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第二部  第二章  泡沫の夢と隠された真実

18  邪神の作り出したる神殺しの剣

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 悲しむと言うには余りにもインノチェンツァの、ダーリアを永遠に失ってしまったエレウテリオに対し何処までも冷静にまた淡々と、温かな感情の一欠けらさえ感じ取れない永久凍土の様な冷た過ぎる言葉だった。

 だがその違和感ですら今のエレウテリオにはもう気付く事はない。

 ただただダーリアへの切な過ぎた、失って初めて彼女の存在の大きさに気づかされてしまったエレウテリオのとるべき道はたった一つしかなかったのである。


「……紛い物人間に出来て鍛冶の神であるこの俺が創り出せない訳がない!!」
「そうじゃ、そうよのう、そなたはこの世界唯一の鍛冶の神なのじゃ。人間如きの作り出す紛い物ではなく、真に神をほふり二度と過ちを犯せぬ様永劫の呪いを備える剣をエレウテリオよ。そなたならば完璧なものを作り出せるであろう」

 インノチェンツの煽る様な言葉にすらも簡単に反応すればそのままエウレテリオは操り人形の如く最後の言葉を口にした。

「当然の事を言うなインノチェンツァ!! 俺は直ぐに山へと戻りダーリアの為に神殺しの剣をっ、サヴァーノですら屠る事の出来る完璧なるものを生み出してみせる!!」
「そうじゃ。ほほほ、そなたであれば見事成し遂げるであろう。無事完成した暁には是が非とも妾達に見せに来るとよい。さすればそなたのダーリアの敵の居場所を教えてやろうぞ」


 嫣然たる笑みを湛えるインノチェンツァにエレウテリオは約束だぞ――――と言葉を残し大神殿を後にした。





「……上手く事が進んだなインノチェンツァ」

「ふふふ、まだじゃ。そう慌てるではないサヴァーノ――――とは言え妾も久方ぶりに心が躍る思いじゃ」

 サヴァーノはインノチェンツァの美しい顎をそっと掬い上げれば、その形よくも血の様に赤い彼女の唇へ自身のそれをゆっくりと重ねていく。

「ほんに困った奴……ンあっ」
「愛おしいインノチェンツァ。そなたは我だけの……モノ!!」

 何度も角度を変えては口付けていく。
 そうして何時しかインノチェンツァの薄く開いた唇よりサヴァーノは自身の熱い舌を彼女の口内へと侵入させればだ。
 徐々に淫猥な水音を響かせながらも深く口付け、彼女の後頭部をしっかりと固定すれば彼は思うまま口内を余す事無く堪能する。


 サヴァーノにはローザと言う自身が生み出した妻神がいるのにも拘らずにである。

 母親であるインノチェンツァを何処までも、そしてより深く彼女の胎内の隅から隅までを何度も暴き堪能しようともインノチェンツァを求める衝動が尽きる事はない。

 いや、インノチェンツァの麻薬の様に甘くも中毒性の高い身体を知れば知る程である。

 サヴァーノは甘美で底なしの泥沼へと嵌り永遠に抜け出せなくなってしまうと言うか、自らそこへ嵌りに行っているのだが……。
 

 しかし一方心の中ではローザを愛しいとは思うのだ。

 だがしかし自身よりもガイオと先に出逢ってしまったローザの心の中にはサヴァーノの存在は何処にもない。

 最高神の妻神としてサヴァーノの傍に侍る事のないローザ。

 大神殿でサヴァーノと暮らす事無くバルディーニの奥にある寂れた小神殿でひっそりと、まるで忘れ人の様に暮らすローザ。

 とは言え女神として、またサヴァーノの妻神としての務めを疎かにはしなかった。

 第一歪んだ心を持つサヴァーノの所為で瘴気に覆われ堕落と破滅への一途を辿る楽園は、ローザの行う浄化によってまだ一応住める程度には維持が出来ていたのだ。


 本来ならばローザと真の夫婦となり、更に彼女の御力を引き出す事でこの穢れに満ちたバルディーニをあるべき姿へいや、全てを無へ還し何もかも最初からやり直す筈だった。

 サヴァーノ自身その意思があっても受け入れてくれるだろうローザの意思が伴わねばそれは意味をなす事はない。

 またローザを求めはしてもやはり何だかんだとサヴァーノはインノチェンツァを恋うる気持ちも抑えられないでいた。

 ガイオを深く求めるインノチェンツァにただ都合よく利用されているとわかっていながらも、それでも愛する者を心までとは言わない。

 ほんのひと時でも、今この瞬間身体を重ねるだけの関係なのかもしれない。

 サヴァーノがインノチェンツァがお互いの身体を貪っている間だけは、彼女は彼をその瞳に映しているのだから……。




「出来たぞ!! これこそこの鍛冶の神エレウテリオ渾身の作だ!! これに一度でも刺されればその神は単に封じられるだけではない。俺の御力をありったけ注いだこれはただ封じられるのではなく、永劫の呪いをその身に受けると同時にだ。どの様に逃れたくとも決して死す事も生き続ける事も叶わぬ呪いを永遠に受け続けるのだっ!!」


 それは突然の出来事だった。

 エレウテリオが山へ籠って数百年後、何の先触れもなく突如大神殿へ現れた彼は以前の様な善良な神とは到底思えなかった。

 ギラギラと憎しみの業火で全身を焼いたかの様に肌色の肌は真っ黒へと様変わりすればだ。

 大きな身体と飢えた獣の様にギラつかせる恐ろしい瞳をした邪神と変わり果てればその手にはしっかりと妖しくも鈍色に光る小さな短剣が握られていた。
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