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第5話 ヒーロー伝説
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俺は、胸ポケットの中で小さく揺れる一本のエリクサポーションを指先でなぞっていた。
──この薬、本当に人を救えるのか?
もしそうなら……使うべき場面があるはずだ。
答えを確かめたくて、気づけば俺はバイクに跨がり、近くの総合病院へと向かっていた。
エンジン音が冬の冷たい空気を裂き、心臓の鼓動と同じリズムで高鳴る。
病院の自動ドアを抜けると、白い消毒液の匂いが鼻をつく。
俺は不審者に見られないよう、見舞い客を装って緊急病棟の廊下をゆっくり歩く。
だが、耳が異常に敏感になっているのに気づいた。
まるで周囲の会話が全部自分の耳元で話されているかのように、遠くの声まで鮮明に届く。
「大変です! 心肺停止寸前です!」
「ドクターはまだなの?」
「もう……私が呼びに行きます! なんのためのナースコールなのよ!」
若い看護師が駆け抜けていく。
俺の足は無意識に、その声の先──開け放たれた病室へと向かっていた。
そこには、小さなベッドに横たわる少女がいた。
荒い呼吸を繰り返し、額には冷や汗が浮かび、瞳は焦点を失っている。
身体の線は細く、命の灯火が今にも消えそうだ。
「ぜぇ……ぜぇ……。お兄ちゃん……だれ?」
か細い声が俺を引き止める。
「あ……えーと、どこかのおっさんだ」
「おっさんなのに……とても優しそう」
その笑顔が儚くて、胸の奥がざわついた。
「そうか? 君、名前は?」
「……カナエ」
俺はその名前に覚えがあった。
3Dモデリングをしていた時、ラジオから流れたニュース。
──両親が通り魔に殺され、重い病気を抱えたまま一人で発見された少女。
「……新聞に載ってたカナエちゃんか」
「うん。でもね、私……見た物や事を全部覚えられるんだよ」
「すごい能力だな」
「自閉症って呼ばれてる。こうやって話せるときもあるけど、モードが入ると頭の中が止まらなくなるんだ」
「なるほど……」
会話の合間にも、彼女の呼吸はどんどん浅くなっていく。
心電図のモニターが不規則に鳴り、波形が危険な形に崩れ始めた。
「……これから生きられるとしたら、生きたいか? ただし、人間を超えるかもしれない」
「……うん!」
迷いは一瞬だった。
俺はポケットからエリクサポーションを取り出し、カナエの唇に瓶をあてがった。
琥珀色の液体が喉を通った瞬間──
ビクリ、と彼女の身体が小さく跳ねる。
次の瞬間、荒かった呼吸が嘘のように静まり、顔色が見る間に血色を取り戻していった。
「あれ……頭の中が軽い……」
「マジか……効いたのか」
俺は呆然とつぶやいた。
目の前で命が蘇る光景など、フィクションの中でしか見たことがなかった。
「お兄ちゃん、名前を教えて」
その声は、さっきまで死にかけていたとは思えないほど澄んでいた。
「あ、あなた! 何をしてるんですか!」
背後から鋭い声。看護師が飛び込んできた。
「いや、苦しそうだったから助けただけで……」
「今すぐ出てください! ドクターが来ます!」
カナエはベッドから少し体を起こし、笑って言った。
「マナブ……加藤学、でしょ? 近くのリサイクルショップの……」
「ああ。気が向いたら、遊びに来いよ」
看護師に背中を押され、俺は病室を後にした。
だが、耳にはまだ中の声が届く。
「うそでしょ……さっきまで心停止寸前だったのよ」
「奇跡だ……」
「さっきのおっさん、何者だ?」
「超能力者かもしれない……」
「とにかく探せ!」
「……やべ」
俺は全速力で病院を出て、バイクに飛び乗った。
エンジンをかけ、後ろも振り返らず走り出す。
冷たい風が頬を叩くが、心臓は不思議と穏やかだった。
──助けられた。それだけで十分だった。
実家のリサイクルショップに帰り着くと、母がレジの奥から顔を出した。
「おかえり。なんか顔がすっきりしてるじゃないの」
「まあな。それより、ちょっと物資を持っていきたい」
「いいわよ。面白そうなことしてそうだし、好きなもの持っていきなさい」
「助かる!」
倉庫から作物の種や工具、保存食などを手当たり次第に集める。
これらは異世界で必ず役立つはずだ。
扉の前で荷物を整えていると、母がぽつりと言った。
「……あんた、最近ほんとに何してんの?」
「まあ、ちょっと世界を良くしてるだけだよ」
冗談めかして答えると、母は「はいはい」と笑って手を振った。
俺は扉の取っ手に手をかける。
異世界の森の匂いが、薄く漂ってくる気がした。
「さて──次はもっと派手に、稼いで助けてみせるか」
こうして俺は、再び異世界へと特攻した。
──この薬、本当に人を救えるのか?
もしそうなら……使うべき場面があるはずだ。
答えを確かめたくて、気づけば俺はバイクに跨がり、近くの総合病院へと向かっていた。
エンジン音が冬の冷たい空気を裂き、心臓の鼓動と同じリズムで高鳴る。
病院の自動ドアを抜けると、白い消毒液の匂いが鼻をつく。
俺は不審者に見られないよう、見舞い客を装って緊急病棟の廊下をゆっくり歩く。
だが、耳が異常に敏感になっているのに気づいた。
まるで周囲の会話が全部自分の耳元で話されているかのように、遠くの声まで鮮明に届く。
「大変です! 心肺停止寸前です!」
「ドクターはまだなの?」
「もう……私が呼びに行きます! なんのためのナースコールなのよ!」
若い看護師が駆け抜けていく。
俺の足は無意識に、その声の先──開け放たれた病室へと向かっていた。
そこには、小さなベッドに横たわる少女がいた。
荒い呼吸を繰り返し、額には冷や汗が浮かび、瞳は焦点を失っている。
身体の線は細く、命の灯火が今にも消えそうだ。
「ぜぇ……ぜぇ……。お兄ちゃん……だれ?」
か細い声が俺を引き止める。
「あ……えーと、どこかのおっさんだ」
「おっさんなのに……とても優しそう」
その笑顔が儚くて、胸の奥がざわついた。
「そうか? 君、名前は?」
「……カナエ」
俺はその名前に覚えがあった。
3Dモデリングをしていた時、ラジオから流れたニュース。
──両親が通り魔に殺され、重い病気を抱えたまま一人で発見された少女。
「……新聞に載ってたカナエちゃんか」
「うん。でもね、私……見た物や事を全部覚えられるんだよ」
「すごい能力だな」
「自閉症って呼ばれてる。こうやって話せるときもあるけど、モードが入ると頭の中が止まらなくなるんだ」
「なるほど……」
会話の合間にも、彼女の呼吸はどんどん浅くなっていく。
心電図のモニターが不規則に鳴り、波形が危険な形に崩れ始めた。
「……これから生きられるとしたら、生きたいか? ただし、人間を超えるかもしれない」
「……うん!」
迷いは一瞬だった。
俺はポケットからエリクサポーションを取り出し、カナエの唇に瓶をあてがった。
琥珀色の液体が喉を通った瞬間──
ビクリ、と彼女の身体が小さく跳ねる。
次の瞬間、荒かった呼吸が嘘のように静まり、顔色が見る間に血色を取り戻していった。
「あれ……頭の中が軽い……」
「マジか……効いたのか」
俺は呆然とつぶやいた。
目の前で命が蘇る光景など、フィクションの中でしか見たことがなかった。
「お兄ちゃん、名前を教えて」
その声は、さっきまで死にかけていたとは思えないほど澄んでいた。
「あ、あなた! 何をしてるんですか!」
背後から鋭い声。看護師が飛び込んできた。
「いや、苦しそうだったから助けただけで……」
「今すぐ出てください! ドクターが来ます!」
カナエはベッドから少し体を起こし、笑って言った。
「マナブ……加藤学、でしょ? 近くのリサイクルショップの……」
「ああ。気が向いたら、遊びに来いよ」
看護師に背中を押され、俺は病室を後にした。
だが、耳にはまだ中の声が届く。
「うそでしょ……さっきまで心停止寸前だったのよ」
「奇跡だ……」
「さっきのおっさん、何者だ?」
「超能力者かもしれない……」
「とにかく探せ!」
「……やべ」
俺は全速力で病院を出て、バイクに飛び乗った。
エンジンをかけ、後ろも振り返らず走り出す。
冷たい風が頬を叩くが、心臓は不思議と穏やかだった。
──助けられた。それだけで十分だった。
実家のリサイクルショップに帰り着くと、母がレジの奥から顔を出した。
「おかえり。なんか顔がすっきりしてるじゃないの」
「まあな。それより、ちょっと物資を持っていきたい」
「いいわよ。面白そうなことしてそうだし、好きなもの持っていきなさい」
「助かる!」
倉庫から作物の種や工具、保存食などを手当たり次第に集める。
これらは異世界で必ず役立つはずだ。
扉の前で荷物を整えていると、母がぽつりと言った。
「……あんた、最近ほんとに何してんの?」
「まあ、ちょっと世界を良くしてるだけだよ」
冗談めかして答えると、母は「はいはい」と笑って手を振った。
俺は扉の取っ手に手をかける。
異世界の森の匂いが、薄く漂ってくる気がした。
「さて──次はもっと派手に、稼いで助けてみせるか」
こうして俺は、再び異世界へと特攻した。
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