囚われ姫の妄想と現実

家紋武範

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第35話 城へ

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次の日、表にユニコーンがいる。
そう、私はまだ乙女のままだったのだ。ラースはすんでのところでやめた。ユニコーンがいなくなっては城に帰れないと。私たちは微笑み合って一晩中抱きしめ合った。そして愛を誓い合ったのだ。
私を信じると。正式な結婚をしたら出立前の僅かな時間に深い愛の誓いをしようと約束をして。
ユニコーンは私の匂いをしばらく嗅いでいたものの、飛び立とうとはしなかった。

「じゃ城に行きましょう。すぐに結婚式よ。ラース」
「そうだね。……楽しみ」

「また変なこと考えてるんじゃ?」
「そりゃー、今まで我慢したんだから」

「うふ。まぁいいわ」

私たちはアウリットの民達に別れを告げて、王宮へと飛び立った。領内の空中を飛ぶ私たちに、領民たちは歓声を上げていた。
王宮にたどり着くと並み居る大臣たちが整列して私たちを迎える。その大きく開けた城壁に私とラースは舞い降りた。

「殿下! ご無事でなにより」
「ええ。ここにいる勇者ラースのお陰よ。陛下はどこ? 陛下が彼と約束をしたことを今叶えたい」

「陛下は政務がありますので、玉座の間におられます」
「お忙しいわね。じゃラース。行きましょう」

「はい」

私とラースは父である国王がいる玉座へと向かう。その後ろを大臣たちは足を揃えて付いてきた。
だが途中でラースの間に大臣たちが入り込み、あれよあれよという間に私たちは分断。私は玉座の間に。ラースはどこかに連れて行かれてしまった。

玉座の間には父である国王陛下。一緒についてきた四人の大臣たち。

「おおルビー。戻ったか」
「ええ陛下。こうして無事に戻れたのは勇者ラースの力あってのこと。偉大なる陛下は彼に約束をしました。私を助けた折には私を嫁として与えると。偉大なる陛下の言葉は何者にも覆せません。どうぞ速やかに約束をご履行下さい。さすれば彼はすぐにでも国境を越え、敵である魔王を誅滅致しましょう」

父はラースに約束をした。私の救助は普通の人間では不可能。それをやってのけたラースに当然の褒賞を与えるべきなんだわ。

「それなんだがのう……」
「どうしました。弱気なお言葉に聞こえます。身分違えど私はラースに嫁ぐと決めました。どうぞ陛下もお心変わり致しませぬようお願い致します」

父は私の強行な態度に大臣たちに助けを求めるような目をする。手練手管なこの連中は言葉巧みに私を諭し慰めながら説得する手法を持ち出してきた。

「実は殿下。陛下の弟君でございますガラハッド公の権威がますます上がり、今国には二つの国家が出来上がっている状態でございます」
「それが、それとこれとでどうだというの?」

「ガラハッド公の勢力の方が今は日の出の勢いで、我々では太刀打ちできません」
「その通り。勇者ラースどのと結婚したところで、それは依然変わりなく、最悪の場合、陛下、殿下、ラース殿もろとも賊の手にかかり城門の外に亡骸を放り投げられることでしょう」

「なんですって!?」
「お怒りは誠に当然のこと。ですからここは中立のバリア公爵をこちらに引き入れなくてはなりません」

「ちょ、ちょっと待ちなさい」
「いいえ待てませぬ。巨大なバリア公爵のご令息、カイン殿と婚約が成立致しております。これにてガラハッド公の勢力と力は均衡。いや、日和見を決め込んでいる者たちはこちらに付いて、あちらに裏切り者も出ることでしょう。さすればガラハッド公も降伏してくるはずです」

「なんてこと!? 私はラースと結婚するのです! これ誰かある。すぐに大司教を呼んで結婚式を挙げるよう手配しなさい」
「いいえ誰もまいりませぬ。ここには我らだけ。そもそもラース殿は勇者です。神より使命があったもの。真の敵である魔王と対決しなくてはなりません。それは命の保証がまるでないのです。それに、勇者が王宮にいると知れば魔王ものんびりしてはいません。総力をもって王宮を目指して参ります。暗殺者も来るでしょう。今の状況でラース殿と結婚するのは万に一つの得もないのです」

「そ、それは──」
「他の大臣たちも今、ラース殿に同じ話をしております。彼は納得して城を去り、明日にでも国境を越えるでしょう」

「な、なんですって? ラースに会わなくちゃ!」

私は大臣たちを振り切って扉に急ごうとしたが、腕を掴まれてしまった。険しい顔で振り向くものの、大臣たちは手を放そうとはしなかった。

「もはや猶予はないのです。カイン殿と結婚がまとまるまで、城の東の塔で寝食をして頂きます」
「な、なにを言っているのよ! ラースに会わせて!」

私は叫ぶが、のれんに腕押し。
お父様に助けを求めるものの、お父様は顔を伏せて、部屋を出て行ってしまった。

「お父様!」
「殿下。すでに決まったことです。陛下もお認めになりました」

大臣たちは兵士を呼ぶと、私は罪人でもないのに抑えられ、東の塔に幽閉されてしまったのであった。
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