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もう一人の死神
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翌日。
朝から私は疲れていた。
両親から昨夜のことを追及され続けたせいだ。
自分の娘が泣きながら、しかも服が乱れた状態で帰って来たら心配になるのは分かるが……。
やっと外に出ることが出来た頃は、もう昼近くになっていた。
「はぁ……」
深呼吸した後、溜め息をついた。
今は一人でぼーっとしたい気分だった。
自室にいても親はほっといてくれないし。
モヤモヤとした気持ちのまま、私は歩き始めた。
家を出てから十五分位経った頃。
とある場所に着いた。
町外れにあるここは、周囲を木々に囲まれている広場のようになっている。
辺り一面には数多くの墓が並んでいた。
その中の一つに用があるのだ。
「お祖父様、来たよ」
目の前の墓に話し掛けた。
私の大好きだったお祖父様。
優しくて、悩みごとがあるといつも相談に乗ってくれた。
亡くなってからも度々こうして来ては、一人語りかけていた。
「聞いてよ。あのね……」
昨日の出来事を話し始めた。
時折吹く風に草が揺れ、お祖父様が頷いてくれている姿が脳裏に浮かんだ。
それからしばらく話続け、思いを吐き出したら少し気持ちが落ち着いた。
「じゃあね」
手を振り歩き出した。
さすがに両親にも、お祖父様にもカイトのことは言えなかった。
頭がどうかしてしまったのかと思われても面倒だし。
そもそも本当におかしくなっているのかもしれない。
(余命三ヶ月か……)
病気なのか何なのか分からないが、その影響で脳に異常があり、カイトという死神を作り出しているのでは。
とも思っていた。
考えても答えの出ない問いに嫌気が差していた。
空を見上げ、飛んでいた鳥の行く先を無意識に目で追った時だ。
墓の前に立つ人の後ろ姿が目に入った。
裾の長い黒のロングコートを着ている。
肩まで伸びている髪からして女性か? と思ったが、そうにしては体格が良すぎる。
横顔が見えて性別が分かった。
(男性だ)
鋭い瞳は彼の目の前の墓に向けられていた。
悲しさを纏っているようにも見える。
とその時、男がばっとこちらに向いた。
「!!」
あまりの剣幕に驚いてしまった。
よく見ると男の腰には長剣があり、右手でその柄を握っている。
(え、私切られる!?)
足がガクガクと震える。
ど、どうすれば。
恐怖で一歩も動けない。
その間にも彼はジリジリと距離を詰めて来ている。
視界が涙で歪んできた時、男が低い声で呟いた。
「お前は何者だ」
わわ、私は…と慌てていると、背後で声がした、
「ありゃ、俺の姿が見えるんだねぇ」
ばっと後ろを振り向くと、そこにはカイトがいた。
「えっ!?」
ついさっきまでいなかったのに。
まさかずっと姿を消していたのだろうか。
「俺は敵じゃないから、取り敢えず剣から手を放してよーー」
と呑気な声で男に告げた。
だが男の手が緩む気配はない。
ギラギラとした眼光がカイトを捉え続けている。
そして何かを思い出したかのように語りかけた。
「あなた知ってるよ。俺達の世界じゃ有名人だよ?」
「え、どう言うこと?」
思わず聞いてしまった。
まさか、この男も死神?
私の困惑を読み取ったらしく、カイトが答えてくれた。
「あの男の名はバルト・クライス。人間だよ。数多くの魔物を屠って来た凄腕の剣士だ。いつも一人だけ生き残って帰還することから、周囲からはこう呼ばれている」
息を呑み、続く言葉を待った。
「冷酷なる剣士。その名も『死神』」
朝から私は疲れていた。
両親から昨夜のことを追及され続けたせいだ。
自分の娘が泣きながら、しかも服が乱れた状態で帰って来たら心配になるのは分かるが……。
やっと外に出ることが出来た頃は、もう昼近くになっていた。
「はぁ……」
深呼吸した後、溜め息をついた。
今は一人でぼーっとしたい気分だった。
自室にいても親はほっといてくれないし。
モヤモヤとした気持ちのまま、私は歩き始めた。
家を出てから十五分位経った頃。
とある場所に着いた。
町外れにあるここは、周囲を木々に囲まれている広場のようになっている。
辺り一面には数多くの墓が並んでいた。
その中の一つに用があるのだ。
「お祖父様、来たよ」
目の前の墓に話し掛けた。
私の大好きだったお祖父様。
優しくて、悩みごとがあるといつも相談に乗ってくれた。
亡くなってからも度々こうして来ては、一人語りかけていた。
「聞いてよ。あのね……」
昨日の出来事を話し始めた。
時折吹く風に草が揺れ、お祖父様が頷いてくれている姿が脳裏に浮かんだ。
それからしばらく話続け、思いを吐き出したら少し気持ちが落ち着いた。
「じゃあね」
手を振り歩き出した。
さすがに両親にも、お祖父様にもカイトのことは言えなかった。
頭がどうかしてしまったのかと思われても面倒だし。
そもそも本当におかしくなっているのかもしれない。
(余命三ヶ月か……)
病気なのか何なのか分からないが、その影響で脳に異常があり、カイトという死神を作り出しているのでは。
とも思っていた。
考えても答えの出ない問いに嫌気が差していた。
空を見上げ、飛んでいた鳥の行く先を無意識に目で追った時だ。
墓の前に立つ人の後ろ姿が目に入った。
裾の長い黒のロングコートを着ている。
肩まで伸びている髪からして女性か? と思ったが、そうにしては体格が良すぎる。
横顔が見えて性別が分かった。
(男性だ)
鋭い瞳は彼の目の前の墓に向けられていた。
悲しさを纏っているようにも見える。
とその時、男がばっとこちらに向いた。
「!!」
あまりの剣幕に驚いてしまった。
よく見ると男の腰には長剣があり、右手でその柄を握っている。
(え、私切られる!?)
足がガクガクと震える。
ど、どうすれば。
恐怖で一歩も動けない。
その間にも彼はジリジリと距離を詰めて来ている。
視界が涙で歪んできた時、男が低い声で呟いた。
「お前は何者だ」
わわ、私は…と慌てていると、背後で声がした、
「ありゃ、俺の姿が見えるんだねぇ」
ばっと後ろを振り向くと、そこにはカイトがいた。
「えっ!?」
ついさっきまでいなかったのに。
まさかずっと姿を消していたのだろうか。
「俺は敵じゃないから、取り敢えず剣から手を放してよーー」
と呑気な声で男に告げた。
だが男の手が緩む気配はない。
ギラギラとした眼光がカイトを捉え続けている。
そして何かを思い出したかのように語りかけた。
「あなた知ってるよ。俺達の世界じゃ有名人だよ?」
「え、どう言うこと?」
思わず聞いてしまった。
まさか、この男も死神?
私の困惑を読み取ったらしく、カイトが答えてくれた。
「あの男の名はバルト・クライス。人間だよ。数多くの魔物を屠って来た凄腕の剣士だ。いつも一人だけ生き残って帰還することから、周囲からはこう呼ばれている」
息を呑み、続く言葉を待った。
「冷酷なる剣士。その名も『死神』」
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