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誤算だった。
おれは今までパートナーなんていた事がない。
つまり、どうして良いのか分からないのだ。
ポンッとサブの携帯が鳴る。こっちは裏の仕事用。美術講師準備室でひとりで昼ごはんをしているおれは完全に気を抜いてサブの携帯を開いた。
お得意様から。
『ヒカルくん、今日夜8でどう?場所はいつものホテル。』
正直この客、篠田さんは窒息プレイが好きで何度意識を飛ばしかけたか分からない絶妙なラインでやばい人なのでなやんだ。
でも、今月、ちょっとやばいんだよな。
『OKです!時間とか決めたらまた連絡ください!』
と。
「先生飯そんだけ?」
ビックリして椅子から落ちましたが。
「オーバーリアクション~」と言いながら高橋理人は俺を立ち上がらせた。
「先生ってケータイ2台持ちなんだね。」
「まぁ、な。」
「それよりお前は昼飯食べたのか?」
話の逸らし方、ちょっと強引だったかな。
「1個は食べたよ。2限目に。」
人はそれを早弁と言う。
「これ、2つ目。どうせなら一緒に食べたいと思って。……だめ?」
子犬を思わせる瞳でこちらを見てくる高橋理人。
「別にダメじゃないけれど、おれの昼飯これで終わるぞ。」
机に置いてある齧り掛けのコンビニおむすびと野菜ジュース。
「うそだー、信じらんない。足りないでしょ!」
足りてるからこれだけなわけですが。
「先生、口、開けて。」
へ?と思うまもなく、身体は素直に反応している。
ぽかんと空けられた口に卵焼きが突っ込まれる。
「食べて。」
ゆっくりと咀嚼する。
美味しい。甘い卵焼きだ。
「おいしい?」
「おいしい……。」
いい子。と、頭をなぜられる。
実は昼用の弁当、ちょっと多めに作ってきたんだよね、だからほかのも味見してみて。
「あーん。」
恥ずかしかったけれど、それに従う幸福感の方が強かった。
今度は唐揚げ、野菜炒め、煮物……、どれもひと口サイズに切り分けてある。
こいつなりに気を使ってるんだな……。なんて、ちょっと嬉しかったりした。
しかしひと通り食べたところで胃袋の限界が来た。
「もう、お腹いっぱい……。」
まだ高橋理人の弁当箱には相当の料理が残っていた。
それはおれが食べることを期待して作られたものだろう。そんな期待に応えることも出来ないのか。
「ごめん、なさい……。」
手が冷たくなっていく。指先からどんどんと、化石になっていくみたいに。
惨めで、吐きそうだ。すると高橋理人は俯いて震えるおれの手を両手で包み込んだ。その手をそっと持ち上げて、冷えきった指先にキスを落とした。
「謝らないでいいんだよ。たくさん食べたね、Good boy。ありがとう。」
キスされた指先が少しずつ温もりを取り戻していくのを感じた。
おれは今までパートナーなんていた事がない。
つまり、どうして良いのか分からないのだ。
ポンッとサブの携帯が鳴る。こっちは裏の仕事用。美術講師準備室でひとりで昼ごはんをしているおれは完全に気を抜いてサブの携帯を開いた。
お得意様から。
『ヒカルくん、今日夜8でどう?場所はいつものホテル。』
正直この客、篠田さんは窒息プレイが好きで何度意識を飛ばしかけたか分からない絶妙なラインでやばい人なのでなやんだ。
でも、今月、ちょっとやばいんだよな。
『OKです!時間とか決めたらまた連絡ください!』
と。
「先生飯そんだけ?」
ビックリして椅子から落ちましたが。
「オーバーリアクション~」と言いながら高橋理人は俺を立ち上がらせた。
「先生ってケータイ2台持ちなんだね。」
「まぁ、な。」
「それよりお前は昼飯食べたのか?」
話の逸らし方、ちょっと強引だったかな。
「1個は食べたよ。2限目に。」
人はそれを早弁と言う。
「これ、2つ目。どうせなら一緒に食べたいと思って。……だめ?」
子犬を思わせる瞳でこちらを見てくる高橋理人。
「別にダメじゃないけれど、おれの昼飯これで終わるぞ。」
机に置いてある齧り掛けのコンビニおむすびと野菜ジュース。
「うそだー、信じらんない。足りないでしょ!」
足りてるからこれだけなわけですが。
「先生、口、開けて。」
へ?と思うまもなく、身体は素直に反応している。
ぽかんと空けられた口に卵焼きが突っ込まれる。
「食べて。」
ゆっくりと咀嚼する。
美味しい。甘い卵焼きだ。
「おいしい?」
「おいしい……。」
いい子。と、頭をなぜられる。
実は昼用の弁当、ちょっと多めに作ってきたんだよね、だからほかのも味見してみて。
「あーん。」
恥ずかしかったけれど、それに従う幸福感の方が強かった。
今度は唐揚げ、野菜炒め、煮物……、どれもひと口サイズに切り分けてある。
こいつなりに気を使ってるんだな……。なんて、ちょっと嬉しかったりした。
しかしひと通り食べたところで胃袋の限界が来た。
「もう、お腹いっぱい……。」
まだ高橋理人の弁当箱には相当の料理が残っていた。
それはおれが食べることを期待して作られたものだろう。そんな期待に応えることも出来ないのか。
「ごめん、なさい……。」
手が冷たくなっていく。指先からどんどんと、化石になっていくみたいに。
惨めで、吐きそうだ。すると高橋理人は俯いて震えるおれの手を両手で包み込んだ。その手をそっと持ち上げて、冷えきった指先にキスを落とした。
「謝らないでいいんだよ。たくさん食べたね、Good boy。ありがとう。」
キスされた指先が少しずつ温もりを取り戻していくのを感じた。
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