御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki

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「実は私も飼っておりましてね、東の国に住んでいた影達を数名ですがね」
「影を数名飼っている?」

 
 俺は公爵の口調に疑問を抱く。
 何故なら影とは言え相手は人間。
 奴隷制度のない我が国においてと言う表現は可笑し過ぎるだろう。
 なのに俺の抱く疑問さえも公爵は事も無げに言う。

「ああ殿下は少々誤解をしておられる。確かに我が国では奴隷制度は禁じられ既に廃止されております。しかし法律とは常に抜け穴と言うモノが往々にしてあるのです。私の飼っている影達も然り。この国の人間は奴隷となる事を禁じられておりますが彼ら……そう私の影達は他国の人間。それも遠い東の国でも裏世界の者として表舞台へ出る事を極力禁じられ、力を持つ者へ飼われれば生涯身を呈して主へ尽くす様に育てられた言わば一種の闇のプロ集団とでも言いましょうか、昔こそは鎖国をしておった時代もあり影達を外国へ流出させる事もなかったのですが、今の時代は相手の望む金額さえ払えば飼い主の望みに応じた影が送られてくるのですよ」

 因みに私は幼女の影を数名注文したのですがね、何故か一名だけ欠品となりましたが世間とはいやはや狭いものですな。

 うっそりとほほ笑むリドゲート公爵の言わんとする事を今ならばわかってしまう。
 何故ならキャシーの子飼いである咲弥は間違いなく公爵のモノとなる筈だった影なのだろう。
 何か手違いが生じた結果、飼い主である公爵の手より逃れ異国である我が国でキャシーに拾われたのだ。

 まあロリコンと名高い公爵の事。
 多分に影の仕事もだが間違いなく彼の趣味となるのは必至だろう。
 しかしそんな咲弥も今では19歳。
 幾らロリコン趣味でも19歳は既に大人なのだ。
 きっともう咲弥には興味はなくあるとすれば支払った対価か。

「殿下私は何も年齢だけで終わらせる心算つもりはないのですよ。まああれは偶然でしたけれどね。王宮内でキャサリン王女の侍女として仕えているあの娘に会った時は大層驚きましたよ」
「しかし咲弥は既に19歳。貴方の趣味範囲では……」
「殿下は何を見てロリコンとそうでないものを決められるのです」

 脂ぎった笑みを湛えたまま俺を見据える公爵に何某かの違和感を感じてしまう。

「……年齢では、ないのか?」

 ロリコンならば幼子が対象だろう。
 それ以外何が……⁉
 
「ええ、殿下がお感じになったものですよ。あれは、あの娘こそは私が大枚をはたき手に入れようとした者でしてな。数年前は行方をくらましてしまったと聞いてさぞ落ち込みましたが、いやいや世間は意外と狭い。欲しいものが直ぐ傍にあったのですからね。そうあの娘は19歳にしては随分と小柄で、然もまだまだいとけなさを残しておるでしょう」

 確かに言われるまでもなく――――だ。
 咲弥は出会った頃より余り成長をしてはいない。
 元々小柄だったがでも仕事を完璧にこなしてきただけにあまり違和感を感じてはいなかった。
 いや、キャシーとキャシーの願いを叶え続ける咲弥が空恐ろしくも感じ、俺自身が余り咲弥との交流を善しとしなかっただけなのだ。

「あの娘は影の中でも頭領の末娘でしてね。昔より聡い娘でしたが身体が未成熟過ぎて、ですが誰よりも優秀過ぎる故に仲間より薬を盛られたそうですよ。成長が止まってしまう毒薬。もう良い年齢なのですが女になれない哀れな娘。実に私の理想の天使、いや影ですから堕天使でしょう。私の夢の塊そのものが咲弥なのです。私は何としてもあの娘を手に入れたい。その為だけに……」
「キャシーとの結婚をすると言うのか!!」

 キャシーこそが傀儡の妻でありキャシーに仕える咲弥が真実の妻!?

 そ、それが真実故に継嗣問題はキャシーの産んだ子となるのかっっ。
 公爵の欲する咲弥が子を産めぬ身体故に……。
 
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