余命僅かの令嬢は、二人の死神に恋をする

白風

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異世界から来た男

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「私の命を貰いに来た?」

 さらっと衝撃的な事実を言われた。

「私を殺すってこと?」

 知らず知らずの内に自分で自分を抱きしめていた腕に、更に力がこもった。
 男は首を横に振った。

「いや、殺す訳じゃない。正確には君の魂をあの世に導く為に来たと言った方が正しいかな」
「あの世とは天国とか地獄のこと?」
「そうそう。正解」

 男は腕を組んで、うんうんと頷いた。

「死神って言ってたけど、本当なの?」

 我ながら馬鹿らしい質問だとは思うが、聞かずにはいられなかった。

「本当だよ。証明してあげるよ」

 と言うと、その姿がふっと消えた。

「えっ!?」

 手品かなにかだろうか。
 だとしてもタネはありそうにない。
 驚いていた時、男が再び現れた。

「今みたいに姿を消せるんだよねーー」

 とぼけた様子で言って来た。
 何から何まで不思議過ぎて信じられない。
 金に輝く髪に細身の長身も相まって、底知れない威圧感を感じる。

「どうやらローズさんは今悲しんでいるみたいだけど、もしかして死にたいとか思っちゃってる?」
「どうして私の名前を……」
「担当する相手の個人情報を、会社から与えれるんだよねーー」

 担当? 個人情報? 会社?
 意味が分からない。

「そうそう。俺はこういう者です」

 そう言って差し出して来たのは、掌くらいの大きさの一枚の紙だった。
 文字が書かれているが、知らない言葉で書かれているらしく読めなかった。

「ワールドエンドコーポレーション っていう会社で俺は働いてるんだ。ダサい名前だよねぇ」

 ポリポリと頭を掻いている。
 すると何かを思い出したかのように、口を開いた。

「申し遅れました。俺の名前はカイト・イシザワ。短い間だけど宜しくね。ちゃんと君の魂は導いてあげるから」

 この辺りでは聞かない雰囲気の、面白い響きを持った名前だった。
 カイトか。
 ……いや、今気にするのはそこではない。

「魂を導くってどういうこと?」
「疑問に思うのも当然だよね。説明するよ」

 カイトは床に腰を下ろして胡座をかいた。

「えっとね。俺達死神の仕事は、この世で死んだ魂をあの世に導く役割を仕事にしてるんだ」

 突然そんな事言われても、「はいそうですか」と素直には信じられない。
 でもさっき姿を消したり、突然現れたりしたから、この世界とは異なる存在と言われたら有り得そうな気もしてくる。

「さっき言ったことに戻るけど、結構悲しい出来事があったみたいだね。魂の色を見れば分かるよ」

 と私の胸辺りを見てきた。
 咄嗟に腕で隠して睨んでしまった。

「おっと失礼。謝るよ」

 ペコリと素直に頭を下げた。
 そんなに悪い人ではないのだろうか。
 いや、信じるのはまだ早い。
 グルグルと色々考えていた時、カイトが唐突に告げて来た。

「もしかして死にたいとか思ってる?」

 その表情は真剣そのものだった。
 ……確かに心は今かなり弱っている。
 怖い経験もしたし、裏切られたし。
 このまま生きていてもこの先良いことなんてあるのだろうか。
 するとカイトは腰に付けていた物を手に取った。
 細長いが、一体何なのだろうか。
 疑問に思っていると、右手でカバーのようなものを外した。

(短剣だ……)

 顔が引きつるのを感じた。
 明かりに照らされた刃は輝いており、先端は少し触れただけで切れそうなほど鋭利に尖っている。

「これは俺の仕事道具でね。普通の剣とは違って刺したとしても身体に傷はつかない。これで魂を刺せば痛みも感じず簡単にこの世とはおさらば出来るよ」

 そう言うカイトの瞳には闇が宿っている気がした。
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