21 / 34
第一章
17 夢の中
しおりを挟むその夜私は夢を見た。
『さようなら、どうぞお幸せに……』
その言葉を最期に私はふわりとした浮遊感を身体に感じた刹那――――地面へと、凄まじいスピードで地上に向かって一人堕ちていく。
叶うならば最期の死顔までも笑顔で、ジーク様の瞳に映る最後の私は笑顔でありたいと思っていた。
何故なら初めて好きになった御方なのだもの。
だからこそ私の嫌な部分は少しも見せたくはない。
えぇそう私はジークヴァルト様に笑顔の私だけを覚えておいて欲しいの。
ジークヴァルト様の御心のほんの片隅でもいいのです。
ジーク様、貴方を慕っていた娘がいたと言う事を……。
えーっと夢これってよね?
でも9歳のエルネスティーネの前に16歳の、あの日バルコニーよりダイブしたままの姿。
そうウェディングドレスを纏うエルネスティーネが佇んでいた。
『私はエルネスティーネ。私は貴女と……の私。まだ本当の意味での恋を知らない、そしてジーク様の為だけに立派な淑女足らんとしていた私は貴女でもあるのですよ』
あぁ確かに……そう言われればすとんと納得出来た。
あの頃の私の全てはジーク様一色だったもの。
誕生祝いで陛下より引き合わされ、私の婚約者となられるジークヴァルト様を見た瞬間私は恋に堕ちた?
いやその前に幾ら王命とは言えよ。
7歳も年上の、成人を迎えたばかりのジーク様の相手がたった9歳の小娘ならぬ野猿⁉
またその時に感じたのは自分自身が余りにも子供だと言う現実?
野猿のままではいけない――――と!!
素敵なジークヴァルト様の隣に並ぶのは誰よりも素敵な淑女でなければダメなのだと……ね。
『えぇだから貴女でもある私は血の滲み出る様な努力を積み重ねたのですもの。礼儀作法は勿論、ダンスにピアノそうして細かな所作から淑女らしい言葉遣い。悍ましい過去を綺麗にラッピングをした上厳重に心の奥へと封じ込めればジークの好みや趣味を……ジークの見ている景色を知りたいと思っておりましたのにね。ふふ本当に愚かね』
え、エルネスティーネ……?
『エルネスティ-ネ貴女はまだ何もわかってはいない。そう気づく筈はない』
な、何を……。
『ふふそうして何時までも幼い子供のままでいなさいな』
子供のままだなんて……。
『ただこれだけは忘れないで。何処へ逃げても何も変わりはしない。ジークの心には……アーデルが⁉』
『エルネスティーネぇぇぇぇええええええええええ!!』
『ふふ何処までも……邪魔をするのね』
ジークヴァルト様のものだと何故かわかってしまった。
悲痛で悲し気な声で私の名を叫ぶ……えっ⁉
急速に地上へと堕ちていく私の傍にもう16歳のエルネスティーネはいない。
でも私の身体が何か、そう何か優しくも温かなもので包まれていくと同時に私の心が急速に熱を帯び……。
『死ぬなああああああああああああ!!』
今までの急速に堕ちていくスピードがなくなればだ。
ふわりと雲の上にいる錯覚を感じると共に眩い光が私を、私の対面には涙を必死に堪え顔を醜く歪ませた16歳のエルネスティーネがいた。
『狡い、狡くて酷いよジーク。何時も貴方は真実の私を―――……』
あれ、何も聞こえないよエルネスティーネ。
見る間に霞んでいく16歳のエルネスティーネへ感じる微かな違和感。
もしかして失恋のショックで頭のネジが何本か飛んで行きましたか⁇
でも消えていく彼女は必死に何かを私へ伝えようとはしてくれているのだけれど、生憎ながら私には何もわからない。
そうこれは夢。
現実ではない。
果たして今が現実なのかも定かではないのだけれど……。
だたわかるのは私は徐々に眩い光に包まれていく。
それと同時に地上より微かに見えていた一面に広がり咲き乱れていたのは禍々しい青い花。
今まで一度たりとも見た事のない花。
青いのに何故か鮮烈且つ赤黒さを連想させる様な花とその色に一瞬の恐怖を覚えはするも、それよりも何よりも私を包み込む光によって恐怖は一瞬で霧散する。
あれは一体何だったのだろう。
単なる夢それとも――――。
何はともあれ私はもう直ぐ夢から覚めるだろう。
そう新しい日常へと向かって……。
2
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜
水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。
魔王乱立の時代。
王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。
だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。
にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。
抗議はしない。
訂正もしない。
ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。
――それが、誰にとっての不合格なのか。
まだ、誰も気づいていない。
欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる