妹のヒモとなって異世界で生きていく~最弱の俺が英雄に至る~

雪下 ゆかり

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第1章

04領主からの依頼

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「お待たせいたしました」

アルジェが応接間の扉をノックし、丁寧に入室する。その後ろに続いて、俺も重い足取りで部屋に入った。
使者は席を立ち、こちらに対し礼儀正しく一礼した。
この使者の人、何回か会ってるけど、目つきも鋭く、怖いんだよな…。

「急なご訪問、申し訳ございません。カーク様がお呼びですので、グラディウス家までご同行願えますか?」

使者は用件を切り出す。カーク様――この街の領主で、グラディウス家の当主である。
俺の運の悪さからして、何かしら厄介なことに巻き込まれるに違いない。

「おことっ——痛ッ!」

反射的に言葉を返す前に、断ろうとした俺の口を突然の衝撃で止められた。横から鋭く肘で突かれた。
横を見ると、そこには冷静な表情を崩さないアルジェが立っていた。が、その目には「余計なことは言わないでください」という無言の圧力が込められている。いつもながら、彼女は的確に俺の出すべきではない言葉を封じるのが上手い。

「わかりました」

仕方がないので使者に向けて苦笑いを浮かべ、了承の意を示しておく。
使者は少し眉をひそめたものの、特に気にしていない様子で再び話を続けた。

「それでは、早速ご準備いただき、グラディウス家へお越しください。カーク様がお待ちしております。私は先に戻り、カーク様にお伝えしておきます」

「承知しました。準備ができ次第、ご訪問させて頂きます」

アルジェが丁寧に返答をしてくれる。
使者が一礼して退出すると、応接間に残された俺は、深く息を吐いた。そして、すぐ隣には、いつも通り冷静な表情を崩さないアルジェがいる。

「肘、結構痛かったんだけど……」

「マスターが余計なことを言おうとするからです。相手は領主様の使いですよッ! さぁ、さっさと準備を始めましょう」



「よくぞ急な呼び出しに応え来てくれた。其方にお願いしたいことが1つあるのだ」

威圧的な声が響いた瞬間、俺は心の中でため息をついた。
目の前に座っているのは、この街の領主、カーク・グラディウス伯爵である。
見た目からしてただ者ではない。頭は完全にスキンヘッドで、まるで鏡のように光っている。身体は鎧のような筋肉で包まれており、その風貌からはとても50代とは思えない。いや、むしろ40代?いや、30代って言われても信じるかも…。

そんな彼の視線が、ギラリと俺に向けられる。
お願いという言葉の時点で良い話ではない。内容次第では断りたい。ちゃんとこの世界でも『NO』と言える日本人を目指している。………ってか、もう帰りたい。

「……な、何でしょうか?」

「最近、この街で人攫いが増えている。それを解決してほしい」

人攫い———、街でそんな事件が頻発しているなんて、初耳だった。いつもボーッとしてるから、全然気づかなかったんだろうか。俺も気を付けなければ。
隣のアルジェが静かにうなずき、落ち着いた声で答える。

「詳しい状況をお聞かせください。ギルドとして全力で対応させていただきます」

彼女は領主相手に冷静に話を進めている。俺は黙って、ただアルジェに任せているだけだ。
この世界に来て2年ほど経つが、常識だってまだまだ理解しているわけではない。ここは、我らがギルドの実質的なリーダー、アルジェに任せるのがいいだろう。
自分が口を開けば何かしら余計なことを言う自信があるので、口を閉じ、頭を下げ、時々うなずくだけだ。
そうしているうちにドンドンと話が進んで行く。報酬の話まできちんとしてくれているようで、流石はアルジェだ。
俺はうんうん頷くだけで楽な仕事だ。眠くなっていたけど、居眠りしている議員の気持ちがわかった気がする。

話が終盤に差し掛かっていた。
領主の低く威厳のある声が、校長先生の話のように感じる。話が長い———、俺は既に半分意識が飛びかけている。眠気がじわじわと襲ってきて、まるで波のように何度も俺を飲み込もうとしてくる。
————寝るな、寝るな、ソウ。ここで寝たら終わりだぞッ!!
必死に自分を叱咤しながら、何とか意識を保っていた。横で聞こえるアルジェのいい声が、救いのように感じる。彼女がしっかり領主と話してくれているおかげで、俺はただそこに座っているだけでよかった。

人攫いとなると、多少なりとも武力が必要となるだろう。なら、俺は役立たずなので、冒険者ギルドに所属する冒険者に頼まなければいけない。

情報収集だって得意じゃないし、そんな伝手もない。結局はまたアルジェに相談するしかないだろう。こういう時、妹たちがいてくれれば、良かったんだけど、今はダンジョン攻略の遠征中でいないからな~。

そんなことを考えていると、ようやく話も終わりみたいだ。

「お任せください。我々ギルドで解決しましょう!」

その一言で、領主も満足げにうなずいている。

「よろしく頼む。必要な物があればこちらで準備しよう。遠慮なく言ってくれ」

このやり取りを見て、改めて彼女の頼もしさを感じる。俺には到底できない冷静さかつ丁寧な対応だ。俺だけの時はこうもいかない。

「期待しているぞ」

カーク・グラディウスが最後にそう言い、話はようやく終わりを告げた。
———何とか眠気に打ち勝った。これで帰れる……。

「ソウよ、其方はもう少しアルジェを見習ったらどうだ? 能力があるのは認めるが気概を感じられん」

話がようやく終わり、帰ろうとした瞬間、———領主から苦言が飛んできた。
ま、まさか眠そうにしていたことがバレている?

それに能力があるって何だ? なんでこの人は俺を高く評価しているんだろう?
せいぜい俺はギルドの受付くらいがちょうどいい。ギルドの運営だってアルジェがほとんどやってくれているし、まともに書類整理すらしていない。
………ギルドマスターから受付に異動願いを出せないかな?

「えっと、……善処します」

領主は何も言わず、ただ微かに頷くだけだった。その視線には、俺への期待が込められているようで、ちょっと居心地が悪い。期待されるって、こんなに重たいものなんだな、と改めて実感した。
———帰ったら受付に異動願い出せるか、アルジェに相談しよう。

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