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100回目の婚約破棄
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「シェリーヌとの婚約を破棄する!」
私は目の前の女性、シェリーヌに力強く宣言した。
「そんな……」
悲しそうに一言呟くと、彼女はその場にうずくまってしまった。
静かな室内に響く嗚咽を聞いていると、心が痛まないでもない。
その姿を見ながら、私は隣に立っている、この屋敷の使用人であるホッジスに小声である質問をした。
「これで何回目だ?」
ホッジスは表情を変えずに淡々と答えた。
「婚約破棄の宣言はこれで90回目でございます」
……。
もうそんなにしていたか。
こんなにも婚約破棄の宣言を繰り返しているのには訳がある。
原因は三ヶ月前のことだ。
私はシェリーヌに婚約破棄の宣言をした。
というのも、共に買い物に行った時など、金遣いの荒さや性格の悪さが浮き彫りになり、この先苦労する未来しか見えなかったのだ。
そしてとうとう我慢の限界になって婚約破棄をした直後だった。
泣きながら屋敷を飛び出したシェリーヌは、絶望したのか川に身を投げたとのことだった。
なんとか一命は取り留めたのだが、大きな問題が発生した。
この出来事が原因で記憶喪失になったというのだ。
シェリーヌの一族も権力者であり、彼女の親から『大事な娘をどうしてくれるんだ! 責任を取れ!』と脅迫まがいに言われてしまった。
(親も親なら子も子だな……)
それを実感した瞬間でもあった。
まぁ確かに、彼女がこうなる原因を作ってしまったのは、私の婚約破棄というのが事実ではある。
しぶしぶではあるが、記憶が戻るまで私の屋敷で彼女の面倒を見ることとなった。
どうやったら記憶が戻るのか。
医師に相談した所、とある方法を提案された。
「婚約破棄をした時のことを再現すれば、その衝撃で記憶が戻るかも知れません」
なるほど。一理あるかもしれん。
という訳で婚約破棄の宣言をこれまで90回も繰り返してきた訳だ。
こんなにもやり続けていることに対して馬鹿馬鹿しさもとっくに感じてはいるのだが、他に方法がないのだ。
シェリーヌは一向に記憶を取り戻す気配はない。
私は内心疲弊していた。
(ずっとこんな生活が続くのだろうか)
シェリーヌがいては新しい婚約者を見つけることも出来ない。
それから日々は経ち悲しみに暮れていた時、一筋の光が差した。
自室で黙々と書類仕事をしている時だった。
ホッジスから聞かされたとある事実に私は驚いた。
「それは本当か!?」
「間違いありません」
シェリーヌがとっくに記憶を取り戻している。
頻繁に彼女は出掛けるというのもあって、何をしているのか訝しんだ私は外部の者に調査を依頼した。
その者の報告によると、彼女が店で友達とお茶をしていた時に、『記憶はとっくに取り戻してるんだけどあの人、身分も財力もあるし利用させてもらってるんだよねーー』と言っていたのだという。
「なんて奴だ!」
私は思わず机を叩きつけた。
怒りが込み上げてくる。
ホッジスの報告によると、婚約破棄の宣言は次でちょうど100回目だという。
「次で終わりにしてやる」
シェリーヌの顔を思い浮かべ、そう呟いた。
そして迎えた100回目の婚約破棄。
シェリーヌはいつも通り泣きながらうずくまった。
その姿を見ても、私の心は冷めきっていた。
(騙されていた私が馬鹿だった)
もうこれで終わりにしよう。
決心してシェリーヌに言葉を投げかけた。
「もうとっくに記憶は戻っているんだろう?」
ビクッと肩を震わせたシェリーヌ。
泣き声はピッタリと止んでいた。
「今までよくも騙してくれたな。すぐに屋敷から出て行ってもらおうか。金輪際私に近付くな!」
顔を上げたシェリーヌは、悲しそうな表情を浮かべながら訴えかけて来た。
「何を仰っているんですか? まだ昔のことは思い出せませんの」
(諦めの悪い奴よ……)
ホッジスから聞いた事実を告げると、シェリーヌの顔はみるみる引きつり、醜く歪んでいった。
そして暴言を吐いてきた。
「この卑怯者! あんたが婚約破棄してきたのが原因だろうが!」
こんな本性を隠していたのか。
女を見る目がなかった。
つくづく私は後悔した。
怒りが収まない様子で怒鳴り続けるシェリーヌに向かって、私は最後の言葉を告げた。
「もうお前の面倒を見る必要はない。さっさと失せろ」
シェリーヌを連れ出すよう使用人に指示し、部屋を出る瞬間まで怒りを吐いていた姿が見えなくなると、私は溜息をついた。
「やっと終わったか……」
ここまで長かった。
