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第一章
6 記憶
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「あぁ私の可愛い。ほんっとうに可愛過ぎるよ私の天使は!!」
ぐふぇ……と淑女らしかぬ呻き声を吐きかけたけれどもだ。
根性で喉の奥へと引っ込ませる事の出来た私を褒めて欲しい。
何故なら声が漏れる寸前、私はテアの凶悪な視線を察知したから必死にっ、それはもう切実にせり上がってくるだろう悲鳴をごっくんと、しっかり呑みこんだのだから!!
あれから王宮を辞して侯爵家のタウンハウスへと帰宅すれば直ぐ追い掛けるように帰宅したのはお父様。
我が国一番忙しい筈の宰相を努めておられるお父様がこうして帰ってこられるのも言うなればこれも何時も通りのルーティン。
私が王宮へ伺候すれば必ず引き剥がし役のお母様の登城と、帰宅していく私達を追い掛ける様に帰ってくるお父様。
一体周りにはどう思われているのだろう。
きっと我儘娘に振り回されているお馬鹿な大人達って、譬え心の中で思ったとしても絶対に口が裂けても言葉として発する事すら出来ないのでしょうね。
何と言ってもその筆頭は伯父様ご夫妻であられる両陛下なのだもの。
その次は宰相が父の、王妹であられる母……これも何処からどう突っ込みを入れていいものか悩む案件よね。
さぁ家族揃ってのディナーと行きますか……はない。
先程まで長時間のお茶会だったが故に私とテアのお腹は当然の事ながら満腹状態。
夕食なんて食べられよう筈もなく、だからと言ってそのまま休む事は許されない。
我が家は貴族にしては珍しく家族団欒は大切なるものと、侯爵家へ降嫁された際にお母様が取り決められたの。
しかしこの状態では流石に夕食を食べるのは無理。
だからお母様達の夕食前に皆でお茶をする事となっている。
そこへ駆け込み宜しくと言った具合に帰宅してきたお父様の情熱的なハグにより身体をぎゅうぎゅうに締め付けられた私は、冒頭の悲鳴を上げかけた……という訳。
本当に何時までたっても力加減一つ出来ないのが私のお父様。
文官なのに何故か筋骨隆々で、見た目は麗しいイケメンなのに身体つきはどこぞの頑強な騎士様ですかって突っ込みどころが満載だわ。
勿論剣の腕も宰相なのに物凄くお強いのよね。
毎朝ちゃんと鍛錬も欠かさないって本当に宰相は力仕事ではなく頭脳職だと思うのですよ。
こうして今日はアルお兄様を除くお父様とお母様、そしてテアと私で家族の団欒をゆっくりと過ごしてからの就寝を迎えた所で私はまた思い出す。
覚えているのは儚げに、心の中は悲しみで溢れ返りそうなのにそれでも精一杯幸せそうな笑顔を湛えている16歳のエルネスティーネ。
愛する人へ最期に笑顔の自分を覚えて貰いたいと願い飛び降りた。
不思議な事にそれ以前の記憶もなければそれ以降の記憶は覚えてはいない。
でも家族や友人達の事は覚えている。
記憶にないのは私自身。
物凄く不安であると同時に物凄く怖い!!
本心を言えば大きな声で泣き叫びたい。
泣き叫びたい気持ちとそれを制する気持ちが綯交ぜとなり更に不安に駆られてしまう。
それでも目覚めてからずっと笑顔でいられたのは皆に心配を掛けたくなかったからだよ……ね。
過去の記憶は皆との絡みで覚えているとは言えどそれはウロでしかない。
一方未来に関しては現在から16歳の最期の瞬間だけしか覚えていない。
その間の記憶がすっぽりと、まるで最初から存在等していないかのよう。
「……っ、な、んでかなぁ。どうし……」
どうして記憶が……ううん、これ以上泣いちゃダメ。
泣いていた事がわかればきっと皆物凄く心配する。
笑顔で明るい私でいないと。
と、兎に角先ずは覚えている事を把握しようか。
何時また、記憶がなくなるのかもしれない。
そんな恐怖と闘いながらも私は霞みがかる記憶を何とか繋げる事に集中した。
ぐふぇ……と淑女らしかぬ呻き声を吐きかけたけれどもだ。
根性で喉の奥へと引っ込ませる事の出来た私を褒めて欲しい。
何故なら声が漏れる寸前、私はテアの凶悪な視線を察知したから必死にっ、それはもう切実にせり上がってくるだろう悲鳴をごっくんと、しっかり呑みこんだのだから!!
あれから王宮を辞して侯爵家のタウンハウスへと帰宅すれば直ぐ追い掛けるように帰宅したのはお父様。
我が国一番忙しい筈の宰相を努めておられるお父様がこうして帰ってこられるのも言うなればこれも何時も通りのルーティン。
私が王宮へ伺候すれば必ず引き剥がし役のお母様の登城と、帰宅していく私達を追い掛ける様に帰ってくるお父様。
一体周りにはどう思われているのだろう。
きっと我儘娘に振り回されているお馬鹿な大人達って、譬え心の中で思ったとしても絶対に口が裂けても言葉として発する事すら出来ないのでしょうね。
何と言ってもその筆頭は伯父様ご夫妻であられる両陛下なのだもの。
その次は宰相が父の、王妹であられる母……これも何処からどう突っ込みを入れていいものか悩む案件よね。
さぁ家族揃ってのディナーと行きますか……はない。
先程まで長時間のお茶会だったが故に私とテアのお腹は当然の事ながら満腹状態。
夕食なんて食べられよう筈もなく、だからと言ってそのまま休む事は許されない。
我が家は貴族にしては珍しく家族団欒は大切なるものと、侯爵家へ降嫁された際にお母様が取り決められたの。
しかしこの状態では流石に夕食を食べるのは無理。
だからお母様達の夕食前に皆でお茶をする事となっている。
そこへ駆け込み宜しくと言った具合に帰宅してきたお父様の情熱的なハグにより身体をぎゅうぎゅうに締め付けられた私は、冒頭の悲鳴を上げかけた……という訳。
本当に何時までたっても力加減一つ出来ないのが私のお父様。
文官なのに何故か筋骨隆々で、見た目は麗しいイケメンなのに身体つきはどこぞの頑強な騎士様ですかって突っ込みどころが満載だわ。
勿論剣の腕も宰相なのに物凄くお強いのよね。
毎朝ちゃんと鍛錬も欠かさないって本当に宰相は力仕事ではなく頭脳職だと思うのですよ。
こうして今日はアルお兄様を除くお父様とお母様、そしてテアと私で家族の団欒をゆっくりと過ごしてからの就寝を迎えた所で私はまた思い出す。
覚えているのは儚げに、心の中は悲しみで溢れ返りそうなのにそれでも精一杯幸せそうな笑顔を湛えている16歳のエルネスティーネ。
愛する人へ最期に笑顔の自分を覚えて貰いたいと願い飛び降りた。
不思議な事にそれ以前の記憶もなければそれ以降の記憶は覚えてはいない。
でも家族や友人達の事は覚えている。
記憶にないのは私自身。
物凄く不安であると同時に物凄く怖い!!
本心を言えば大きな声で泣き叫びたい。
泣き叫びたい気持ちとそれを制する気持ちが綯交ぜとなり更に不安に駆られてしまう。
それでも目覚めてからずっと笑顔でいられたのは皆に心配を掛けたくなかったからだよ……ね。
過去の記憶は皆との絡みで覚えているとは言えどそれはウロでしかない。
一方未来に関しては現在から16歳の最期の瞬間だけしか覚えていない。
その間の記憶がすっぽりと、まるで最初から存在等していないかのよう。
「……っ、な、んでかなぁ。どうし……」
どうして記憶が……ううん、これ以上泣いちゃダメ。
泣いていた事がわかればきっと皆物凄く心配する。
笑顔で明るい私でいないと。
と、兎に角先ずは覚えている事を把握しようか。
何時また、記憶がなくなるのかもしれない。
そんな恐怖と闘いながらも私は霞みがかる記憶を何とか繋げる事に集中した。
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