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第二章
1 お兄様の親友
しおりを挟むそれから暫くの間は比較的……表面的には落ち着いた日常を過ごしている。
勿論毎日のテアの淑女レッスンの厳しさは変わりはない。
そう変わりがない筈なのにどうしてこの御方は今ここにいらっしゃるのでしょう。
確か初見で会うのは王命による婚約式の時だった筈!?
そしてアルお兄様、お兄様の笑顔はとっても凶悪に見えますわよ。
妹の精神に支障をきたす様な笑顔は是が非とも止めて頂きたいわ。
「御機嫌ようエルネスティ-ネ嬢。これは愛らしい貴女へのプレゼントだよ」
「ご、御機嫌よう……ですわ。じ、しゅ、シュターデン公爵様⁉」
は、恥ずかし過ぎる!!
緊張と驚きの余り何度も言葉を噛んでしまったわ。
「シュターデン公爵ではなくそこは是非ジークヴァルトと、いやジークと呼んで頂けると嬉しいよ」
「じ、じーくさまぁ?」
「そう彼は僕の親友のジークだよ。でもエルが何も気にする必要はないからね」
清々しい?いや禍々しい笑みを湛えるお兄様の、まさかの親友ぶった切りってアリですか。
とは言え今は胸が、何故か物凄く心臓が煩くて、挨拶の際に頂いてしまった大きな兎の、とてもふわふわモコモコとして極上の触り心地の良いぬいぐるみへ掴まる形でしっかりと抱き締めてしまった。
そんな何とも頂けない私の様子にジーク様はふわりと破顔一笑されたの。
どきどき。
あぁもう心臓が煩い!!
本当にお優しくも穏やかなイケメン度が数百倍跳ね上がるのは勿論の事だけれど、七年もの間婚約者だった私は一度たりとも見た事はなかった。
こんなに素敵に微笑まれられるジーク様を私は今初めて知ったわ。
胸のどきどきは変わりないけれども何故か胸の奥がちくりと、何とも言えない痛みがじわりと静かに広がれば、余りにも切なくなり過ぎて思わず泣き出しそうになってしまう。
だから兎のぬいぐるみへぐっと強く自身の顔を押し当てる。
だってそうでもしなければきっと私は泣いてしまうもの。
何故今になって私へ気を遣って下さるの。
前回の私は一体貴方の何だったのですかジーク……様。
王命によって初めて引き合わされた私達の七年と言う時間は何だったのでしょう。
わからない。
エルネスティーネは何もわからないのです。
9歳で、貴方と出逢うほんの少し前に目覚めたそれまでの過去の記憶が酷く朧気で、最後のジーク様とのやり取りは覚えているものの9歳より以降の記憶がわからない。
でもジーク様の今の行動は更にわからないと言うよりも、全く理解が出来ないと言ったところですけれどもね!!
だ、大体ジーク様にはアーデルトラウト様と言う恋人がいらっしゃる筈なのに、どうして婚約も交わしていないただの友人の妹でしかないモブの私へ態々会いに来られたの?
おまけにこんなにも可愛い兎の、ずっと前より欲しいと思っていたものが形となって表れたのですもの。
嬉しいと素直に思う気持ちと色々な理解しきれない複雑な想い。
一体私はこれからどうなっていくのかしら。
いやいやそこは少し冷静になろう私よ。
ドストライクな贈り物に絆されてどうするの。
そう先ずはジーク様との婚約をなかったものとして動かなくては……ね。
とは言えこの兎さんはしっかりモフらせて頂きます。
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