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第三章《籠姫伝と焔の能力》
【六】
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──いや、なんの関係があったんでしょう。赤い髪で美人という共通点しか関係がなかった気がします。
弥生は笑顔を浮かべたまま硬直した。
これでは目的が分からない。
「まぁ、そんなもんですかな」
巻物をくるくると巻き直しながら、老人はほほ、と笑った。
「ありがとうございました」
空振りか、と弥生が立とうとすると、双子の一人が「その後お姫様が人殺しになっちゃうんだよね」と呟いた。
「え?」
「お姫様が、いーっぱい人を殺しちゃうの」
双子の言葉に、弥生は老人を見遣る。
老人は気まずそうに視線を逸らした。
「その話、もう少し詳しく聞きたいですね」
「「いいよー」」
双子は「あのね」と声を合わせた。
「女の人は領主と結婚してホントにお姫様になったの」
「だけど結婚して三日経たないうちに戦争がおこったの」
「敵は、領主の弟だったの」
「悲しんで悲しんで、お姫様は悲しみを憎しみに変えちゃった」
「それで、お姫様は能力を使って国に居たほとんどの人を殺しちゃった」
「能力がね、強すぎて制御できなくってお姫様も力尽きちゃったんだって」
「お姫様もみんなも可哀想」
「「ねー」」
双子の説明に、弥生は目を細めた。
「……なぜこの話を省いたんでしょうか」
「最初に言うたろ」
取り付く島もない言い方をする老人に、弥生は「神主殿」と少し低い声を出した。
「その姫と似通った部分のある能力者が今、生きてこの地にいるんです」
ピクリと肩を動かし、老人は射るような目を弥生に向けた。
「その能力者は私の婚約者なのですが、三日前何者かに攫われました」
老人は「なんと」と絞り出すように言った。
「何故それを早く言いませぬ。もはや時との戦いになってしまいます。いやもう遅いやも……」
「どういうことです」
怒気を引っ込め、怪訝そうに尋ねると、老人は双子を振り返った。
「ユラ、ユリ。気配は違うんか」
「違わないです」
「でも少し集まってきてる」
そうか、と老人は頷くと弥生の方へ頭を深く下げた。
「情報提供が遅くなり、誠申し訳ない」
突然変わった老人の態度に、クロと弥生は視線を合わせた。
「なぜ突然協力する気になったんです」
とクロが尋ねる。
老人は伏せたまま言った。
「私は守り人だと言いましたが、均衡を保つ役割を持っていることもお伝えしたかと。その赤い髪の婚約者殿は一体どう言った能力を使うんです。もし語りの同じような能力であるのなら、一刻もはやく連れ戻さねばなりませぬ」
「ですから」
弥生は遮るように言葉を挟んだ。
「その理由を問うているのですよ。それもまだ答えられないと?」
穏やかな表情。
しかし明らかに圧が滲んでいる。
老人は一瞬息を詰まらせたが、
「彼等はこの国を憎んでいる」
と、苦々しく口を開いた。
弥生は予想していたのか意外そうな顔はしなかった。「それで」と続きを促すと、老人は弥生を睨むように少し顔を上げた。
「彼等は、戦争を仕掛けるつもりです」
弥生は「そうですか」と首肯して、笑った。
「私の質問が悪かったのでしょうか。なぜ私の婚約者が必要なのか、その理由を問うた気でいました」
老人は少し躊躇した素振りを見せた。だがすぐに言葉を発した。
「逸話の再現です」
はぁ、と弥生は怪訝そうに頷いた。
「残念ですが、成功するとは言い難いですね。長男の私にそのような逸話が伝わっていないのです。家がこの手の話に乗るとは思えません。私が信じるには信憑性に欠けますから」
「だから戦争になる」
双子のユラの方が、弥生の着物の帯を握った。
曇りなき眼が、じっと弥生を捉えて離さない。
「あの人たちは自分たちの意志の通し方を知ってる。それが周りに認められない方法でも、あの人たちは最期まで戦う」
奇妙な声色だった。
まだ十かそこいらの子どものはずなのに、何十年も生きているような遠い目を持っていた。
「だってあの人たちはそれしか知らない。憎しみしか知らない。幸せが近くにあっても気づかない。気づこうとしない。あなたたちはそんなあの人たちを理解できないでしょう?だから戦争が起こる。多くの犠牲が出てしまう」
「ユラ」
と片割れに呼ばれ、ユラははっと目を見開いた。
そして気まずそうに目を逸らして「ごめんなさい」と、怒られる子どものような顔をした。
今度はユリがそっと弥生を見つめ、
「だけどユラの言う通りだと思います」
と、すぐに視線を逸らしてユラと抱き合うような格好のまま呟いた。
「逸話が残ってから、この地の主は能力者を嫌いました。例え能力者でなくとも、異端者は嫌われて疎まれて、酷い、それは酷い目に遭わされました。その憎しみが、あなたたちなら分かるんじゃないんですか」
くりっとした大きな黒い瞳が、真っ直ぐに弥生とクロに向けられる。
