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本編

3  初恋

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 それからの一週間、何事もなく穏やかで静かな時間が流れていく。
 ラファエルにとって生まれて初めて心から安らいだ時間でもあった。
 怪我を負っている故に何かをするという訳ではない。
 また滞在している小屋が王宮の様に何でも整っている事もない。
 日がな一日ほぼ寝台で過ごす事により改めてラファエルは思う。

 寧ろこの小屋で本当にずっと人が生活をしていたのかと疑いたくなる程に生活感と言うものはなく、物も必要最低限しか見られない。

 ほんの僅かに抱いた違和感と疑問。
 だが時間の経過と共にそれらを忘れてしまう。
 何故なら同じ時を過ごす事によりそれらを遥かに上回る、15歳のラファエルが初めて知る感情によって強制的に見えなくさせてしまったからだ。


 一日二日、三日と時間が流れて行けばいく程に、これまで感じた事のない感情が育ちつつあった。
 まだ名も知らないその感情によりラファエルの心はほんのりと温かく、幸せに満たされていく。

 恐らくその感情の発端は彼女、マリアーナの存在。
 
 確かにマリアーナと言う少女は物事をはっきり言葉にする娘ではあるのだが、その分表裏のない明るい性格をしている。
 容姿も村娘とは思えない程に美しくまた垢抜けており、金色の流れる髪に妖艶さを秘めた美しい紫色の瞳。
 いや容姿だけではない何か、そう人を惹きつける魅力を持った娘なのである。
 
 ただ見目の美しい、自らの容姿に自信のある娘ならばほかにいくらでもいるだろう。
 現実にラファエルもそんな娘達をよく知っている。
 自らの容姿を、美しさをひけらかし我こそは未来の王太子妃へ、王妃へなるのだと醜い争いを繰り広げる娘ならば王都には掃いて捨てる程いるのだが、今ラファエルの目の前にいるマリアーナだけは違った。

 ラファエルと寝食を共にしようとも決して己が美しさをひけらかす事はなく、早朝早くに目覚めたと共に真面目に働けばだ。
 忙しい中でも嫌な顔一つせずラファエルの傷の手当てや食事の用意を甲斐甲斐しくしてくれるのだ。

 そして何より不意にラファエルの目の前に現れては屈託のない零れんばかりの魅力的な笑顔で、彼が退屈しない様にと他愛のない話を仕事の合間にしてくれるのである。

 この一週間でラファエルはマリアーナの笑顔がいや、彼女の成す事の全てが愛おしくなっていた。
 異性に対しこれ程までに大切にしたいと、何ものにも代え難い、そう思える者と出逢ったのは初めてだった。

 そうラファエルはマリアーナに恋をしていた。

 叶うならばこの先の人生をマリアーナと共に、王となる自分の隣にいて欲しいと願ってしまう。
 彼女さえ自分を選んでくれさえすれば身分の差等関係はないと断言できる程にである。
 マリアーナがラファエルの手を取ってくれれば周りからは何も言わせないくらい為政者として励めばいいだけ。

 この時のラファエルにはマリアーナを生涯護り抜く自信があった。
 まだラファエル自身の正体を明かしてはいなかったのだが、それに関しては追々ゆっくりと話せばいいと思っていたのである。
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