30 / 36
第30話 空中の敵
しおりを挟む
次の日、ラースは早めに起きて自分の馬に簡易な鞍を作っていた。毛皮とロープによる簡単なものだが鐙(あぶみ)もあり、立って乗ることも可能となっていた。
「さすがね。ラース」
「いえいえ。早く国に帰りたいですしね」
私たちは互いの馬に跨がり、国に向けて出発。難点は足音が大きくなってしまったことだ。これでは敵に見つかるかも知れないとラースは言った。
なるほど、ユニコーンは多少浮いているのか足音はしないが、軍馬の馬蹄はどうしても高い。
それがため、さらに街道を避け大回りしての進行。早いが遅々として進まずとはこのことだ。
「ユニコーンが地上を走ってくれるから助かるけど」
「こちらも助かります。ルビーあわせてくれてありがとう」
ラースと私は、国に向かって急ぎ、時には馬蹄を鳴らさないようにゆっくりとすすんだ。
敵には出会わない。どうやらラースの話ではもうすぐ国境のようだ。
ラースと二人並走していたが、違和感を感じた。というのも、私の体のみが宙に浮くのだ。
「な、何かしら?」
「どうしたのルビー」
そんな呑気なことを言っている場合ではなかった。私の体のみが宙に浮く。ユニコーンは立ち止まり、ラースは私の方を見上げていた。
「ど、どうなっているの? 私だけ?」
「ルビー。どうして?」
そして、ラースからかなり離れた空中で私の身は止まった。すると背中から不気味な笑い声が聞こえてきた。
「クククククク」
「だ、誰?」
「ふははははは」
「誰なの?」
「私はヴァンパイアのギード男爵だ。ユニコーンに乗っている人間とはなんたる幸運。すぐに分かったぞ。お前は乙女だろう」
「きゃ! ま、魔物?」
「そうだ。我々ヴァンパイアは乙女の血が大好物なのだ」
ギードは姿を現した。私の背中に貼り付いてキツく抱いている。苦しい。地上では、ラースが地団駄を踏んでいた。
「ああ! ルビー。だから早めに乙女を失っておけば良かったのに……」
「は、はぁ? なによその私が悪いみたいな言い方!」
しかしそんなことを言ってられない。
ヴァンパイヤのギードが私の首筋に牙を立てればすべて終わり。ラースは飛べないし、乙女じゃないからユニコーンにも乗れない。魔法を使って倒したとしても今度は私を支える者がいなくなり地上に激突して終わりよ。
ああ、ここまで来たのに。
ここまで来たのに──。
「ルビーを返せ!」
「はぁ? まだ自分の立場を分かっていないようだな小さいやつめ」
「小さいだとぅ?」
「そうじゃないか。彼女よりも小さいくせに」
「も、もう許せない!」
ギードはラースのコンプレックスをしきりに煽った。ラースは腰の聖剣を抜く。しかしそれがどうなるというのか。剣は魔法よりも射程が短い。ギードもあまりの滑稽さに笑っていた。
「はっはっは。マヌケめ。それでどうするというのだ。小さいやつめ。面白い。少しばかりこの乙女を生かしておいてやるから、やってみよ」
「言ったな? グラジナ!」
ラースは聖剣の名を呼んで、剣を地面に投げ出す。そしてそれの上に立ったのだ。
「はっはっはっは!」
「ラース! ヤケになってしまったの?」
だがヤケではなかった。聖剣が光ったと思うと、目にも留まらぬスピードで私とギードに迫る。そして私をギードより奪いさると、空中に停滞。ラースの足下には聖剣だったもの。それは金色に輝くドラゴンだった。
「そ、そんな。剣がドラゴンだったなんて」
「そうだ。聖剣グラジナの正体は金皇竜(カイザードラゴン)なのだ」
「か、カイザードラゴン? 神の御使(みつか)いと言われるドラゴンか!」
「そうだ。ルビーは返してもらった。今度はお前の番だ」
「こうしちゃおれん」
ギードはマントを翻して、逃げようとしたがカイザードラゴンのスピードに敵うわけが無い。あっという間に並走された。
ギードはそれを見て悔しがる。
「くそ! だが、剣が竜になっているわけだから攻撃はできまい。はっはっは」
ギードが笑った瞬間、カイザードラゴンより、炎のロングブレス。ギードは黒こげになり、その灰は宙を舞った。ラースはカイザードラゴンに命じて地上へと降り、元の聖剣に戻した。
「すごいわ。ラース! まだまだ私の知らない秘密があるのね」
「そうそう。惚れ直したかい?」
「ええそうね」
「ん? ルビー、どうして鍋を取るんだい?」
ラースの疑問は次の瞬間分かることになる。ラースはまた鍋でしこたま叩かれた。なぜなら、カイザードラゴンが空を飛べるなら、早くに出してしまえば一日で自国に帰れたはずなのだ。
「さすがね。ラース」
「いえいえ。早く国に帰りたいですしね」
私たちは互いの馬に跨がり、国に向けて出発。難点は足音が大きくなってしまったことだ。これでは敵に見つかるかも知れないとラースは言った。