「記憶を受け継ぐ私たちなら……嫌でも分かっちゃうんじゃないんですか?」
悲しげな四つの瞳が弥生から逸らされることはなかった。
弥生は笑顔を浮かべたまま硬直した。
これでは目的が分からない。
「まぁ、そんなもんですかな」
巻物をくるくると巻き直しながら、老人はほほ、と笑った。
「ありがとうございました」
空振りか、と弥生が立とうとすると、双子の一人が「その後お姫様が人殺しになっちゃうんだよね」と呟いた。
「え?」
「お姫様が、いーっぱい人を殺しちゃうの」
双子の言葉に、弥生は老人を見遣る。
老人は気まずそうに視線を逸らした。
「その話、もう少し詳しく聞きたいですね」
「「いいよー」」
双子は「あのね」と声を合わせた。
「女の人は領主と結婚してホントにお姫様になったの」
「だけど結婚して三日経たないうちに戦争がおこったの」
「敵は、領主の弟だったの」
「悲しんで悲しんで、お姫様は悲しみを憎しみに変えちゃった」
「それで、お姫様は能力を使って国に居たほとんどの人を殺しちゃった」
「能力がね、強すぎて制御できなくってお姫様も力尽きちゃったんだって」
「お姫様もみんなも可哀想」
「「ねー」」
双子の説明に、弥生は目を細めた。
「……なぜこの話を省いたんでしょうか」
「最初に言うたろ」
取り付く島もない言い方をする老人に、弥生は「神主殿」と少し低い声を出した。
「その姫と似通った部分のある能力者が今、生きてこの地にいるんです」
ピクリと肩を動かし、老人は射るような目を弥生に向けた。
「その能力者は私の婚約者なのですが、三日前何者かに攫われました」
老人は「なんと」と絞り出すように言った。
「何故それを早く言いませぬ。もはや時との戦いになってしまいます。いやもう遅いやも……」
「どういうことです」
怒気を引っ込め、怪訝そうに尋ねると、老人は双子を振り返った。
「ユラ、ユリ。気配は違うんか」
「違わないです」
「でも少し集まってきてる」
そうか、と老人は頷くと弥生の方へ頭を深く下げた。
「情報提供が遅くなり、誠申し訳ない」
突然変わった老人の態度に、クロと弥生は視線を合わせた。
「なぜ突然協力する気になったんです」
とクロが尋ねる。
老人は伏せたまま言った。
「私は守り人だと言いましたが、均衡を保つ役割を持っていることもお伝えしたかと。その赤い髪の婚約者殿は一体どう言った能力を使うんです。もし語りの同じような能力であるのなら、一刻もはやく連れ戻さねばなりませぬ」
「ですから」
弥生は遮るように言葉を挟んだ。
「その理由を問うているのですよ。それもまだ答えられないと?」
穏やかな表情。
しかし明らかに圧が滲んでいる。
老人は一瞬息を詰まらせたが、
「彼等はこの国を憎んでいる」
と、苦々しく口を開いた。
弥生は予想していたのか意外そうな顔はしなかった。「それで」と続きを促すと、老人は弥生を睨むように少し顔を上げた。
「彼等は、戦争を仕掛けるつもりです」
弥生は「そうですか」と首肯して、笑った。
「私の質問が悪かったのでしょうか。なぜ私の婚約者が必要なのか、その理由を問うた気でいました」
老人は少し躊躇した素振りを見せた。だがすぐに言葉を発した。
「逸話の再現です」
はぁ、と弥生は怪訝そうに頷いた。
「残念ですが、成功するとは言い難いですね。長男の私にそのような逸話が伝わっていないのです。家がこの手の話に乗るとは思えません。私が信じるには信憑性に欠けますから」
「だから戦争になる」
双子のユラの方が、弥生の着物の帯を握った。
曇りなき眼が、じっと弥生を捉えて離さない。
「あの人たちは自分たちの意志の通し方を知ってる。それが周りに認められない方法でも、あの人たちは最期まで戦う」
奇妙な声色だった。
まだ十かそこいらの子どものはずなのに、何十年も生きているような遠い目を持っていた。
「だってあの人たちはそれしか知らない。憎しみしか知らない。幸せが近くにあっても気づかない。気づこうとしない。あなたたちはそんなあの人たちを理解できないでしょう?だから戦争が起こる。多くの犠牲が出てしまう」
「ユラ」
と片割れに呼ばれ、ユラははっと目を見開いた。
そして気まずそうに目を逸らして「ごめんなさい」と、怒られる子どものような顔をした。
今度はユリがそっと弥生を見つめ、
「だけどユラの言う通りだと思います」
と、すぐに視線を逸らしてユラと抱き合うような格好のまま呟いた。
「逸話が残ってから、この地の主は能力者を嫌いました。例え能力者でなくとも、異端者は嫌われて疎まれて、酷い、それは酷い目に遭わされました。その憎しみが、あなたたちなら分かるんじゃないんですか」
くりっとした大きな黒い瞳が、真っ直ぐに弥生とクロに向けられる。
「記憶を受け継ぐ私たちなら……嫌でも分かっちゃうんじゃないんですか?」
悲しげな四つの瞳が弥生から逸らされることはなかった。
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