しあわせのあしどり

伊澄(ism)

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それからしばらく、理人は余裕を見つけては泊まりに来てくれるようになった。隣で寝ている人がいると、うなされても起こしてくれるから助かるし、安心して眠れるからか、うなされる回数も減ってきた。

「そうだ、今日は理人の部活見に行こ……。」

今日は出勤日である。久々の講師準備室で独り言る。
美術の授業以外の学校生活を送っている理人を見たことがない。美術の成績については何も言うまい。授業態度は悪くないんだけどなぁ……。
そうと決まればカリカリと仕事を済ませてしまおう。
パソコンを開いて打ち込み作業を始める。
作業自体は小一時間で終わった。
仕事は終わったものの、どんな顔で体育館に行こう。この学校に勤め始めて2年半、一度も体育館に行っていないのに急に見学だなんて変に思われるかな。
考え始めたらなんか行きづらくなってきた。
こっそり見よう。
ちらっとだけ見よう。

「せんせーどこ行くの?」

「ちょ、ちょっとそこまで!」

ここの学校は自由な校風で、と言えば聞こえがいいが自由奔放な生徒が多い。教員と生徒の間の距離感も近いことが多い。
おれは若いからか、割と声をかけられやすい。
体育館までなるべく目立たないように、早歩きで向かう。
体育館が近くなると、スニーカーの立てるキュッキュッという小気味いい音とパスを促すような声が聞こえてくる。
体育館の扉は夏の熱気を逃がすため開け放たれていた。
おかげで覗きやすい。
居た。
ちょうど理人がボールを持っているところだった。
ルールは分からないけれど、シュートすればいいんだろ。いけいけ!

「やった!」

思わず声が出た。
と思った時には手遅れで、理人に気付かれてしまった。壁の裏側に慌てて隠れるも、時すでに遅し。
理人に続いてバスケ部員がゾロゾロと集まってきてしまった。
どうしようー!

「あれ、佐伯先生だ。」

「めずらしい。」

「なにしてんの?」

「こ、……佐伯先生、バスケ部見学?」

「ちょっと、たまには学校のなか散歩してただけだよ。バスケ部を見てたわけ、じゃ……ないよ。ほら!みんな部活との戻って!川田先生困ってるぞ!」

顧問の川田先生が中断された練習を悲しそうな顔で見ていた。

「おまえら、戻ってくれ~。」

はーい、と、みんな戻っていく。
理人が「ゆっくり見てって。」と、小さい声で耳打ちして最後に戻って行った。
去り際にこっそりウィンク投げてくるあたり、こなれてる感じがして、ちょっとムカつく。けれど、理人にボールが渡ると黄色い声が上がるのもまた事実で、そんな人気者の隣にいるのが自分だということを思うとなんだかこそばゆかった。
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