なるほど、ユニコーンは多少浮いているのか足音はしないが、軍馬の馬蹄はどうしても高い。
それがため、さらに街道を避け大回りしての進行。早いが遅々として進まずとはこのことだ。
「ユニコーンが地上を走ってくれるから助かるけど」
「こちらも助かります。ルビーあわせてくれてありがとう」
ラースと私は、国に向かって急ぎ、時には馬蹄を鳴らさないようにゆっくりとすすんだ。
敵には出会わない。どうやらラースの話ではもうすぐ国境のようだ。
ラースと二人並走していたが、違和感を感じた。というのも、私の体のみが宙に浮くのだ。
「な、何かしら?」
「どうしたのルビー」
そんな呑気なことを言っている場合ではなかった。私の体のみが宙に浮く。ユニコーンは立ち止まり、ラースは私の方を見上げていた。
「ど、どうなっているの? 私だけ?」
「ルビー。どうして?」
そして、ラースからかなり離れた空中で私の身は止まった。すると背中から不気味な笑い声が聞こえてきた。
「クククククク」
「だ、誰?」
「ふははははは」
「誰なの?」
「私はヴァンパイアのギード男爵だ。ユニコーンに乗っている人間とはなんたる幸運。すぐに分かったぞ。お前は乙女だろう」
「きゃ! ま、魔物?」
「そうだ。我々ヴァンパイアは乙女の血が大好物なのだ」
ギードは姿を現した。私の背中に貼り付いてキツく抱いている。苦しい。地上では、ラースが地団駄を踏んでいた。
「ああ! ルビー。だから早めに乙女を失っておけば良かったのに……」
「は、はぁ? なによその私が悪いみたいな言い方!」
しかしそんなことを言ってられない。
ヴァンパイヤのギードが私の首筋に牙を立てればすべて終わり。ラースは飛べないし、乙女じゃないからユニコーンにも乗れない。魔法を使って倒したとしても今度は私を支える者がいなくなり地上に激突して終わりよ。
ああ、ここまで来たのに。
ここまで来たのに──。
「ルビーを返せ!」
「はぁ? まだ自分の立場を分かっていないようだな小さいやつめ」
「小さいだとぅ?」
「そうじゃないか。彼女よりも小さいくせに」
「も、もう許せない!」
ギードはラースのコンプレックスをしきりに煽った。ラースは腰の聖剣を抜く。しかしそれがどうなるというのか。剣は魔法よりも射程が短い。ギードもあまりの滑稽さに笑っていた。
「はっはっは。マヌケめ。それでどうするというのだ。小さいやつめ。面白い。少しばかりこの乙女を生かしておいてやるから、やってみよ」
「言ったな? グラジナ!」
ラースは聖剣の名を呼んで、剣を地面に投げ出す。そしてそれの上に立ったのだ。
「はっはっはっは!」
「ラース! ヤケになってしまったの?」
だがヤケではなかった。聖剣が光ったと思うと、目にも留まらぬスピードで私とギードに迫る。そして私をギードより奪いさると、空中に停滞。ラースの足下には聖剣だったもの。それは金色に輝くドラゴンだった。
「そ、そんな。剣がドラゴンだったなんて」
「そうだ。聖剣グラジナの正体は金皇竜(カイザードラゴン)なのだ」
「か、カイザードラゴン? 神の御使(みつか)いと言われるドラゴンか!」
「そうだ。ルビーは返してもらった。今度はお前の番だ」
「こうしちゃおれん」
ギードはマントを翻して、逃げようとしたがカイザードラゴンのスピードに敵うわけが無い。あっという間に並走された。
ギードはそれを見て悔しがる。
「くそ! だが、剣が竜になっているわけだから攻撃はできまい。はっはっは」
ギードが笑った瞬間、カイザードラゴンより、炎のロングブレス。ギードは黒こげになり、その灰は宙を舞った。ラースはカイザードラゴンに命じて地上へと降り、元の聖剣に戻した。
「すごいわ。ラース! まだまだ私の知らない秘密があるのね」
「そうそう。惚れ直したかい?」
「ええそうね」
「ん? ルビー、どうして鍋を取るんだい?」
ラースの疑問は次の瞬間分かることになる。ラースはまた鍋でしこたま叩かれた。なぜなら、カイザードラゴンが空を飛べるなら、早くに出してしまえば一日で自国に帰れたはずなのだ。
0
あなたにおすすめの小説
男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される
山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」
出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。
冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
聖女は秘密の皇帝に抱かれる
アルケミスト
恋愛
神が皇帝を定める国、バラッハ帝国。
