間だ。この敵地の奥深くに人間の兵士がいて、こちらに気付いたのだ。
彼の発した言葉に、次々と兵士が集まり、隊列を組んでいた。
これは私の救助隊が本格的に結成されてここまでたどり着いたのだと安心した。
ラースも気安く手を上げ構えをほどいた。
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