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第一章
1 霞の向こうの記憶
しおりを挟む「…………」
う……ん。
「…………」
ん?
「…………」
んー……。
「いい加減起きて下さいませエルお嬢様!!」
「う、うわ、は、はいいぃぃぃぃぃぃ⁉」
目の前には禍々しくも歪に歪ませている様にしか見えない頭に二本の角をにょっきりと生やしている(幻覚です)般若様ならぬテアが――――ってぇ⁉
「て、テア……なの?」
嘘……でしょと言う感じで私はテアを二度見したわ。
一方テアはと言えば両手を腰に当て仁王立ちのままこちらへグイっと上半身を前に屈め覗き込む。
「エルお嬢様。間違いなく私はテア・エデルガルト・フローンに相違御座いません!!」
でもそれにしては色々と、そう色々と若く?
何故なのか不思議な事に随分と幼くなってはいない?
あれ?
確か私は16歳だった……筈。
そしてテアもと言うか皆ってどうだったのかしら。
頭の中が霞がかってぼんやりとするわ。
深く考えれば考える程、思い出そうとすればする程にどんどん記憶が曖昧になっていく。
それでも霞の向こうにいるテアはとってもお胸の大きな女性……。
私は記憶の向こうにいたであろうテアとの違いに何度も彼女のお胸の辺りを見てしまう。
「エルお嬢様。何気にその何とも言えない生温い眼差しで人の胸を見るのだけはやめて頂けませんか」
わなわなと、怒りの余り全身を震わせている様子を見れば間違いなく彼女はテアなのだと即座に理解した。
「ご、ごめんなさい!!」
でもだからと言って今にもあの零れ落ちそうで落ちる事のない絶妙なバランスで以ってパンっと張りのある魅力的且つ大きな爆乳なるものの記憶は鮮烈すぎて、現在との記憶の違いに私は戸惑うばかり。
しかしだ。
ここで自身のお胸の状態をそろりと見ては、記憶の向こうにあったささやかながらも谷間のある胸との違いに著しくショックを受ける。
寝衣の上からでもわかるくらい見事な絶壁。
とは言えお胸の事ばかり考えていても仕方がない。
そう然も結婚を間近に控えた私にしてみればである。
ささやかなお胸女子を妻にしたジークヴァルト様は初夜の折に嘸かしがっかりされる事だろう?
んン⁉
何故ジークヴァルト……様?
何処のってもしかしなくともあの公爵家の、お兄様と同じ年齢のジークヴァルト・ラッツエル様の事……⁉
思い、出した。
全てをと言う訳では……っ⁉
深く考えようとすれば頭が痛くなる。
でも確か、うん記憶の向こうで私はジークヴァルト様と婚約していた。
結婚式を翌日に控えた私は――――!!
私はエルネスティーネ・イェーリス。
由緒正しいキルヒホフ侯爵家の娘。
私のお父様はこのファーベルク王国の現宰相であると同時に幼い頃より陛下の無二の親友。
お母様は国王陛下の妹、つまりは王妹だ。
サラブレッドな家系の子供が私である。
因みに陛下と王妃様の間に生まれたのは全て男児と言うか普通に王子様。
そこの辺りは臣下として、またこれより先国の安泰へと繋がるのだからとても喜ばしいのは間違いない。
そんな我がファーベルク王家とその姻戚関係にある家は何故か皆揃いも揃って男系。
男児が生まれるのは当然であって女児が誕生するのは非常に稀と言う少し変わったもの。
ただそれでも両陛下にしてみれば是が非とも王女が欲しかったのだと、頑張った結果四人もの立派な王子様を誕生させたと言うのに、これは一種のないもの強請りなのではないだろうか。
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でもお願いだから各国の大使や王族方へ我が王女と間違った情報を流すのだけは是が非ともやめて頂きたい。
これって本当にややこしい事になるのだからね!!
話は戻りそうして記憶の向こうでは大変お節介な……いやいや両陛下の有り難いお心遣いにより、王妹を母に持つ私と王妃陛下のご実家でもある現シュターデン公爵家の若き当主ジークヴァルト様と七年前、王命により婚約が調ったのだ。
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