11 / 34
第一章
7 恋心には封印を
しおりを挟む私の年齢は9歳。
テアが我が家へきてまだ半年も経ってはいない。
そしてまだジークヴァルト様との婚約は調ってはいない。
16歳の私からすれば現在は七年前であり、多分このまま何もしなければジークヴァルト様との婚約まで二、三ヶ月しか猶予はない。
そう言えば何故私は死なずに七年前へと戻ってしまったの⁉
確かに三階のバルコニーから飛び降りたと言うのに死んでいないどころか、何処も怪我らしい怪我一つもなく……って子供に戻ってしまったのかしら。
あ、もしかしなくても16歳の私の方が全てが夢だった?
うんうん、夢ならば飛び降りても死なないし怪我もしないよね。
それにしても何ともリアルで生々しい夢だよねー。
全ては夢……いやいやいやいやでは私の長年の初恋すらも全部夢――――ってそんな事はないでしょ!!
だってちゃんと全部、そう全て……え?
長年の初恋?
何それ?
わから、ない。
考えようとすれば頭の中で霞がどんどん広がって……って痛、い。
まるでこれ以上深く考えるなと、何かが私へ警告している様な……。
実際暫く何も考えなければ頭痛はスーッと何もなかったかの様に収まっていく。
このまま何も考えずにただ無為に過ごせばいいの?
それは嫌!!
もうあの悲しい選択はしたくない!!
ずっと好きだったのに、振り向いて欲しくて沢山努力したのにそれでも振り向いて貰えなくて、もうずっと前に心の中ではわかっていた……の。
ジークヴァルト様とあの御方との関係を……。
貴族令嬢ならば誰だって知っているわ。
でも私は認めたくはなかったし受け入れたくもなかったの。
だから鬼教官宜しくと言ったテアの扱きに文句も言わず完璧な淑女となる為だけに血の滲む……本当に出血多量で死にそうになるくらいの努力をしたの。
野猿令嬢と呼ばれない為に。
言葉遣いに始まり小さな所作一つ。
礼儀作法は勿論将来の公爵夫人としてジークヴァルト様の隣に立つ為に相応しい女性になろうと、沢山頑張ってきた事が夢だなんて……⁉
ずっと頑張って正式な妻になれば全ては変わるものだと馬鹿みたいに信じていたあれが……夢?
ではあの最後に見せられたジーク様とあの御方との情事も夢なの?
霞がかりながらも記憶の糸を辿れば、あの時に感じた想いは記憶となって鮮やかに蘇っていく。
全ては夢で私の思い込みではないわ。
少なくとも16歳の私が死を決意する程の、そして死んだ?私の想いを夢という言葉で終わらせはしない。
ズキズキズキズキ。
あぁわかっている。
もうこれが限界なのでしょ。
でも私もこれからの人生と言うものがあるのだから頭痛後時に負けてはいられない。
寝台の上でのたうち回り暫く考えを放棄し頭痛をやり過ごす。
はぁ本当にこれは一種の拷問かしら。
痛いのは余り好きではないのだけれど……。
これ以上記憶を辿るのはやめる事にしたわ。
今から考えるのはこれから先についてだ。
余り理解は出来ていないけれどもどうやら時間が戻ってしまったのならばよ。
馬鹿の一つ覚えの様に二度も同じバッドエンド的な婚約を交わす事は是が非とも回避したい。
とは言えあの婚約は王命……だったよね。
うーんどうしよう。
『この婚約を交わしたら将来私は自死をしてしまいます。なので陛下何卒この婚約はなかった事にして下さい』
等とお馬鹿発言を申し立てたとしても、おいそれと命令を発した陛下でさえ簡単に王命を覆す事は出来ない。
また王陛下のお心を色々な意味で苦しめてしまう。
それは私の本意ではないし……。
王命とはそれ程までに重く力を有するもの。
だからこそ王族との姻戚関係を持つ公爵家の若き当主であられるジークヴァルト様でさえ回避する事は出来なかった。
ましてや王妃様はジーク様の血の繋がった姉君ですものね。
はぁそれにしても私って死を選ぶ程にジークヴァルト様を好きだったのか。
一途だよね。
いやいや一途だけで後先考えずに他人様のお屋敷で死ぬって所が考えなしだわ。
我ながら反省しまくりって、時間が巻き戻った所で反省してどうするのよぉ。
恋は盲目って本当に怖い。
今は恋なんて感情は知らないし、出来れば知りたくはない……か。
ハッピーエンドならOKだけれど、切ないバッドエンドはしたくない。
そうして何となく、そう何となくだったのよ。
死を選んだ未来の、16歳のエルネスティーネがとても可愛そうに思えた瞬間ぽたぽたと涙が零れ落ちていく。
泣き止まなければと思えば思う程にぽろぽろと、いやもうそれは見事なまでに滂沱の涙を流しこの際だから思いっ切り涙が枯れ果てるまで私は泣いた。
報われなかった16歳の私の恋。
きっと未来の私の家族は私の選択に対しとても悲しんでいるだろう。
その中でジークヴァルト様、ほんの少しでも婚約者だった16歳のエルネスティーネを哀れだと思って下さっておられますか。
ダイブしたその先は何もわからない。
遺体はどうなったのか。
時間が巻き戻った私のお葬式はどうなったのか等つらつらどうでもいい事を考えつつ私は泣いた。
それでもよ。
こうして死なずに過去へ戻ったと言う事はきっと何か意味があるのかもしれない。
だとすれば私の取るべき道は一つだけ。
「同じ道だけは決して繰り返さない。だから16歳の初恋に関する諸々の想いは今ここで綺麗に蓋をしてしまおう。そして私は――――」
うん、私はこれから全力でジーク様との婚約を阻止するわ。
そして今度こそ私自身の幸せの為だけに往々しく立派に生きて行く。
ビバ、明るい未来よ!!
3
あなたにおすすめの小説
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
だから愛は嫌だ~虐げられた令嬢が訳あり英雄王子と偽装婚約して幸せになるまで~
来須みかん
ファンタジー
伯爵令嬢ディアナは、婚約者である侯爵令息ロバートに、いつもため息をつかれていた。
ある日、夜会でディアナはケガをし倒れてしまったが、戦争を終わらせた英雄ライオネル第二王子に助けられる。その日から、ディアナは【相手が強く思っていること】が分かるようになった。
自分を嫌うロバートとの婚約を解消するために、利害関係が一致したライオネルと契約婚約をすることになったが、彼の視線はとても優しくて……?
偽りの婚姻
迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。
終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。
夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。
パーシヴァルは妻を探す。
妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。
だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。
婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる