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第三章 終わりの始まり
58.焦燥 ⭐︎
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「軽く忘れ掛けてたんだけど、もう1人いるんだよね……っ!?」
アレックスの世話係を引き受けたアスラはいち早くヘレナを部屋から追い出すと、一団を白虎に任せて街の宿屋へ風のように走り去った。
アレックスの気に当てられた疲労を抱え、続々と部屋を退出する面々と共に初音が大きく息を吐く。
「ジーク、お疲れさま……。えと、ひとまず次行こうか……って、えっ!?」
はぁと部屋を出ようとした初音はジークに腕を引かれて、閉めた扉を背に目を瞬かせた。
「え!? ジー……んっ!?」
ぐいとその唇を強く押しつけられたと思ったら、唇に割り込んできたものに舌を絡み取られる。
あまりのことに思わず固まる暇もなく、貪るように奪われて初音の身体が震えた。
「ジークっ、ちょっ、何、どうし……っ!!」
そのまま抱き込むように耳から首筋を甘噛みされ、滑り込んだ手に腰から背中を撫で上げられて、初音は思わず小さな悲鳴を上げる。
「ジーク!?」
いくらなんでも今じゃないでしょと真っ赤な顔でその顔を覗き見れば、どう見ても様子のおかしいジークの赤い顔に初音の目が点になった。
「……え、なに、いったいどうしたの……っ!?」
えぇっ!? とその両頬を両手で挟むと、怒ったような拗ねたようなよくわからない表情で、ジークはむむむと眉根を寄せる。
「……足りない」
「足りな……って、えぇ!?」
言うが否や、両手首を取られて再び唇を塞がれた。
「ちょっ、ぁっ、ジーク……っ! こ、こんなことしてる場合じゃ……っ!!」
首筋から胸元までに降り注ぐ軽微な刺激に、どんどんと反応してしまう身体を持て余して初音は戸惑う。
ーーこ、これは、どう考えてもアレックスさんへの牽制的なマーキング……っ!!?
初音の肌へとムキになったように赤い跡を散らしていくジークが、かわいいような嬉しいようなで、ぎゅうとなってしまう胸に抵抗もできない。
「も……っ、待っ……っ」
ずるずるとへたり込む初音を追いかけて尚も唇を塞ぐジークに、初音は熱に浮かされた顔で好きにされるほかなかった。
はぁと息を吐いてからようやくと身体を離したジークは、荒い息で乱れた様相の初音にグゥと喉を鳴らす。
蒸気した首元に散るたくさんの赤い花の一つにもう一度口付けると、初音の唇を舐めてその身体をぎゅうと抱きしめた。
「ちょ、え? なに、猫科……同士だから? え? でも白虎さんとか……っ」
「……あそこはもう夫婦だろう」
「いや、まぁ、そうなんですけど……っ」
プライドと呼ばれる群れを作るライオンは別として、基本的に猫科は相手を決めないというか、単独行動の傾向が強いはずですよね? なんて突っ込めるはずもなく、初音は返答に窮する。
「…………不安になっちゃったの……?」
「…………っ!」
赤い顔でボソリと呟いた初音の言葉に、茹蛸のように耳まで真っ赤になるジークが意外すぎて、あまりの可愛さに初音は思わずと打ち震える。
ーーか、かわいすぎる……っっ!!
耳まで真っ赤のまま変な汗をかいて視線を彷徨わせるジークに、きゅうううっと鳴る胸を自覚した初音は思わずと口を押さえた。
「もう、ほんとかわいいっ!!」
「はっ!??」
ガバリと逆に押し倒し、尻餅をついたジークに抱き止められながらその身体をぎゅうと初音は抱きしめる。
赤い顔でまんまるの目をするジークの両頬に触れて、初音は唇を重ねると鼻先が触れ合う距離でふっと笑う。
「こんなにカッコよくて可愛くて優しいジークがそばにいてくれるのに、他が気になるわけないじゃん……っ!」
「……かわいいは余計だ……っ!」
むぅと赤い顔で金の瞳を細めたジークは、そのまま初音の腰と首を素早く捕らえて引き寄せると深く唇を重ね合わせたーー。
ーー運がよかったね。ほら、さっさと行きな。今ならまだ追いつけるかも知れないよ。
乱雑に首根っこを掴まれたまま、必死に暴れ叫んだ声は枯れ果てて、遠ざかる家族たちの黄色い背中は滲んだ視界の先に消えた。
獣の素養を多く残した獣人の子どもを、ハンターの手から助けてくれた長い髪の人間の女。
結局その後もはぐれた家族と再会することは出来なかったけれど、その人間がいなければアイラの家族と出会うことも、初音と今こうして立っていることも、きっとなかったからーー。
「あなたはーー……」
「え、知り合い……?」
アレックスたちとは違う部屋に通していた妙齢の女は、出されたお茶のカップを置いて立ち上がると、初音とジークの顔を見てニコリと微笑む。
「異世界人の理恵と申します。こちらに来て10年以上、人里より逃げ隠れて暮らしていました。今回の初音さんの話しを聞き、こうして訪問した次第です」
そう言って穏やかに笑う理恵は、戸惑いを隠せない顔で立ち尽くすジークに目を止めた。
「以前にどこかで、お会いしていましたか?」
理恵の穏やかなその声と瞳が、ジークの記憶と重なったーー。
アレックスの世話係を引き受けたアスラはいち早くヘレナを部屋から追い出すと、一団を白虎に任せて街の宿屋へ風のように走り去った。
アレックスの気に当てられた疲労を抱え、続々と部屋を退出する面々と共に初音が大きく息を吐く。
「ジーク、お疲れさま……。えと、ひとまず次行こうか……って、えっ!?」
はぁと部屋を出ようとした初音はジークに腕を引かれて、閉めた扉を背に目を瞬かせた。
「え!? ジー……んっ!?」
ぐいとその唇を強く押しつけられたと思ったら、唇に割り込んできたものに舌を絡み取られる。
あまりのことに思わず固まる暇もなく、貪るように奪われて初音の身体が震えた。
「ジークっ、ちょっ、何、どうし……っ!!」
そのまま抱き込むように耳から首筋を甘噛みされ、滑り込んだ手に腰から背中を撫で上げられて、初音は思わず小さな悲鳴を上げる。
「ジーク!?」
いくらなんでも今じゃないでしょと真っ赤な顔でその顔を覗き見れば、どう見ても様子のおかしいジークの赤い顔に初音の目が点になった。
「……え、なに、いったいどうしたの……っ!?」
えぇっ!? とその両頬を両手で挟むと、怒ったような拗ねたようなよくわからない表情で、ジークはむむむと眉根を寄せる。
「……足りない」
「足りな……って、えぇ!?」
言うが否や、両手首を取られて再び唇を塞がれた。
「ちょっ、ぁっ、ジーク……っ! こ、こんなことしてる場合じゃ……っ!!」
首筋から胸元までに降り注ぐ軽微な刺激に、どんどんと反応してしまう身体を持て余して初音は戸惑う。
ーーこ、これは、どう考えてもアレックスさんへの牽制的なマーキング……っ!!?
初音の肌へとムキになったように赤い跡を散らしていくジークが、かわいいような嬉しいようなで、ぎゅうとなってしまう胸に抵抗もできない。
「も……っ、待っ……っ」
ずるずるとへたり込む初音を追いかけて尚も唇を塞ぐジークに、初音は熱に浮かされた顔で好きにされるほかなかった。
はぁと息を吐いてからようやくと身体を離したジークは、荒い息で乱れた様相の初音にグゥと喉を鳴らす。
蒸気した首元に散るたくさんの赤い花の一つにもう一度口付けると、初音の唇を舐めてその身体をぎゅうと抱きしめた。
「ちょ、え? なに、猫科……同士だから? え? でも白虎さんとか……っ」
「……あそこはもう夫婦だろう」
「いや、まぁ、そうなんですけど……っ」
プライドと呼ばれる群れを作るライオンは別として、基本的に猫科は相手を決めないというか、単独行動の傾向が強いはずですよね? なんて突っ込めるはずもなく、初音は返答に窮する。
「…………不安になっちゃったの……?」
「…………っ!」
赤い顔でボソリと呟いた初音の言葉に、茹蛸のように耳まで真っ赤になるジークが意外すぎて、あまりの可愛さに初音は思わずと打ち震える。
ーーか、かわいすぎる……っっ!!
耳まで真っ赤のまま変な汗をかいて視線を彷徨わせるジークに、きゅうううっと鳴る胸を自覚した初音は思わずと口を押さえた。
「もう、ほんとかわいいっ!!」
「はっ!??」
ガバリと逆に押し倒し、尻餅をついたジークに抱き止められながらその身体をぎゅうと初音は抱きしめる。
赤い顔でまんまるの目をするジークの両頬に触れて、初音は唇を重ねると鼻先が触れ合う距離でふっと笑う。
「こんなにカッコよくて可愛くて優しいジークがそばにいてくれるのに、他が気になるわけないじゃん……っ!」
「……かわいいは余計だ……っ!」
むぅと赤い顔で金の瞳を細めたジークは、そのまま初音の腰と首を素早く捕らえて引き寄せると深く唇を重ね合わせたーー。
ーー運がよかったね。ほら、さっさと行きな。今ならまだ追いつけるかも知れないよ。
乱雑に首根っこを掴まれたまま、必死に暴れ叫んだ声は枯れ果てて、遠ざかる家族たちの黄色い背中は滲んだ視界の先に消えた。
獣の素養を多く残した獣人の子どもを、ハンターの手から助けてくれた長い髪の人間の女。
結局その後もはぐれた家族と再会することは出来なかったけれど、その人間がいなければアイラの家族と出会うことも、初音と今こうして立っていることも、きっとなかったからーー。
「あなたはーー……」
「え、知り合い……?」
アレックスたちとは違う部屋に通していた妙齢の女は、出されたお茶のカップを置いて立ち上がると、初音とジークの顔を見てニコリと微笑む。
「異世界人の理恵と申します。こちらに来て10年以上、人里より逃げ隠れて暮らしていました。今回の初音さんの話しを聞き、こうして訪問した次第です」
そう言って穏やかに笑う理恵は、戸惑いを隠せない顔で立ち尽くすジークに目を止めた。
「以前にどこかで、お会いしていましたか?」
理恵の穏やかなその声と瞳が、ジークの記憶と重なったーー。
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