63 / 91
第三章 終わりの始まり
61.執着
しおりを挟む
「いや」
俺様の女になれ。と、それこそ世迷いごとをのたまうアレックスに半ば被せるように初音は拒否する。
「何でだ。お前からは小僧の強い匂いがするから、相手は小僧だろ? クロヒョウを好きになれるのなら、俺様のことも好きになるだろう?」
「どういう思考回路してるの!! そんなわけないでしょ! いい加減にして!!」
アレックスの言葉はどうしてこうも脈絡がないのか。まるで宇宙人とでも話しているようで、初音は歯噛みした。
「自分が死んでもクロヒョウが好きだって? いいじゃないか。俺様もそんな女が欲しいんだ」
「勝手に探してよ!!」
目をキラキラさせて初音の顔を覗き込んでくるアレックスに、初音は叫ぶ。
未だかつてこんなに話の通じない相手と会ったことがあっただろうかと、初音は頭痛がしてきた。
「俺様たちのことを知っているか? ライオンは力が全てだ。プライドのリーダーになれない雄は長く生きられない。プライドを乗っ取り、前の雄の子どもをすべて殺し、残った雌に自分の子どもを産ませる。弱ければ今度は自分が乗っ取られる。そう言うものだ。そう言うものだが……」
将来脅威になる子どもを殺し、子どもを殺すことで雌の発情期を誘う。生き残るために誰よりも強くあり、強い者につき従うことが生存本能であり、それが群れと、まだ見ぬ自分の子どもを守ることに繋がる。
たとえ今さっきまでいた前リーダーと、今の我が子を失うことになったとしてもーー。
「寂しいとは思わないか」
自然界では仕様がないこととは言え、頭の中に流れ込んでくる情報と、初めてその本心が垣間見えたようなアレックスの表情に、初音は思わずと後退った。
「俺様は俺様だけの女が欲しい。たとえ俺様が負けたとしても、力が衰えたとしても、より強い者が現れたとしても、断固として揺るがずにそばにいてくれる、安心を与えてくれる、初音みたいな女が」
「ちょっと、勝手に名前を呼ばないで!! それに、そんなの今のあなたの奥さんたちと愛情を深めればいいだけでしょ!?」
勝手に呼ばれた名前に鳥肌が立って、初音は思わずと叫ぶ。
「そういう問題じゃない。これは本能の問題で、どうにもできない。だが初音は人間だから違うだろう。それに俺様は、初音を気に入った」
「だから名前を呼ばないでったら!! それに死んでもあり得ないけど、私が今心変わりをしたら、もう私はあなたの求める私ではないでしょう!? あなたが寂しく思う奥さんたちと一緒だって、どうしてわからないの!!」
「……たまたま今いる相手がいなくなって俺様を好きになれば、初音は俺様のことだけを見てくれるんじゃないか?」
「そんなわけ……っ……ちょっと待って、何を考えてるの!?」
急激に不穏なことを言い出されたことに顔色を変えた初音に、何故か嬉しそうに頬を染めるアレックスは身を寄せる。
「プライドを乗っ取るときは、群れのリーダーを完膚なきまでに捻り潰す。今回は交渉もあって遠慮したが、不思議なことでもない」
「やめて、ジークに手を出したら絶対に許さないから!!」
「はは、いいな。そんな風に想ってもらえるとは。あんな小僧にはやはりもったいない」
ーーこの人なんでこんなに話が通じないの!?
思わずとアレックスの襟首を握る青い顔の初音を、いっそ恍惚の表情で見下ろしてくる目の前の男が理解を超えていて恐ろしかった。
ジークが負けるはずないと思っていながら、どんな手を使ってでもジークを消しそうなアレックスに初音の身体が震える。
「あの小僧を想ってするその表情を、今後は俺様のためだけにしてくれ」
そう言って頬に触れて顔を近づけてくるアレックスに、初音は目を見開いてーー。
思わずとその頬を力の限りに叩いてしまった。
「絶対にいや!!!!」
目を見開いて固まっているアレックスを放置して岩山を降りようと下を覗けば、初音を見上げる女ライオンの獣人たちの視線に初音は唇を噛む。
踵を返そうとした所で、目前にある大きな身体に初音はビクリとその動きを止めた。
「俺様に手をあげるとは、その気概もますますと気に入った。いいだろう、チャンスをやる。あの洞窟には出口がここを除いて3つある。俺様に捕まらずに出口まで逃げ切れば、俺様からあの小僧に手を出すのはやめてやろう。ただしーー」
初音の肩に手を掛けて、言葉を切って初音の瞳を覗き込むその瞳が、常軌を逸していることが恐ろしい。
「俺様に捕まったら、その身体の赤い痕をすべて上書きして、俺様のものだとわからせてやる」
「な……何で私がそんな話に乗らないといけないの……っ!!」
身の危険と嫌悪感からゾッと背筋を震え上がらせた初音は、ドッドッと鳴る心臓の音と緊張から、うまく動かない身体を無意識に自分自身で抱きしめた。
「この状況を分かってないのか? 力の弱いやつは、力の強いやつの言うことを聞くしかないんだ。なんなら、今すぐここで、寝取ってやっても俺様は構わないが?」
「……っ……離して!!」
元より拘束をするつもりもなかったと見えるアレックスの手を逃れて、初音は洞窟へと一目散に走り出す。
震えてうまく力の入らない身体を叱咤して、初音はジークの姿を思い出していたーー。
俺様の女になれ。と、それこそ世迷いごとをのたまうアレックスに半ば被せるように初音は拒否する。
「何でだ。お前からは小僧の強い匂いがするから、相手は小僧だろ? クロヒョウを好きになれるのなら、俺様のことも好きになるだろう?」
「どういう思考回路してるの!! そんなわけないでしょ! いい加減にして!!」
アレックスの言葉はどうしてこうも脈絡がないのか。まるで宇宙人とでも話しているようで、初音は歯噛みした。
「自分が死んでもクロヒョウが好きだって? いいじゃないか。俺様もそんな女が欲しいんだ」
「勝手に探してよ!!」
目をキラキラさせて初音の顔を覗き込んでくるアレックスに、初音は叫ぶ。
未だかつてこんなに話の通じない相手と会ったことがあっただろうかと、初音は頭痛がしてきた。
「俺様たちのことを知っているか? ライオンは力が全てだ。プライドのリーダーになれない雄は長く生きられない。プライドを乗っ取り、前の雄の子どもをすべて殺し、残った雌に自分の子どもを産ませる。弱ければ今度は自分が乗っ取られる。そう言うものだ。そう言うものだが……」
将来脅威になる子どもを殺し、子どもを殺すことで雌の発情期を誘う。生き残るために誰よりも強くあり、強い者につき従うことが生存本能であり、それが群れと、まだ見ぬ自分の子どもを守ることに繋がる。
たとえ今さっきまでいた前リーダーと、今の我が子を失うことになったとしてもーー。
「寂しいとは思わないか」
自然界では仕様がないこととは言え、頭の中に流れ込んでくる情報と、初めてその本心が垣間見えたようなアレックスの表情に、初音は思わずと後退った。
「俺様は俺様だけの女が欲しい。たとえ俺様が負けたとしても、力が衰えたとしても、より強い者が現れたとしても、断固として揺るがずにそばにいてくれる、安心を与えてくれる、初音みたいな女が」
「ちょっと、勝手に名前を呼ばないで!! それに、そんなの今のあなたの奥さんたちと愛情を深めればいいだけでしょ!?」
勝手に呼ばれた名前に鳥肌が立って、初音は思わずと叫ぶ。
「そういう問題じゃない。これは本能の問題で、どうにもできない。だが初音は人間だから違うだろう。それに俺様は、初音を気に入った」
「だから名前を呼ばないでったら!! それに死んでもあり得ないけど、私が今心変わりをしたら、もう私はあなたの求める私ではないでしょう!? あなたが寂しく思う奥さんたちと一緒だって、どうしてわからないの!!」
「……たまたま今いる相手がいなくなって俺様を好きになれば、初音は俺様のことだけを見てくれるんじゃないか?」
「そんなわけ……っ……ちょっと待って、何を考えてるの!?」
急激に不穏なことを言い出されたことに顔色を変えた初音に、何故か嬉しそうに頬を染めるアレックスは身を寄せる。
「プライドを乗っ取るときは、群れのリーダーを完膚なきまでに捻り潰す。今回は交渉もあって遠慮したが、不思議なことでもない」
「やめて、ジークに手を出したら絶対に許さないから!!」
「はは、いいな。そんな風に想ってもらえるとは。あんな小僧にはやはりもったいない」
ーーこの人なんでこんなに話が通じないの!?
思わずとアレックスの襟首を握る青い顔の初音を、いっそ恍惚の表情で見下ろしてくる目の前の男が理解を超えていて恐ろしかった。
ジークが負けるはずないと思っていながら、どんな手を使ってでもジークを消しそうなアレックスに初音の身体が震える。
「あの小僧を想ってするその表情を、今後は俺様のためだけにしてくれ」
そう言って頬に触れて顔を近づけてくるアレックスに、初音は目を見開いてーー。
思わずとその頬を力の限りに叩いてしまった。
「絶対にいや!!!!」
目を見開いて固まっているアレックスを放置して岩山を降りようと下を覗けば、初音を見上げる女ライオンの獣人たちの視線に初音は唇を噛む。
踵を返そうとした所で、目前にある大きな身体に初音はビクリとその動きを止めた。
「俺様に手をあげるとは、その気概もますますと気に入った。いいだろう、チャンスをやる。あの洞窟には出口がここを除いて3つある。俺様に捕まらずに出口まで逃げ切れば、俺様からあの小僧に手を出すのはやめてやろう。ただしーー」
初音の肩に手を掛けて、言葉を切って初音の瞳を覗き込むその瞳が、常軌を逸していることが恐ろしい。
「俺様に捕まったら、その身体の赤い痕をすべて上書きして、俺様のものだとわからせてやる」
「な……何で私がそんな話に乗らないといけないの……っ!!」
身の危険と嫌悪感からゾッと背筋を震え上がらせた初音は、ドッドッと鳴る心臓の音と緊張から、うまく動かない身体を無意識に自分自身で抱きしめた。
「この状況を分かってないのか? 力の弱いやつは、力の強いやつの言うことを聞くしかないんだ。なんなら、今すぐここで、寝取ってやっても俺様は構わないが?」
「……っ……離して!!」
元より拘束をするつもりもなかったと見えるアレックスの手を逃れて、初音は洞窟へと一目散に走り出す。
震えてうまく力の入らない身体を叱咤して、初音はジークの姿を思い出していたーー。
6
あなたにおすすめの小説
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
独身皇帝は秘書を独占して溺愛したい
狭山雪菜
恋愛
ナンシー・ヤンは、ヤン侯爵家の令嬢で、行き遅れとして皇帝の専属秘書官として働いていた。
ある時、秘書長に独身の皇帝の花嫁候補を作るようにと言われ、直接令嬢と話すために舞踏会へと出ると、何故か皇帝の怒りを買ってしまい…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
悪役令嬢が王太子に掛けられた魅了の呪いを解いて、そのせいで幼児化した結果
下菊みこと
恋愛
愛する人のために頑張った結果、バブちゃんになったお話。
ご都合主義のハッピーエンドのSS。
アルファポリス様でも投稿しています。
モンスターを癒やす森暮らしの薬師姫、騎士と出会う
甘塩ます☆
恋愛
冷たい地下牢で育った少女リラは、自身の出自を知らぬまま、ある日訪れた混乱に乗じて森へと逃げ出す。そこで彼女は、凶暴な瘴気に覆われた狼と出会うが、触れるだけでその瘴気を浄化する不思議な力があることに気づく。リラは狼を癒し、共に森で暮らすうち、他のモンスターたちとも心を通わせ、彼らの怪我や病を癒していく。モンスターたちは感謝の印に、彼女の知らない貴重な品々や硬貨を贈るのだった。
そんなある日、森に薬草採取に訪れた騎士アルベールと遭遇する。彼は、最近異常なほど穏やかな森のモンスターたちに違和感を覚えていた。世間知らずのリラは、自分を捕らえに来たのかと怯えるが、アルベールの差し出す「食料」と「服」に警戒を解き、彼を「飯をくれる仲間」と認識する。リラが彼に見せた、モンスターから贈られた膨大な量の希少な品々に、アルベールは度肝を抜かれる。リラの無垢さと、秘められた能力に気づき始めたアルベールは……
陰謀渦巻く世界で二人の運命はどうなるのか
騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?
うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。
濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる