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本編

5  禁断の果実と告白

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 池の畔へ到着するとサンドウィッチを食べつつ、二人は他愛のない話をしてピクニックを楽しんだ。

 時間はゆっくりと流れていく。
 永遠にも等しい至福の時間。
 ラファエルは柄にもなくこのまま時が止まればいいのに……と思ってしまうくらいの優しい時間。
 だが彼は恋しい女性を手に入れる為に敢えて至福の楽園に実る赤い果実をもぎ取れば、その禁断の果実を口にした。

「マリアーナ、俺はお前を愛している。俺はお前の全てが愛しいのだ。どうか俺と共に生きて欲しい」

「エル……」
「愛しているマリアーナ。どうか俺と共に生きてくれないか」

 熱く、熱を孕んだ蒼い双眸がマリアーナの紫色の瞳を離さない。
 マリアーナは一瞬躊躇し、その絡みつく様な熱い視線から逃れようと藻掻こうとする。
 とは言え太い樹に凭れて座っていた彼女に逃げ場はない。

「お願いだマリアーナ、俺を愛してると言ってくれっっ」

「エル……!?」

 右手でマリアーナの肩を掴み、ラファエルは彼女の柔らかい唇へ自分のそれをそっと重ねた。

 触れ合うだけのキス――――。

 マリアーナが何も抵抗せずにそれを受け入れてくれた事で気を良くしたラファエルは、初めての経験とそれより先の期待に胸を膨らませ、最初はたどたどしくも角度を変えながら何度も啄ばむ様にキスを重ね、やがて回数を増す毎にゆっくりとそして深く激しいキスへと形を変えていく。

 15歳の血気盛んな少年が一度走り始めれば中々とブレーキなんてものは出来ない。

 マリアーナが吐息を漏らすそれさえも貪るように吸いつくし、彼女の唇を開き歯列をなぞり、逃げようとする彼女の舌を捉えては絡みつき、何時しか口の端からどちらの唾液かわからないものが溢れて流れ落ちる事も厭_わず彼女とのキスを堪能する。

「んっ、ふぁ……っっ、エ、ルぅっ」
「あぁマリ、マリ愛しい。マリっ!!」
「エルっ、あた、しも……あなたの事が好き!! だけどあなたは貴族のお坊ちゃまでしょ? 平民のあたしなんかとは身分違いだ、からきっと皆に反対され――――!?」

 マリアーナの必死な抗議もそのまま呑み込む様にラファエルはぷっくリと朱く膨らんだ唇へ噛みつく様にキスをする。
 そして心ゆくまで彼女の唇を堪能した頃マリアーナはトロンと蕩けきった顔と潤んだ瞳でラファエルを自信なさげに見つめていた。

「何も心配はいらない愛しいマリ。あぁ絶対誰にも反対はさせないよ。それから今まで黙っていて悪い。実は俺は貴族のお坊ちゃまではなくてこの国の王太子なんだ」

「王……太子、殿下!?」
「うん、だから君には……」

 照れくさそうに真実を告げるラファエルに対しマリアーナは見る見る顔色が悪くなり、紫の瞳からは涙が幾筋も流れていく。


「かっ、帰って!! エルなんて嫌いっ。酷いよ。幾らあたしが平民だからって大勢いる愛人の一人くらいにしか考えてないんでしょ!! 王子様だからって何でも言う事なんてきかな――――っっ!?」

 マリアーナは憤慨し泣き叫びながらラファエルの身体より抜け出そうと必死に暴れた。
 その様子に驚いたラファエルだったのだが直ぐに彼女を自分の胸へと引き寄せれば、泣き喚く彼女の唇へ自分の唇を以って強引に蓋をする。

 何度もキスを繰り返すラファエルへ抗議の姿勢を貫いていたマリアーナ。
 そんな彼女が大人しくなるまで彼はその唇を決して離さなかった。
 やがて暴れるのを諦めたのか、ラファエルの頑丈な腕の中で大人しくなったマリアーナが顔を真っ赤にし上目遣いで一言「狡い……」と小さく文句を言う。
 そんな可愛い顔をするマリアーナを見たラファエルは弾ける様に破顔させると直ぐに柔らかな笑みを浮かべる。

「馬鹿だなマリは……」
「どうせ馬鹿よ。平民だもん王子様とは違うからっ」

 可愛く拗ねてみせるのだがその1つ1つの何気ない動作でさえ、ラファエルにしてみればマリアーナという女性の存在は愛し過ぎるのだ。
 そして彼女を抱きしめたまま背中を優しく撫でる。

「俺はお前を愛人にしたくて告白したのではない」

「じゃ、じゃあどんな心算で……?」

 ラファエルは抱きしめていた腕を放しマリアーナの涙で濡れた瞳と頬へ手を添えれば、啄ばむ様に優しいキスを落とす。

「マリアーナ、どうか俺の正妃になって欲しい。これから先俺の隣で何時までも笑っていて欲しい」

「〰〰〰〰いっ。狡いよエルっ」

「何がだ?」

「そ、そんな事っ、こんなに優しい声で言われたら嫌だって言えないじゃない!!」
「俺は最初からマリに拒否させる心算なんかないよ。俺にはお前が必要なのだからな」

 そうしてまた優しいキスをマリアーナへ落としていく。


 想いが通じた翌日、彼の予想通り王宮より彼を迎えにやってきた。
 ラファエルはマリアーナへ直ぐに迎えに来ると約束をすれば、一旦長期不在にしていた王都へと帰還した。
 マリアーナはそんなラファエルの姿が見えなくなるまでずっと見送ってた。

 涙をとめどもなく流しながら……。
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