ツギハギ夫婦は縁を求める

木風 麦

文字の大きさ
26 / 102
第三章《籠姫伝と焔の能力》

【六】

しおりを挟む
──いや、なんの関係があったんでしょう。赤い髪で美人という共通点しか関係がなかった気がします。
 弥生は笑顔を浮かべたまま硬直した。
 これでは目的が分からない。
「まぁ、そんなもんですかな」
 巻物をくるくると巻き直しながら、老人はほほ、と笑った。
「ありがとうございました」
 空振りか、と弥生が立とうとすると、双子の一人が「その後お姫様が人殺しになっちゃうんだよね」と呟いた。
「え?」
「お姫様が、いーっぱい人を殺しちゃうの」
 双子の言葉に、弥生は老人を見遣る。
 老人は気まずそうに視線を逸らした。
「その話、もう少し詳しく聞きたいですね」
「「いいよー」」
 双子は「あのね」と声を合わせた。
「女の人は領主と結婚してホントにお姫様になったの」
「だけど結婚して三日経たないうちに戦争がおこったの」
「敵は、領主の弟だったの」
「悲しんで悲しんで、お姫様は悲しみを憎しみに変えちゃった」
「それで、お姫様は能力を使って国に居たほとんどの人を殺しちゃった」
「能力がね、強すぎて制御できなくってお姫様も力尽きちゃったんだって」
「お姫様もみんなも可哀想」
「「ねー」」
 双子の説明に、弥生は目を細めた。
「……なぜこの話を省いたんでしょうか」
「最初に言うたろ」
 取り付く島もない言い方をする老人に、弥生は「神主殿」と少し低い声を出した。
「その姫と似通った部分のある能力者が今、生きてこの地にいるんです」
 ピクリと肩を動かし、老人は射るような目を弥生に向けた。
「その能力者は私の婚約者なのですが、三日前何者かに攫われました」
 老人は「なんと」と絞り出すように言った。
「何故それを早く言いませぬ。もはや時との戦いになってしまいます。いやもう遅いやも……」
「どういうことです」
 怒気を引っ込め、怪訝そうに尋ねると、老人は双子を振り返った。
「ユラ、ユリ。気配・・は違うんか」
「違わないです」
「でも少し
 そうか、と老人は頷くと弥生の方へ頭を深く下げた。
「情報提供が遅くなり、誠申し訳ない」
 突然変わった老人の態度に、クロと弥生は視線を合わせた。
「なぜ突然協力する気になったんです」
 とクロが尋ねる。
 老人は伏せたまま言った。
「私は守り人だと言いましたが、均衡を保つ役割を持っていることもお伝えしたかと。その赤い髪の婚約者殿は一体どう言った能力を使うんです。もし語りの同じような能力であるのなら、一刻もはやく連れ戻さねばなりませぬ」
「ですから」
 弥生は遮るように言葉を挟んだ。
「その理由を問うているのですよ。それもまだ答えられないと?」
 穏やかな表情。
 しかし明らかに圧が滲んでいる。

 老人は一瞬息を詰まらせたが、
「彼等はこの国を憎んでいる」
 と、苦々しく口を開いた。
 弥生は予想していたのか意外そうな顔はしなかった。「それで」と続きを促すと、老人は弥生を睨むように少し顔を上げた。
「彼等は、戦争を仕掛けるつもりです」
 弥生は「そうですか」と首肯して、笑った。
「私の質問が悪かったのでしょうか。なぜ私の婚約者が必要なのか、その理由を問うた気でいました」
 老人は少し躊躇した素振りを見せた。だがすぐに言葉を発した。
「逸話の再現です」
 はぁ、と弥生は怪訝そうに頷いた。
「残念ですが、成功するとは言い難いですね。長男の私にそのような逸話が伝わっていないのです。家がこの手の話に乗るとは思えません。私が信じるには信憑性に欠けますから」

「だから戦争になる」

 双子のユラの方が、弥生の着物の帯を握った。
 曇りなき眼が、じっと弥生を捉えて離さない。
「あの人たちは自分たちの意志の通し方を知ってる。それが周りに認められない方法でも、あの人たちは最期まで戦う」
 奇妙な声色だった。
 まだ十かそこいらの子どものはずなのに、何十年も生きているような遠い目を持っていた。
「だってあの人たちはそれしか知らない。憎しみしか知らない。幸せが近くにあっても気づかない。気づこうとしない。あなたたちはそんなあの人たちを理解できないでしょう?だから戦争が起こる。多くの犠牲が出てしまう」

「ユラ」
 と片割れに呼ばれ、ユラははっと目を見開いた。
 そして気まずそうに目を逸らして「ごめんなさい」と、怒られる子どものような顔をした。
 今度はユリがそっと弥生を見つめ、
「だけどユラの言う通りだと思います」
 と、すぐに視線を逸らしてユラと抱き合うような格好のまま呟いた。
「逸話が残ってから、この地の主は能力者を嫌いました。例え能力者でなくとも、異端者は嫌われて疎まれて、酷い、それは酷い目に遭わされました。その憎しみが、あなたたち・・・・・なら分かるんじゃないんですか」
 くりっとした大きな黒い瞳が、真っ直ぐに弥生とクロに向けられる。


記憶を受け継ぐ私たちなら・・・・・・・・・・・・……嫌でも分かっちゃうんじゃないんですか?」


 悲しげな四つの瞳が弥生から逸らされることはなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...