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「明日の約束を……」
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とにかく彼と何か「約束」をしなくては。
急に思いついたそれは、私にとって最大の賭けであり、これまでの人生を振り返ってみても、それは最大の挑戦だった。
優しい彼なら、まだ疼き始めたばっかりの感情を抑えながら私との「約束」を守ってくれるはず。
「無」になってゆく感情の中で、トクトクと私の心臓の音だけが響く。
[[明日の放課後、話したいことがあります。]]
最期の力を振り絞るように、画面上の紙飛行機にそっと触れる。
スマホを持つ左手が震え、それは何も受信していないのに揺れていた。
こんな感情の起伏は心地の良いものではなかったけれど、逆に、今はこの感情の揺らぎを彼に流し込んであげたかった。
◇
私がその画面を閉じるよりも前に、メッセージに既読が付く。驚いて放り投げそうになったスマホは、思いがけない彼からの着信を知らせて本当に震えだした。
想像以上の展開に私だけの心臓が跳ねあがり、緊張が全身に駆け巡る。
「……はい」
「っあ……なっちゃん?」
耳元で聞こえる彼の声は、教室で聞くよりも大人っぽく聞こえた。
女友達が呼ぶあだ名で、何の気なしに彼が私を呼ぶ声は教室の中でも十分くすぐったいのに、耳元でそれが響くと、それは、言葉に詰まってしまう程の破壊力だった。
「今ちょうどスマホ見たらさ、なっちゃんからライン来てて、なんか気になって電話しちゃった──それに、今日休みだったでしょ。カゼとか?大丈夫?」
「まあ、うん。あっ!でも、もう元気だから。ありがとう……」
電話をしてくれたことも、私が休んだことを気に掛けてくれたのも、ものすごく、ものすごく、嬉しい。
でも恥ずかしさが彼との電話を邪魔するように割って入ってきたせいで、素っ気ない返事をしてしまったことを何故だかちょっと寂しく感じた。
「そっか。なら良かった。あのさ、明日の……その、話したいことって?」
私の感情が暴走し、この場でうっかり要件を伝えてしまう所だった。
でもそれじゃダメなんだ。明日の放課後に涼君と会うことにこそ意味がある。
「あっと、それは……明日でも、良いかな?」
「ん……なんかごめん」
喉元まで来ている心配を飲み込んで、私はまた素っ気なく答えている。
「こっちこそ!急にラインしちゃってゴメン」
「ううん。じゃあ、明日ね」
「うん……また、明日」
そのせいで曇った感情に慌てて謝ると、察したような彼との電話が終わる。
でも今彼が「明日を約束」してくれた時、それは決して憂鬱なものではなく、彼のその弾むような言葉と同じ感情で私が満たされると、私は少し安心した。
電話を切った後も暫く緊張は引かず、彼と「同期」してるのを忘れてしまう位、私の感情で溢れていた。
そこにはたぶん喜が沢山居て、私は彼と「明日の約束」ができた事で満足していた。
急に思いついたそれは、私にとって最大の賭けであり、これまでの人生を振り返ってみても、それは最大の挑戦だった。
優しい彼なら、まだ疼き始めたばっかりの感情を抑えながら私との「約束」を守ってくれるはず。
「無」になってゆく感情の中で、トクトクと私の心臓の音だけが響く。
[[明日の放課後、話したいことがあります。]]
最期の力を振り絞るように、画面上の紙飛行機にそっと触れる。
スマホを持つ左手が震え、それは何も受信していないのに揺れていた。
こんな感情の起伏は心地の良いものではなかったけれど、逆に、今はこの感情の揺らぎを彼に流し込んであげたかった。
◇
私がその画面を閉じるよりも前に、メッセージに既読が付く。驚いて放り投げそうになったスマホは、思いがけない彼からの着信を知らせて本当に震えだした。
想像以上の展開に私だけの心臓が跳ねあがり、緊張が全身に駆け巡る。
「……はい」
「っあ……なっちゃん?」
耳元で聞こえる彼の声は、教室で聞くよりも大人っぽく聞こえた。
女友達が呼ぶあだ名で、何の気なしに彼が私を呼ぶ声は教室の中でも十分くすぐったいのに、耳元でそれが響くと、それは、言葉に詰まってしまう程の破壊力だった。
「今ちょうどスマホ見たらさ、なっちゃんからライン来てて、なんか気になって電話しちゃった──それに、今日休みだったでしょ。カゼとか?大丈夫?」
「まあ、うん。あっ!でも、もう元気だから。ありがとう……」
電話をしてくれたことも、私が休んだことを気に掛けてくれたのも、ものすごく、ものすごく、嬉しい。
でも恥ずかしさが彼との電話を邪魔するように割って入ってきたせいで、素っ気ない返事をしてしまったことを何故だかちょっと寂しく感じた。
「そっか。なら良かった。あのさ、明日の……その、話したいことって?」
私の感情が暴走し、この場でうっかり要件を伝えてしまう所だった。
でもそれじゃダメなんだ。明日の放課後に涼君と会うことにこそ意味がある。
「あっと、それは……明日でも、良いかな?」
「ん……なんかごめん」
喉元まで来ている心配を飲み込んで、私はまた素っ気なく答えている。
「こっちこそ!急にラインしちゃってゴメン」
「ううん。じゃあ、明日ね」
「うん……また、明日」
そのせいで曇った感情に慌てて謝ると、察したような彼との電話が終わる。
でも今彼が「明日を約束」してくれた時、それは決して憂鬱なものではなく、彼のその弾むような言葉と同じ感情で私が満たされると、私は少し安心した。
電話を切った後も暫く緊張は引かず、彼と「同期」してるのを忘れてしまう位、私の感情で溢れていた。
そこにはたぶん喜が沢山居て、私は彼と「明日の約束」ができた事で満足していた。
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