15 / 58
第15話 紹介状
しおりを挟む
城塞を守護する仕事に就いたシーンは細剣を携えて威風堂々にアルベルトの背中に並んで城壁の上を視察する。その後ろには同じく副官の三人が続き、さらにその後ろには役割を持った者が二十名ほど続く。
今まで間抜けのウスノロと噂され、一度も城塞に立ち寄らなかった司令官の跡取りの姿の見事なこと。部下たちはその偉容に息を飲んだ。
背筋を伸ばしたシーンはアルベルトよりも頭が一つ高かった。どこからどう見ても美丈夫である。この美男の噂はあっという間に都中に広がった。
それを見ようと、各名家のご令嬢がたは城壁に馬車を並べてアルベルトの後ろに控える青年に黄色い声援を送った。
「あの美丈夫はどなたかしら?」
「どこの名家のご令息かしらね?」
「ああ、あんな方と結婚したいわぁ」
と言い合った。
それを聞きつけたのは、この国の宰相であるムガル大公爵のご令嬢サンドラだった。
「その噂の姿はあのかたに違いないわ!」
急いで自分専用の馬車を引っ張りださせ、城壁までやって来て、その美男の姿を探す。すると、アルベルトの後ろに高身長で筋骨隆々な美男が、凛々しく眉を上げて整然と歩いている。
サンドラは顔を真っ赤にして彼を見つめた。まさにあの時の天使。その姿に、学校で老婆に占われたことを思い出す。
高身長で金髪。そして自分を助けてくれた運命の天使。占いに結びつけるに充分であった。
「──お嬢様?」
御者に尋ねられてハッと我に返る。彼女にとってはこんなことはじめてだ。男を好きになるなどと。
「も、もういいわ。車を出しなさい」
「はい。お嬢様」
馬車が公爵家に向けて進み出すとサンドラは回りには自分以外にもシーンを見つめる少女たちがたくさんいると気付いた。
もしもまかり間違って、その中の一人をあの人が見初めたら大変だ。彼は自分のもの。サンドラは宰相である父親に頼み込み、権力を行使して他のギャラリーに対し、城塞は危険だから近づかないようにとの命令書を出し、自分は父親に頼んで、アルベルトに紹介状と名刺を送ったのである。
「はて?」
「お父上、どうされましたか?」
屋敷で家族水入らずお茶を飲んでいるところに、宰相よりの使者。アルベルトは紹介状と名刺を受け取り、即座に開けると驚きの声を上げたのだ。
「う~ん。宰相様がな、仕事中に近くにいるお方はどこの良家の坊ちゃんだと聞いてこられたのだ」
「はぁ。わたくしのことですかねぇ?」
「それがサンドラご令嬢がことのほか気に入り、吉日を見て顔合わせをしたいと言っておられる」
「は、はぁ? さ、サンドラが? わたくしにはエイミーがおります」
「分かっているし、前にサンドラ嬢にはシーンに嫁いで下さるように宰相にお願いし、断られたこともある」
「わたくしだってお断りです! それに彼女に、学校で扇でぶたれたこともありますよ!」
シーンは貴族学校でのことを思い出す。サンドラの権威をかさにきたいじめ。率先していじめていたではないかと憤慨した。
「しかし、宰相さまが正式な使者を送って面談したいというものを無下にはできん。第二夫人の座という手もあるが、宰相は正妻でなくては納得すまい」
「ちょ、ちょっと、お父上。わたくしにはエイミーの他は考えられませんよ。それにサンドラなど絶対にありえません!」
「うむむ。だからこそ悩むのだ」
「お父上、しっかりしてください。私の病気が治ったのはどうしてです。エイミーの看病があったからではありませんか。私の恩人、ひいては伯爵家の恩人ですよ!」
「分かっている。分かっている」
アルベルトとシーンの話は互いに平行線。
シーンがエイミーを愛するのは分かるが、宰相の権威に逆らうことは出来ない。
ここはシーンの病も治ったことだし、エイミーに第二夫人の座に引いてもらえれば丸く治まるのではないかとアルベルトが思った時。
エイミーはシーンのフロックコートの大きく折り曲げられた袖をそっと引いて部屋の外に。二人で何か話しているようだったがすぐに戻って来た。その時のシーンの顔は悩みが解決したように晴れ晴れとしていた。
「それではお父上。今度の城壁の巡察の際に、サンドラ嬢に面会して頂きましょう」
と笑顔でいうので、アルベルトもひょっとしてエイミーが引き下がって説得してくれたと思い、そのように宰相に返書した。
今まで間抜けのウスノロと噂され、一度も城塞に立ち寄らなかった司令官の跡取りの姿の見事なこと。部下たちはその偉容に息を飲んだ。
背筋を伸ばしたシーンはアルベルトよりも頭が一つ高かった。どこからどう見ても美丈夫である。この美男の噂はあっという間に都中に広がった。
それを見ようと、各名家のご令嬢がたは城壁に馬車を並べてアルベルトの後ろに控える青年に黄色い声援を送った。
「あの美丈夫はどなたかしら?」
「どこの名家のご令息かしらね?」
「ああ、あんな方と結婚したいわぁ」
と言い合った。
それを聞きつけたのは、この国の宰相であるムガル大公爵のご令嬢サンドラだった。
「その噂の姿はあのかたに違いないわ!」
急いで自分専用の馬車を引っ張りださせ、城壁までやって来て、その美男の姿を探す。すると、アルベルトの後ろに高身長で筋骨隆々な美男が、凛々しく眉を上げて整然と歩いている。
サンドラは顔を真っ赤にして彼を見つめた。まさにあの時の天使。その姿に、学校で老婆に占われたことを思い出す。
高身長で金髪。そして自分を助けてくれた運命の天使。占いに結びつけるに充分であった。
「──お嬢様?」
御者に尋ねられてハッと我に返る。彼女にとってはこんなことはじめてだ。男を好きになるなどと。
「も、もういいわ。車を出しなさい」
「はい。お嬢様」
馬車が公爵家に向けて進み出すとサンドラは回りには自分以外にもシーンを見つめる少女たちがたくさんいると気付いた。
もしもまかり間違って、その中の一人をあの人が見初めたら大変だ。彼は自分のもの。サンドラは宰相である父親に頼み込み、権力を行使して他のギャラリーに対し、城塞は危険だから近づかないようにとの命令書を出し、自分は父親に頼んで、アルベルトに紹介状と名刺を送ったのである。
「はて?」
「お父上、どうされましたか?」
屋敷で家族水入らずお茶を飲んでいるところに、宰相よりの使者。アルベルトは紹介状と名刺を受け取り、即座に開けると驚きの声を上げたのだ。
「う~ん。宰相様がな、仕事中に近くにいるお方はどこの良家の坊ちゃんだと聞いてこられたのだ」
「はぁ。わたくしのことですかねぇ?」
「それがサンドラご令嬢がことのほか気に入り、吉日を見て顔合わせをしたいと言っておられる」
「は、はぁ? さ、サンドラが? わたくしにはエイミーがおります」
「分かっているし、前にサンドラ嬢にはシーンに嫁いで下さるように宰相にお願いし、断られたこともある」
「わたくしだってお断りです! それに彼女に、学校で扇でぶたれたこともありますよ!」
シーンは貴族学校でのことを思い出す。サンドラの権威をかさにきたいじめ。率先していじめていたではないかと憤慨した。
「しかし、宰相さまが正式な使者を送って面談したいというものを無下にはできん。第二夫人の座という手もあるが、宰相は正妻でなくては納得すまい」
「ちょ、ちょっと、お父上。わたくしにはエイミーの他は考えられませんよ。それにサンドラなど絶対にありえません!」
「うむむ。だからこそ悩むのだ」
「お父上、しっかりしてください。私の病気が治ったのはどうしてです。エイミーの看病があったからではありませんか。私の恩人、ひいては伯爵家の恩人ですよ!」
「分かっている。分かっている」
アルベルトとシーンの話は互いに平行線。
シーンがエイミーを愛するのは分かるが、宰相の権威に逆らうことは出来ない。
ここはシーンの病も治ったことだし、エイミーに第二夫人の座に引いてもらえれば丸く治まるのではないかとアルベルトが思った時。
エイミーはシーンのフロックコートの大きく折り曲げられた袖をそっと引いて部屋の外に。二人で何か話しているようだったがすぐに戻って来た。その時のシーンの顔は悩みが解決したように晴れ晴れとしていた。
「それではお父上。今度の城壁の巡察の際に、サンドラ嬢に面会して頂きましょう」
と笑顔でいうので、アルベルトもひょっとしてエイミーが引き下がって説得してくれたと思い、そのように宰相に返書した。
21
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる