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閑話 全ては愛する姫の御為に sideリザ
しおりを挟む「アンジェ様どうか少しだけでも食べて下さいませ」
「……嫌、もう何も食べたくはないの」
「ではせめて料理長渾身の作であるポタージュは如何でしょうか」
「……料理長には申し訳ないけれどもう駄目なのです。何も、ああこのまま早く儚くなってしまいたい。うぅ」
「アンジェ……様」
こうして押し問答をするも一時間、お出しした食事すらも殆ど食べて下さらない。
このアッシュベリーいえ、あの悍ましい出来事を知ってしまった日よりアンジェ様の食欲は目に見える様になくなられていきました。
それでも王都にいる間はまだ何とか、そう胎の子を流産したいが為だけに壊れた玩具の様に王都内のあちらこちらへ遊びに講じておられた間は、確かに身体に良いとは言えませんがそれでも何かを食されておられたのです。
ですが旦那様が迎えに来られ陛下より逃げる様にこのアッシュベリー領へ到着をされてからのアンジェ様は生きる事までをも放棄されたかの様に食事を摂られなくなられれば、元々線の細いお身体がより一層……まだ16歳になられたばかりの稚いお身体からは生気迄もが少しずつ抜け落ちていくのです。
なのに胎の御子はその細いお身体に僅かに残った生気を吸い取るかの如く日々大きくお育ちになっていく。
血統、純血を何よりも重んじる我が国においてアンジェ様の胎の中におわす御子は現在禁忌とされてはおりますが、間違いなく純血の濃い血筋を受け継がれておられる大切なる存在。
先日王妃様が懐妊されたと言う知らせを聞きましたがはっきりと申せば勢いはあると言えども高が新興王国……何処の馬の骨ともわからぬ王妃の産みし子よりもです。
我が敬愛せしアンジェ様の御子こそが純血の頂点であるべき御方。
ただしアンジェ様が陛下を受け入れられておられればの話があくまでも前提条件となります。
今でもあの夜の事を忘れられやしません。
薄闇の中で喘ぎ泣き叫ばれるアンジェ様へ無体を強いる陛下の御姿は最早獣同然でした。
そこに愛情等……ええ確かに昔から存じておりましたわよ。
王子殿下であられた頃より一方的な妹王女であられるアンジェ様への恋情を。
血を分けたご兄妹である筈なのに数代前まで脈々と受け継がれてきた近親者を愛するお気持ちが、数代を経て陛下には色濃く受け継がれておいでになったのでしょう。
そして私も……諄いようですがそれをアンジェ様が望んでいらっしゃるのであらば私は如何様にも協力を惜しみはしませんでしたわ。
ですがアンジェ様は陛下を実のお兄様以上の、異性としての愛情を抱く事は出来なかったのです。
またアンジェ様にはまだ内密にしておられましたが先王ご夫妻はきっと王太子殿下より何かを感じ取られたのでしょう。
私がそれに気づいたのですもの。
そう水面下で王女殿下の婚約に向けて色々と動き始めた頃でしたわ。
先王ご夫妻がご公務中に事故でお隠れあそばされてしまわれたのは……。
嫌な予感を抱いたのは果たして私だけだったのでしょうか。
ですがその嫌な予感程よく当たり、アンジェ様は実の兄君によって犯されてしまったのです。
一度ならずも何度となく然も毎晩の様に……。
あの様に犯され続ければ懐妊されるのも致し方のない事。
そして私は乳母であるのにも拘らず厳しい監視下の許アンジェ様をお護りする事が出来ませんでした。
もう直ぐ16歳、いえあの頃はまだ15歳で初めての懐妊。
然も頼りにしたいと思うご両親はもうこの世の何処にもおられない。
さぞや御心細い思いをされましたでしょう。
そして何と不甲斐ない乳母と思われました事でしょう。
しかし思い詰めていらっしゃる事はわかっておりました。
そこへ陛下の御結婚とアンジェ様のご降嫁。
悲しみに暮れていた国民の多くはこの二つの慶事にさぞや喜びに沸いた事でしょう。
しかし現実はとてもアンジェ様にとって酷くまた辛辣なものでした。
何故なら辺境伯との結婚は形だけと、陛下はご降嫁されるアンジェ様へこの関係は永遠に続くものと仰られたのです!!
我がアーモンド王家の姫君が愛妾若しくは公妾と同義⁉
それを聞かされた瞬間私は怒りの余り我が身に流れる血が沸騰寸前とまでなりましたわ。
自分の置かれた立場も考えずに陛下へ直訴しようと思った時でした。
この様な私めを優しくも窘めて下さったのは他の誰でもない、一番お心と共にお身体までもが傷つけられたアンジェ様だったのです。
流石私のお育て申し上げたアンジェ様っっ。
その御心は清水よりも清らかで美しい。
アンジェ様の御心をお救い申し上げる為にも旦那様、貴方様が真実アンジェ様に相応しき御方であるかクラリッサ・ローレル・サリンジャーしっかりと見極めさせて頂きます。
万が一アンジェ様に相応しくなければ、このリザがこの世界の果てまでも共に陛下より逃げ果せてみせましょう。
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