しあわせのあしどり

伊澄(ism)

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「理人ごめん、お茶買ってきてくれない?喉乾いちゃった。」

聡い子なので人払いをしたことを気づいただろうけれど、笑顔で行ってくるね、というあたりが本当におとなだなとおもう。

「昨日、あいつが、設楽したらがこの街にいたんです。」

「やっぱりか。俺も見かけたんだ。それで心配になってな。」

今のところ家まではバレていないみたいだけれど、いつバレるか分からない。

「できるだけ暗くなる前に帰れよ。あんまり遅くなるようなら俺を使っていいから。」

「ありがとうございます。」

「けちらずタクシーも使え。」

「はい。」

「家のドア開ける時は回りよく見てから開けろよ。」

「うん。」

それから急に先輩はニヤリ顔になり「ところでお前ら、一線越えたな?」といやらしいことをいい顔といい声で言い始めた。

「なんで……。」

この状況見れば明らかか……。
学校の方には内緒にしておかないとな。と妙に嬉しそうな先輩がムカついたので脇にあった枕を投げつけておいた。

「あー!何いちゃついてんすか空木さん!先生は俺のですよ!」

そんなこと言いながら高橋理人が帰ってきた。

「安心しろ、こんな面倒くさいやつ要らん。それに俺はストレートだ。」

「別に俺だってゲイってわけじゃないんですよ、ただ単に、光……先生が好きなだけで、先生以外の男性にはなんともおもわないんですから。あ、先生お茶、何茶か聞きそびれたから色んなお茶買ってみた。余ったら俺飲むから置いといて。」

エコバッグいっぱいのペットボトルのお茶にはさすがに笑ってしまった。
緑茶からチャイみたいなのまである。
中から甘くない紅茶を一本取ると、残りは理人に渡した。高橋理人はその選ばれなかった残りを冷蔵庫にしまいに行った。

「じゃ、俺帰るわ。」

先輩が立ち上がる。

「あ、ありがとうございました!えっと、通院は……来週か、また来週~。」

「あいよ。」

高橋理人が玄関までおくる。
さよなら、という高橋理人の声と共にバタンと扉のしまった音がした。

「なんだったんだろうね?」

と言いながら理人がそばに戻ってきた。

「なんでもないよ。」

大丈夫。大丈夫。
何も起こらないさ。

だけど今だけちょっと、そばにいて欲しくて、理人の服の裾を掴むと縋るように身体をくっつけた。

そんなおれの頭を、優しく撫ぜてくれるこいつが、好きなんだと思う。

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