しあわせのあしどり

伊澄(ism)

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それからしばらくして、おれは電子レンジを買った。
部活のない時に料理をしに来る理人が電子レンジがあればなぁ、としきりに言うものだから。
よく分からずにオーブンレンジというものを買ってしまったらしく「光太!これパイ焼ける!アップルパイとか好き?料理の幅が広がるぞー。」と喜んでいた。道理で高かったわけだ、まァ、理人が喜んでるから、いいや。
部活のない日は理人は当たり前のようにおれの家に来るようになった。

「これ。」

「なに?」

合鍵を渡した。
部屋を契約した時に渡されて、永遠に使うことはないだろうと思っていた合鍵を使う時が来るとは。

「まじで!?いいの!?」

「おれの方が帰り遅い日もあるだろ……。でも、あんまり勝手するなよ!」

「はいっ!」

これを機に、おれの部屋がどんどん生活感の溢れたものになってきた。冷蔵庫の中身が充実してきたりね。

「顔色良いな。」

「そうですか?」

机を挟んで向こう側の先輩がわらう。今日は月一回の診察日だ。

「ようやく生きた人間を相手にしている気分だよ。その様子なら理人とも上手くやってるみたいだな。」

「うーん、たぶん……。今は、こころがどっか行っちゃいそうにならないから、落ち着いてるんだと思います。」

「うん。夜は?」

「眠れてます。夜の薬減らしたいです。」

「わかった、少し減らしておこう。」

「ありがとうございます。」

「他に不安なことはあるか?」

「いまはだいじょうぶです。」

まだ薬全部は無くせないけれど、いつか薬に頼らずに生きていきたい。
一人で夜眠れるようになりたいな。
理人がいると眠れるのにな……。ってこんな発想ダメだ、依存はしたくない。
薬を受け取り家路につく。
実は最近家の近くにクレープ屋さんがあるのを発見した。無添加の優しいクレープというのが売りで、この間理人と行った店とは違って素朴な店構えだ。まだ日も高いし寄ってみよう。
今までだったら考えられなかった。食事をするのさえ億劫だったのに、おやつを食べに寄り道するなんて。

「シナモンアップルひとつ下さい。」

ここはメニューもシンプルだから迷わなくていい。慣れた手つきでクレープが巻かれてゆく。
イートインスペースで食べて帰ろう。
店の脇に置かれた椅子に腰掛ける。
食べながら、先日の原宿を思い出していた。楽しかったな。足を見る。あの日買った靴だ。頬が綻ぶ。腕にはバングル、耳にはようやく理人の穴が落ち着いてお揃いになったピアス。
なんだかちょっと、浮かれてるかもしれない。
神様、人生で初めて、ちょっとだけ浮かれてても許してくれますか?
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