葵 ~永遠に還る笑顔

Hinaki

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第二章

【9】

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「いや本当に申し訳ない」

 そう言って私へ頭を下げる八雲さんと、彼から日本語が聞けてあからさまにほっとする私。

「中尉の山形弁は葵ちゃんには通じへんで」
「俺のは庄内弁だ」
「いや京都に住んどる俺らからすれば山形弁と庄内弁の区別は全然つかへんと前もゆうたで」

 三条さんの突っ込みにうんうんとうなずく私の隣で、なぜか西園寺さんも同じく頷いていたりする。

「ほら俺も、いや自分は帝都出身なものなので当然山形弁や庄内弁は理解し兼ねるんですよ」

 にこやかに、うーん似非スマイルと言うんやろうか。とにかく年上の男の人から敬語を使われるのはなんか擽ったいからやめてほしい。ついでに似非スマイルも。

「あぁ春夏冬ぃ、葵嬢が俺を見つめる眼差しが冷たくて俺の心は凍てつく冬の様に凍えてしまいそうだ」

 うげ。

「西園寺その辺でやめておいたほうがいい」

 私は激しくうなずいた。

「何故なんだ? 俺は紳士として葵嬢を丁重にもてなそうと……」
「だーかーらー私はお嬢やないって言っているでしょ。それに自分より年上の男の人から敬語で言われるのも慣れてへんっていうか、家族と病院の先生以外の男の人とあんまり話した事がないん。せやから……」

「何なんこれ。あー物凄く可愛い!! どう見ても葵嬢はご両親から大切に、そして愛されている箱入り娘さんでしょう」
「い、いや箱入りというか、寝たきり娘だったような……」

 今も現在進行形で意識不明のまま寝たきりだよ。

「と、とにかく西園寺さんはこれから葵嬢呼びは禁止なんわかった?」
「では三条と同じく葵ちゃんでいいでしょうか?」

「……うん」

 あかん、めっちゃ照れる!?
 ほっぺたあこうなってへんやろか。そう思って両手で自分のほっぺたをペタペタ触れば、また隣で西園寺さんが煩い。いや西園寺さんだけやなく三条さんも「俺の妹めっちゃ可愛い」って言うし、もうめっちゃはずいやん。

「あ、敬語で思い出した。葵ちゃん春夏冬の敬語はいいのかい」

 それを訊いてきたのはもちろん西園寺さんだ。

「え、いいんやないのかな」
「だって春夏冬は基本誰でも敬語だよ。当然葵ちゃんにも敬語で話しているでしょ」

「うんそうだよ」

 何をいうのかと思えば。

「だって俺は敬語がダメでなんで春夏冬はいいのかな?」

 しつこいなぁ。

「えー春夏冬さんだからいいんだよ」

 その時一瞬だけ春夏冬さんと視線が合うと、彼は私へ微笑んでくれた。その一瞬を見逃さない西園寺さんは「春夏冬だけ特別なの狡い!!」と大声で何度も叫んでいる。本当に今夜は一体どうしはったんやろ。全員というわけやないけれど、何か顔が赤うなっている人がちらほらといるんよね。まるで――――。

「今夜は酒が振舞われたから皆酔っているんだよ」

 教えてくれたのは八雲さん。

「お酒飲んでって、さっきはというかこちらこそ初めましてと急に現れてごめんなさい」

 遅くなったけれど私は八雲さんへ挨拶をした。あと急に目の前に現れたからめっちゃ驚かしたと思うし。

「いやそれはいいよ。葵ちゃん……俺もそう呼んでいいかな?」
「う、はい」

 八雲さんは中尉やから春夏冬さん達よりも偉い人の筈。だから私も敬語を……と話し始めたら止められてしまった。

「いいよ葵ちゃんは。三条や春夏冬から葵ちゃんの事を報告は受けていたんだ。ただ実際に会っていなかったから、突然、うん、夜さ出でてきたもんだが、おめぇがなって」

 最後の辺り何を話しているのかちんぷんかんぷん。

「あーごめん、俺あまり話をするのが得意じゃなくてね。気を張っていると東京弁と言うのか標準語を話す様にしているのだけれど、偶に気が抜けたり驚いたりしたらこうして故郷の庄内弁で話してしまうんだ」

 なんて器用な人というか面白い熊のお兄さんだ。

「じゃあさっきのは? 夜さ……って言うのは?」
「あぁ夜さ出でてきたもんだが、おめぇがなていうのは、夜に現れたものだからって意味だよ」

 まぁ夜に、幽霊ならぬ幽体がぼや~って現れればそこは普通に驚くわな。

「じゃあ一番最初に私の顔を見た時言った言葉の意味は?」
「えーっとこのごと、だったかな。うん、これは一体どういう事だって意味だよ」

 おおーそうやったんだぁ。

「じゃ次はその後にお化けなんちゃらって」
「あはは、おばけでねぇって聞いだども、ほんてだば身体すっけてらがの事だよね。それは、幽霊ではないと聞いていたが、本当に身体が透けているじゃないかって意味だよというか、さっきの俺は本当に吃驚して本当にごめんな」

 庄内弁通訳さんみたいでめっちゃいい!!

「あ、でも八雲さんの反応は普通っちゃ普通だよ。むしろ普通でないのは春夏冬さん達だと私は思う」
「えーそれ言っちゃうの葵ちゃん」
「葵ぃ、お兄ちゃんは悲しいぞぉ」

 絶対酔ってる。この酔っ払い兄ちゃん達め……と私が三条さん達を睨むと八雲さんは寂しそうに笑って……。

「そのまま酔わせてやっておいてくれ。たとえ酔っていなくても酔った振りでもしたいんだよ」

「どう、いう事?」

 なんかめっちゃ嫌な予感というか、えーっとフラグが立ってしまったってヤツ?
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