『次期皇帝は国の紋章を背負う者』という神託を得た聖女候補ツェリルは昔見た、腰に痣を持つ男を探し始める。
行き着いたのは権力を忌み嫌う皇太子、ドゥラコン、
痣を確かめたいと頼むが「俺は身も心も重ねる女にしか肌を見せない」と迫られる。
戸惑うツェリルだが、彼を『その気』にさせるため、寝室で、浴場で、淫らな逢瀬を重ねることになる。
快楽に溺れてはだめ。
そう思いつつも、いつまでも服を脱がない彼に焦れたある日、別の人間の腰に痣を見つけて……。
果たして次期皇帝は誰なのか?
ツェリルは無事聖女になることはできるのか?
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
王冠の乙女
ボンボンP
恋愛
『王冠の乙女』と呼ばれる存在、彼女に愛された者は国の頂点に立つ。
インカラナータ王国の王子アーサーに囲われたフェリーチェは
何も知らないまま政治の道具として理不尽に生きることを強いられる。
しかしフェリーチェが全てを知ったとき彼女を利用した者たちは報いを受ける。
フェリーチェが幸せになるまでのお話。
※ 残酷な描写があります
※ Sideで少しだけBL表現があります
★誤字脱字は見つけ次第、修正していますので申し分ございません。
人物設定がぶれていましたので手直作業をしています。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
【完】お兄ちゃんは私を甘く戴く
Bu-cha
恋愛
親同士の再婚予定により、社宅の隣の部屋でほぼ一緒に暮らしていた。
血が繋がっていないから、結婚出来る。
私はお兄ちゃんと妹で結婚がしたい。
お兄ちゃん、私を戴いて・・・?
※妹が暴走しておりますので、ラブシーン多めになりそうです。
苦手な方はご注意くださいませ。
関連物語
『可愛くて美味しい真理姉』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高13位
『拳に愛を込めて』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高29位
『秋の夜長に見る恋の夢』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高17位
『交際0日で結婚!指輪ゲットを目指しラスボスを攻略してゲームをクリア』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『幼馴染みの小太郎君が、今日も私の眼鏡を外す』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高8位
『女社長紅葉(32)の雷は稲妻を光らせる』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 44位
『女神達が愛した弟』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高66位
『ムラムラムラムラモヤモヤモヤモヤ今日も秘書は止まらない』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高32位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
『婚約破棄された聖女リリアナの庭には、ちょっと変わった来訪者しか来ません。』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
王都から少し離れた小高い丘の上。
そこには、聖女リリアナの庭と呼ばれる不思議な場所がある。
──けれど、誰もがたどり着けるわけではない。
恋するルミナ五歳、夢みるルーナ三歳。
ふたりはリリアナの庭で、今日もやさしい魔法を育てています。
この庭に来られるのは、心がちょっぴりさびしい人だけ。
まほうに傷ついた王子さま、眠ることでしか気持ちを伝えられない子、
そして──ほんとうは泣きたかった小さな精霊たち。
お姉ちゃんのルミナは、花を咲かせる明るい音楽のまほうつかい。
ちょっとだけ背伸びして、だいすきな人に恋をしています。
妹のルーナは、ねむねむ魔法で、夢の中を旅するやさしい子。
ときどき、だれかの心のなかで、静かに花を咲かせます。
ふたりのまほうは、まだ小さくて、でもあたたかい。
「だいすきって気持ちは、
きっと一番すてきなまほうなの──!」
風がふくたびに、花がひらき、恋がそっと実る。
これは、リリアナの庭で育つ、
小さなまほうつかいたちの恋と夢の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる