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第三章 終わりの始まり
60.揺るがない
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「アイラちゃんを襲って、蘇芳くんとヘレナさんに怪我をさせて、いったい何がしたいの……っ!!」
日がまだ高い中、陣形を取って走り並ぶアレックスたちライオンの獣人たち集団に混ざり、初音はアレックスに荷物のように腰を抱えられたまま、今度は雑に岩山へと降ろされた。
女ライオンの獣人たちを追い払い、アレックスは初音と2人きりとなるなり偉そうに腕を組む。
「俺様だって一応の筋は通して話す機会は求めたんだぜ? それを拒み続けたのはお前らの方だ」
「拒まれても仕方のない言い方や行動しかできないからでしょう!?」
ふんと鼻を鳴らして初音を見下ろすアレックスに、初音は自分の知らぬところでアスラやジークが対応してくれていたことを悟る。
「……お前この状況下で人間のくせに威勢がいいな。ただの馬鹿かなんなのか知らんが、そんな態度が取れる理由があるってことか? まぁ、俺様の心が広いことには感謝しな」
「早く私を返して……っ!」
はっはっはっと高笑いをするアレックスを無視して、初音が口を開く。
「俺様を王としたら返してやる」
「だから……っ!!」
あまりの話しの通じなさに苛立った初音へと伸びた大きな手が、その首を捕らえた。
「威勢がいいのは嫌いじゃない。だが勘違いするな。お前が生きているのは俺を王にできると聞いているからで、俺はどこぞのクロヒョウとは違って甘くない」
「…………っ!!」
赤みのかかった肉食獣の瞳に、初音の身体は本能から震えた。
出会った当初のジークとは比較にならない温度差に恐怖しか感じない。
「これは頼んでいるんじゃない。命令だ。お前に拒否権はないと言うことを忘れるな」
瞳の奥の冷たさにゾッとする。
「首を縦に振れ。痛い思いはしたくないだろう。もしくは女としてわからせてやるか?」
「…………っ!!」
アレックスの不穏な言葉に、初音は返答に詰まる。
浮かぶ皆んなの顔と、ジークの顔。
ここでアレックスと契約でもしようものなら、全てが崩れ去ることは火を見るよりも明らかだった。
ギリと唇を噛み締めて、初音は無言でアレックスを睨み上げる。
「……強情だな、なぜ拒む。その王たらしめる力が特別なのはわかるが、それなら俺様でもいいだろう。俺様たちにおめおめとお前を奪われるようなクロヒョウが、小賢しい人間に勝てると思うのか」
「皆んなを人質にするようなあなたが正しいとでも言うの?」
「自然界で甘っちょろいことを抜かすな。勝った方が勝ちなんだよ」
やれやれとでも言うようなアレックスを、初音は睨む。
「……あのクロヒョウの何がそうさせる? 守ってくれるからか? なら今後は俺様が守ってやる。王の隣が欲しいのなら、俺様の隣を渡してもいい。誰でもいいなら、より強い王の隣にいるべきだとなぜわからない?」
心底不思議そうな顔をするアレックスを見て、初音は同時にジークへ想いを馳せる。
「……あなたは力をくれるなら誰でもいいんでしょう。だから、私も自分と一緒だと思ってる」
「……何だって?」
眉を寄せるアレックスに構わずに、初音は続けた。
「私はあなたとは違う。守ってくれるから好きになったんじゃない。偉いから好きな訳じゃない。ジークに要らない危険や重荷ばかり背負わせて、ジークに何も返せないのは私の方。それでも、私がジークと一緒にいたいから。ジークも受け入れてくれたからそばにいーー」
「世迷いごとだな」
ふんとその高い鼻を鳴らして、アレックスは馬鹿にしたようにその口端を歪める。
「ただ都合よく利用されているだけともわからず、そこまで思い上がれるとは大したものだ。望まれてる? そばにいたい? お前たち人間は奴隷の獣人と人間を絡めるような見世物をする品性だと忘れているようだ。お前がその力を持ち得なくても、本当にクロヒョウはお前のそばにいると思うのか?」
凶悪さを含んだ顔で、勝ち誇ったようにまくしたてるアレックスを、初音は無言で見上げる。
少しの間を置いてすっと立ち上がると、背筋を伸ばし、その瞳を真っ直ぐに見た。
「あなたには関係ない」
「は……?」
理解が追いつかないのか、言葉に詰まるアレックスを感情のない瞳で初音は見る。
何を言われたって、初音の心は1ミリも揺るがなかった。そんな薄っぺらな言葉で、ジークがくれた優しさや感情に一滴の波紋が広がることすらもあり得ない。
「例えここで死んだって、私はあなたを選ばない。私は何度だって、きっとジークを選ぶから」
「はっ、わからんやつだ。あんな小僧のどこがいい。こい、俺様の方がいいと教えてやる……っ!!」
「離して!!」
ぐいと掴まれた初音の襟口が裂けて、その首から胸元が顕になったことで、アレックスはぴたりとその動きを止めた。
初音の肌に残る無数の赤い痕を、アレックスはしばし無言で見下ろす。
即座に襟元を掴む初音に対し、アレックスはまじまじと初音の顔を見た。
「これは驚いたな。まさか、本当に好き合ってるとでも言うのか? 人間と獣人が?」
「……あなたには関係ない」
「……いいや、関係ならある」
ニヤリとその口を歪めたアレックスが初音のあごを捕らえて上向ける。
「初音とか言ったか。お前、やはり俺様の女になれ」
そう言って、先ほどまでとは少し違和感のある笑みを浮かべるアレックスに、初音は眉をひそめてその手を振り払った。
日がまだ高い中、陣形を取って走り並ぶアレックスたちライオンの獣人たち集団に混ざり、初音はアレックスに荷物のように腰を抱えられたまま、今度は雑に岩山へと降ろされた。
女ライオンの獣人たちを追い払い、アレックスは初音と2人きりとなるなり偉そうに腕を組む。
「俺様だって一応の筋は通して話す機会は求めたんだぜ? それを拒み続けたのはお前らの方だ」
「拒まれても仕方のない言い方や行動しかできないからでしょう!?」
ふんと鼻を鳴らして初音を見下ろすアレックスに、初音は自分の知らぬところでアスラやジークが対応してくれていたことを悟る。
「……お前この状況下で人間のくせに威勢がいいな。ただの馬鹿かなんなのか知らんが、そんな態度が取れる理由があるってことか? まぁ、俺様の心が広いことには感謝しな」
「早く私を返して……っ!」
はっはっはっと高笑いをするアレックスを無視して、初音が口を開く。
「俺様を王としたら返してやる」
「だから……っ!!」
あまりの話しの通じなさに苛立った初音へと伸びた大きな手が、その首を捕らえた。
「威勢がいいのは嫌いじゃない。だが勘違いするな。お前が生きているのは俺を王にできると聞いているからで、俺はどこぞのクロヒョウとは違って甘くない」
「…………っ!!」
赤みのかかった肉食獣の瞳に、初音の身体は本能から震えた。
出会った当初のジークとは比較にならない温度差に恐怖しか感じない。
「これは頼んでいるんじゃない。命令だ。お前に拒否権はないと言うことを忘れるな」
瞳の奥の冷たさにゾッとする。
「首を縦に振れ。痛い思いはしたくないだろう。もしくは女としてわからせてやるか?」
「…………っ!!」
アレックスの不穏な言葉に、初音は返答に詰まる。
浮かぶ皆んなの顔と、ジークの顔。
ここでアレックスと契約でもしようものなら、全てが崩れ去ることは火を見るよりも明らかだった。
ギリと唇を噛み締めて、初音は無言でアレックスを睨み上げる。
「……強情だな、なぜ拒む。その王たらしめる力が特別なのはわかるが、それなら俺様でもいいだろう。俺様たちにおめおめとお前を奪われるようなクロヒョウが、小賢しい人間に勝てると思うのか」
「皆んなを人質にするようなあなたが正しいとでも言うの?」
「自然界で甘っちょろいことを抜かすな。勝った方が勝ちなんだよ」
やれやれとでも言うようなアレックスを、初音は睨む。
「……あのクロヒョウの何がそうさせる? 守ってくれるからか? なら今後は俺様が守ってやる。王の隣が欲しいのなら、俺様の隣を渡してもいい。誰でもいいなら、より強い王の隣にいるべきだとなぜわからない?」
心底不思議そうな顔をするアレックスを見て、初音は同時にジークへ想いを馳せる。
「……あなたは力をくれるなら誰でもいいんでしょう。だから、私も自分と一緒だと思ってる」
「……何だって?」
眉を寄せるアレックスに構わずに、初音は続けた。
「私はあなたとは違う。守ってくれるから好きになったんじゃない。偉いから好きな訳じゃない。ジークに要らない危険や重荷ばかり背負わせて、ジークに何も返せないのは私の方。それでも、私がジークと一緒にいたいから。ジークも受け入れてくれたからそばにいーー」
「世迷いごとだな」
ふんとその高い鼻を鳴らして、アレックスは馬鹿にしたようにその口端を歪める。
「ただ都合よく利用されているだけともわからず、そこまで思い上がれるとは大したものだ。望まれてる? そばにいたい? お前たち人間は奴隷の獣人と人間を絡めるような見世物をする品性だと忘れているようだ。お前がその力を持ち得なくても、本当にクロヒョウはお前のそばにいると思うのか?」
凶悪さを含んだ顔で、勝ち誇ったようにまくしたてるアレックスを、初音は無言で見上げる。
少しの間を置いてすっと立ち上がると、背筋を伸ばし、その瞳を真っ直ぐに見た。
「あなたには関係ない」
「は……?」
理解が追いつかないのか、言葉に詰まるアレックスを感情のない瞳で初音は見る。
何を言われたって、初音の心は1ミリも揺るがなかった。そんな薄っぺらな言葉で、ジークがくれた優しさや感情に一滴の波紋が広がることすらもあり得ない。
「例えここで死んだって、私はあなたを選ばない。私は何度だって、きっとジークを選ぶから」
「はっ、わからんやつだ。あんな小僧のどこがいい。こい、俺様の方がいいと教えてやる……っ!!」
「離して!!」
ぐいと掴まれた初音の襟口が裂けて、その首から胸元が顕になったことで、アレックスはぴたりとその動きを止めた。
初音の肌に残る無数の赤い痕を、アレックスはしばし無言で見下ろす。
即座に襟元を掴む初音に対し、アレックスはまじまじと初音の顔を見た。
「これは驚いたな。まさか、本当に好き合ってるとでも言うのか? 人間と獣人が?」
「……あなたには関係ない」
「……いいや、関係ならある」
ニヤリとその口を歪めたアレックスが初音のあごを捕らえて上向ける。
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