【第一部完結】忘れられた王妃様は真実の愛?いいえ幸せを探すのです

Hinaki

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第四章  現在

1  スティアおばさんの正体

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「最近益々綺麗になったねフィオちゃん」
「有難う御座いますスティアおばさん。でも私は何も変わってはいませんよ」
「いやいや年頃の娘は年齢と共に美しくなっていくものだよ。だからフィオちゃんもそこら辺の男何かに捕まらない様ちゃあんと用心しないといけないよ。特にあのよくやってくるジェンセンて騎士はね!!」

「はぁ……」

 何時も気さくに話し掛けてくるのはこの診療所の常連さんでもあり、フィオが働き始めた頃からの1でもあるスティアおばさん。
 栗色の髪を後ろで束ね明るく世話好きな年配の女性だが、昔痛めた足の痛みと腰痛の加減で診療所へは頻回に通院し気付けばフィオを実の娘の様に可愛がってくれている。
 だがフィオは、エヴァンジェリンは知らない。
 スティアの正体を……。


 スティア・ヴァレリア・クラクストン女伯爵。
 
 嘗てラファエルの乳母だった女性である。
 一昔前に怪我を負い王宮より辞していた。
 その後自領で穏やかな隠居生活を送っていたのだが今より三年前マックスより送られた手紙を読むと、不自由な身体を推して再び王都へと舞い戻ってきたのである。

 ただし王宮へ、ラファエルの許ではなく診療所より五分程離れた場所にあるこじんまりとしているが、落ち着いた趣のある家に住む事にした。
 身の回りの世話をする侍女一人を姪として、また護衛騎士を一人甥と言う体にしたのはあくまでも世間体を考慮しての事。
 
「全く陛下も陛下ならばマックスもマックスです。本当にあの子達は何時までも子供なのだから先が思いやられます」

「スティア様……」

「ほほ、怒ってはいませんよ。ただ少々呆れてはいますよ。まさか……」

 スティアはリビングで香りの良いお茶を飲み回想に耽っていた。


 
 スティアは亡き王妃より託されたラファエルを我が子の様に守り育てた。
 それ故に王宮にいた頃もだが王宮を辞した後もずっと彼の身を実の母の様に案じてもいた。
 そんなスティアへ送られたマックスの手紙の内容は彼女を随分と驚かせたのである。

 正妃を早く娶って欲しいと切実に願っていたとは言え、まさかその相手が8歳の少女は幾ら何でもないだろうと盛大に突っ込んだものである。
 家柄や身分、ラファエルの身分を鑑みても十分お釣りがくる程の姫である事は理解出来る。

 29歳の男盛りがどうして⁉

 もしかして……とスティアはラファエルの性癖に些か問題があるのかと、マックスがスティアの許へ行き事のあらましを説明されるまで真剣に悩んでしまった。
 マックスの渾身の説明によって性癖云々の誤解は解けたのだがそれでもだ。
 由緒正しき王国の姫を幽閉だけでなく、平民同様の暮らしを強いる事に関しては流石のスティアも直ぐには納得できないでいた。

 しかしルガート、ライアーン両国の王が決定を下した以上スティアは渋々ながらも納得をせざるしかない。
 叶うものならばラファエルの乳母であった自分が王宮へ馳せ参じ、心許ない思いをしているだろう幼き姫の心へ寄り添いたいと思うのだが、昔負った怪我が元で随分と身体の自由が利かなくなっていたのである。

 そうして心配をしつつ数年が経った頃にマックスより連絡が入ればだ。
 今度はエヴァが診療所で働くと言うではないか。
 流石にそれはやり過ぎだろうと、スティアは屋敷の者が止めるのも聞かず王都へと戻ってきたのだ。
 そして今彼女は平民としてさり気なくエヴァと仲を深めたのだった。
 

 患者としてエヴァの人となりをそれとなく見てきた。
 外見の美しさも然る事ながらエヴァの内面の美しさにスティアは感動を覚えた。

 王侯貴族の令嬢や姫君達特有の傲慢さが少しもみられない。
 怪我や病に苦しむ感謝と同じ目線で、弱っている者の心へ寄り添う姿勢に心が打たれた。

 決して演技ではない。
 明るく健気なフィオへスティアだけでなくフィオと会う者は皆彼女へ心を奪われていく。

 この御方しかいない。
 ラファエルの伴侶となる正妃はフィオを置いて存在しないとスティアは思った。
 だからこそ悪い虫には気を付けねばと、ジェンセンや若い男達がフィオへ近づくのを断固として阻止し続けた。
 気づけばそれはスティアだけでなく、フィオの幸せを願う者達は皆自主的にいや、そこは一致団結して彼女に相応しくない男達を近づけさせないようにしていたのである。

 
 後はラファエル達がシャロンの元王太子の息の根を止めてくれれば問題は解決する。
 そうすれば晴れてエヴァはラファエルの許へ……と考えに至った所でスティアはそこで頭を抱える事になる。

 
 ヘタレな陛下が姫君を口説いているとは到底思えない……わね。
 元王太子を始末したとしても私が陛下のお子のお顔を拝見出来る日は本当に来るのかしら。
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