エルネスティーネ ~時空を超える乙女

Hinaki

文字の大きさ
2 / 34
序章

2  扉の向こう側

しおりを挟む

「――――ンふっ⁉」
「はあ、っう……ル!!」


 心の中でざわざわと騒めくのは恐怖心と好奇心。

 恐る恐る……私はゆっくりと物音のするだろう扉の方へ一歩ずつ近づけば近づく程、不可解且つ不明瞭なくぐもった声と言うものでしょうか。
 それから今までに聞いた事のないぱんぱんと規則的な、でも何か水分を含まれた粘度のある、何度となく叩きつける様な音と共に聞こえてくるのは明らかに二人と思われし声?

 はっきり言ってこれは……とても、その、物凄く気になります!!
 ですがもう一方私の心はこれ以上近づいてはいけないと、激しく心の中で警鐘を打ち鳴らすのです。

 ぎしぎしと寝台のスプリングより齎されるだろう音は、昔まだ幼い頃に自室で思いっ切り寝台へジャンプしたものとは比べようもないくらい激しくまた何ともあり得ないくらいリズミカルなもの。

 さ、流石に今は寝台へジャンプ等致しませんわよ。
 何故なら私は16歳、そう成人になったのです。
 当然その上で飛び跳ねる事も致しませんわ。
 ええ、それは昔、そう成人する遥か昔のお話なのです!!


 ただこの瞬間の私は何事にも本当に無知だったのです。

 それらの音、掠れた様でいて何とも艶めかしい声らの意味する事を私は余りにも知らなさ過ぎたのです。
 だから私はそっと少しだけ、まるで誘われているかの様に薄く開いている扉より中の様子を覗いてしまいました。



「――――⁉」

 ばくばくばくばく

 あ……何て事、なの⁉
 ど、どうし、て?
 あ、あ、あああああああ!!


 どきどきが止まらない!!

 それと同時に胸が強烈に、少しの息さえ出来ない程に胸が、心臓が何かにぎゅうぅぅっと鷲掴みにされてしまう!!
 激しい眩暈と胃よりせり上がる嘔気。

 こ、こんな事って――――⁉


 室内は薄闇で、寝台の傍にあるナイトテーブルの上へ置かれている小さな明かりただ一つ。
 
 そんな心許無い明かりだけでも十分過ぎるものでした。
 でも今この瞬間彼らにしてみればその心許ない明かり、仄暗い室内は、返って彼らの行為を更に高みへと引き上げていくのには十分だったのでしょう。

 ええ後二日もすれば私達……私とジークヴァルト様が夫婦として使うであろう寝台なのにです。
 今その寝台にはジークヴァルト様と私ではない誰か他の女性ってあれは……アーデルトラウト様⁉

 燃え盛る炎の様に苛烈な、目に映る者へその様な印象を与えてしまう程の真っ赤な髪と黒曜石の瞳を持つ、常に自信に満ちた勝気で強い美女騎士様。

 同じ騎士団である故にジークヴァルト様と共にいらっしゃる所を何度もお見かけしました。
 またお二人は年齢も近く、いえそれだけではありません!!

 頭の切れる事もですが騎士としての剣の腕、仲間からの信頼そして恐らくジーク様とアーデルトラウト様はお互いの背中を預けられる程に心を許し合われていらっしゃいます。
 
 ただそんなお二人に違うものがあるとすればなのです。

 ジークヴァルト様は王家とも繋がりの深い公爵家の当主。
 一方アーデルトラウト様は子爵家のご令嬢。
 然も今では没落寸前だと噂で聞いた事があります。
 
 お互いを想い合えど流石に結婚までは無理だと言う事は成人したての私でも簡単に理解が出来ます。


 何故なら私達は貴族なのです。
 然も我が国は身分や序列に関してとても厳しい。
 平民ならばいざ知らず、常日頃何かと優遇されているだろう貴族にとっての結婚は一種の契約。
 そしてそこに愛情は関係ありません。
 
 とは言え貴族もやはり人間なのです。
 決められた結婚相手、自分で伴侶を選ぶ事の出来ないものだからこそ私も夫となるジークヴァルト様を契約ではあっても心よりお慕いしたい、いいえ幼き頃より既にお慕いしていたのです!!

 お慕いするジークヴァルト様のお心内までは私にもわかりません。
 ですが温かい家庭を、相手を思いやれる様な関係を構築したいと思っていたと言うのに、これは余りにも酷い仕打ち……。


「愛している、……ルお前だけを俺は愛し……ている!!」
「んぁ、私もジーク貴方を愛しているぅぅ!!」

 悲嘆にくれてはいても彼らの姿に少しも目を逸らす事も出来ずただ茫然と見つめていた時でした。
 気怠げなご様子のアーデルトラウト様と目と目が合ったのは……。


 ジーク様との熱で更に艶めき輝きを放つ黒曜石の、これ以上ないくらいにジーク様の愛を手に入れられ自信に満ちたアーデルトラウト様の瞳と一瞬だけ見つめ合う事で思い知ったのです。

 そう私こそがお二人にとってだと言う事を叩きつけられた瞬間でもありました。

 今この瞬間このお屋敷に、これより先ジークヴァルト様のお傍に私の居場所は何処にも……ええ最初から私にはその資格すらもきっとなかったのでしょうね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜

水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。 魔王乱立の時代。 王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。 だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。 にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。 抗議はしない。 訂正もしない。 ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。 ――それが、誰にとっての不合格なのか。 まだ、誰も気づいていない。 欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

処理中です...