身も心も疲れてしまった。
次に愛する女性を見つける時は慎重に行こう。
そう決心したのだった。
私は目の前の女性、シェリーヌに力強く宣言した。
「そんな……」
悲しそうに一言呟くと、彼女はその場にうずくまってしまった。
静かな室内に響く嗚咽を聞いていると、心が痛まないでもない。
その姿を見ながら、私は隣に立っている、この屋敷の使用人であるホッジスに小声である質問をした。
「これで何回目だ?」
ホッジスは表情を変えずに淡々と答えた。
「婚約破棄の宣言はこれで90回目でございます」
……。
もうそんなにしていたか。
こんなにも婚約破棄の宣言を繰り返しているのには訳がある。
原因は三ヶ月前のことだ。
私はシェリーヌに婚約破棄の宣言をした。
というのも、共に買い物に行った時など、金遣いの荒さや性格の悪さが浮き彫りになり、この先苦労する未来しか見えなかったのだ。
そしてとうとう我慢の限界になって婚約破棄をした直後だった。
泣きながら屋敷を飛び出したシェリーヌは、絶望したのか川に身を投げたとのことだった。
なんとか一命は取り留めたのだが、大きな問題が発生した。
この出来事が原因で記憶喪失になったというのだ。
シェリーヌの一族も権力者であり、彼女の親から『大事な娘をどうしてくれるんだ! 責任を取れ!』と脅迫まがいに言われてしまった。
(親も親なら子も子だな……)
それを実感した瞬間でもあった。
まぁ確かに、彼女がこうなる原因を作ってしまったのは、私の婚約破棄というのが事実ではある。
しぶしぶではあるが、記憶が戻るまで私の屋敷で彼女の面倒を見ることとなった。
どうやったら記憶が戻るのか。
医師に相談した所、とある方法を提案された。
「婚約破棄をした時のことを再現すれば、その衝撃で記憶が戻るかも知れません」
なるほど。一理あるかもしれん。
という訳で婚約破棄の宣言をこれまで90回も繰り返してきた訳だ。
こんなにもやり続けていることに対して馬鹿馬鹿しさもとっくに感じてはいるのだが、他に方法がないのだ。
シェリーヌは一向に記憶を取り戻す気配はない。
私は内心疲弊していた。
(ずっとこんな生活が続くのだろうか)
シェリーヌがいては新しい婚約者を見つけることも出来ない。
それから日々は経ち悲しみに暮れていた時、一筋の光が差した。
自室で黙々と書類仕事をしている時だった。
ホッジスから聞かされたとある事実に私は驚いた。
「それは本当か!?」
「間違いありません」
シェリーヌがとっくに記憶を取り戻している。
頻繁に彼女は出掛けるというのもあって、何をしているのか訝しんだ私は外部の者に調査を依頼した。
その者の報告によると、彼女が店で友達とお茶をしていた時に、『記憶はとっくに取り戻してるんだけどあの人、身分も財力もあるし利用させてもらってるんだよねーー』と言っていたのだという。
「なんて奴だ!」
私は思わず机を叩きつけた。
怒りが込み上げてくる。
ホッジスの報告によると、婚約破棄の宣言は次でちょうど100回目だという。
「次で終わりにしてやる」
シェリーヌの顔を思い浮かべ、そう呟いた。
そして迎えた100回目の婚約破棄。
シェリーヌはいつも通り泣きながらうずくまった。
その姿を見ても、私の心は冷めきっていた。
(騙されていた私が馬鹿だった)
もうこれで終わりにしよう。
決心してシェリーヌに言葉を投げかけた。
「もうとっくに記憶は戻っているんだろう?」
ビクッと肩を震わせたシェリーヌ。
泣き声はピッタリと止んでいた。
「今までよくも騙してくれたな。すぐに屋敷から出て行ってもらおうか。金輪際私に近付くな!」
顔を上げたシェリーヌは、悲しそうな表情を浮かべながら訴えかけて来た。
「何を仰っているんですか? まだ昔のことは思い出せませんの」
(諦めの悪い奴よ……)
ホッジスから聞いた事実を告げると、シェリーヌの顔はみるみる引きつり、醜く歪んでいった。
そして暴言を吐いてきた。
「この卑怯者! あんたが婚約破棄してきたのが原因だろうが!」
こんな本性を隠していたのか。
女を見る目がなかった。
つくづく私は後悔した。
怒りが収まない様子で怒鳴り続けるシェリーヌに向かって、私は最後の言葉を告げた。
「もうお前の面倒を見る必要はない。さっさと失せろ」
シェリーヌを連れ出すよう使用人に指示し、部屋を出る瞬間まで怒りを吐いていた姿が見えなくなると、私は溜息をついた。
「やっと終わったか……」
ここまで長かった。
身も心も疲れてしまった。
次に愛する女性を見つける時は慎重に行こう。
そう決心したのだった。
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