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第二十二章
第八十九話:戦争(1)
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『神聖エルモア帝国』の帝都にて、諸侯に対して緊急招集が行われた。先日に行われた粛清に関する招集と同じように、会場では響めきが上がっている。
集められた理由は、『聖クライム教団』が『神聖エルモア帝国』特使であるこの私に行った非礼についてだ。だが、ここで問題が発生した。『聖クライム教団』の言い分と私の言い分が不一致だという事だ。正確に言えば、不一致とまではいかないが…絶妙な編集が行われている。
『聖クライム教団』の言い分は、特使で来たレイア・アーネスト・ヴォルドーが教祖と親しい護衛を殺害し、武力に任せて無理難題を要求。それが通らないと分かると逃亡。
教祖は、両国の平和的発展を望んでおり、特使の無礼については目を瞑った。過去の因縁もあるので、多少の事は大目に見るという慈悲の心をみせて歩み寄った。大国のトップが歩み寄る姿勢をみせたというのに、恫喝と逃亡なんて無礼な行為をされては面子が潰れたどころの話ではない。本来ならば、戦争すら厭わないが、両国の損失を考えるに望ましくない。その為、両国のトップ会談を望むとの事だ。
流石に、紳士として名高い私でも本気で怒ってもいいと思う。
恐らく、『聖クライム教団』内部では、国民に対して新教祖としての初仕事が戦争回避という形で大々的に宣伝をしたいのだろう。当然、損失0での戦争回避をね。なんせ、グラシア殿と比較にもならないほど劣るのだ。最初くらい勢いは欲しいよね。
だが…ぶち殺すぞ!!
「さて、ヴォルドー侯爵。『聖クライム教団』からの言い分は、この通りだが…いい訳を聴こうか」
事の詳細は、事前にガイウス皇帝陛下にお話ししていたから良かったが…『聖クライム教団』のやり口は汚いだろう!! 確かに、護衛は殺したよ!! 教祖に対しても資源をよこせと言ったよ!! だけど、それは戦争回避の為にこちらが下手に出て交渉してあげたのだ。新教祖の面子も保てるようにとね!!
物は言いようではあるが…これでは、まるで私が悪人である。
「畏まりましたガイウス皇帝陛下。確かに、『聖クライム教団』の使者が持ってきた書簡の内容に誤りはございません。しかし!! それに至った経緯がまるで記述されていない。私は、これについて異議を申し立てます。このまま弁明を続けさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「構わぬ。続けよ」
他の貴族達から舌打ちなどが絶え間なく聞こえてくる。戦争に発展すれば、貴族は私兵を動員する必要がある。当然、莫大な金がかかるので貴族達的には嬉しくないのだ。戦争が起こって喜ぶのは、商人や冒険者達くらいだ。
それから、事の詳細を洗いざらい話した。まぁ、グラシア殿とグリンドールについては省いてだがね。この場で、あの2人とのやり取りを知るのはガイウス皇帝陛下ただ一人だ。
ゴリヴィエとタルトは、テロリストどもをぶち殺した後に記憶を改竄しておいた。特に、神器あたりの所は、思い出す事はない。これで情報漏洩の心配はなくなった。
………
……
…
「若造の教祖のくせに、舐めてくれるな。部下がやった事とはいえ、儂の代理人でもある特使の顔を叩くとはな」
「ガイウス皇帝陛下!! 私は、戦争には反対です!! お忘れになったのですか、『聖クライム教団』には、『闇』の使い手がおります。大変申しにくいのですが、勝機は薄いかと」
貴族の一人が意見をだす。その考えは、正しい。まさに正論である。勝てない戦争はすべきではない。対話による解決が可能ならば、それで解決すべきだと発言するあたり、この貴族は高評価だ。
下手な国家ならば、そのような軟弱な発言をするだけで首が飛ぶ危険性もある。なんせ、国のトップの御前で戦争しても負けるのでやめましょうなんて相当の覚悟がないと言えない。
その発言が出るのも当然だ。なんせ、『闇』のグリンドールがグラシア殿と熟年愛の逃避行に出た事を知る者は、私とガイウス皇帝陛下を除きこの場の誰も知らない。『聖クライム教団』としても、公にしたくないであろう。国家を支えていた屋台骨が居なくなったのだ。バレるのは時間の問題だとしても、この戦争では隠し通したいと思っているに違いない。
だが、こちらにはガイウス皇帝陛下の神器プロメテウスというチートがあるのだ。グラシア殿の現在地など手に取るように分かるのだよ。これが何を意味するかといえば、グリンドールも随伴しているので居場所も判明するという事だ。グリンドールだけが一人で戦場に出る事はありえないだろう…グラシア殿を置いていくような男ではない。かと言って、一緒に危険がある戦場に出てくるとも思えない。
まぁ、ガイウス皇帝陛下もグラシア殿に対して神器プロメテウスを使うのは少々気が引けるそうだがね。
「その通りです!! ガイウス皇帝陛下。以前の戦争でどれだけの損失が出たかお忘れではあるまい」
資源戦争に敗れて『神聖エルモア帝国』は、人、物、金を莫大に消費しただけだ。貴族達は私費で冒険者を雇っている者達もいたので散財ばかりだった。しかも、得る物が無かったので、『神聖エルモア帝国』から払われた恩賞は微々たる物…戦費の足しにもならなかったのであろう。
「お主等の言い分もよく分かる。だがな…前回とは異なり、『聖クライム教団』は儂の顔にドロを塗りつけた。これを許容せよと申すのか? 確かに、戦争には莫大な金が掛かる。お主等が勝算もなくやり合いたくないと申すのも理解できる。じゃがな…新任の教祖?そんな若造に舐められて、国家のトップが務まるか!!」
その通りですガイウス皇帝陛下。あんな、若造の新教祖などグラシア殿の足元にも及びません。この機にガイウス皇帝陛下と新任教祖でどちらの格が上か証明してあげましょう。証明するまでもないけどね!!
ガイウス皇帝陛下の鶴の一声でグダグダ文句を垂れていた貴族達が一斉に黙った。
「わ、分かりましたガイウス皇帝陛下。直ぐに準備を致しましょう。『聖クライム教団』の使者には、その旨を伝えて帰します」
ついに、財政大臣が折れた。まぁ、頭の中では予算計上を行っているのであろう。
「あぁ、大臣…その使者を返す際に私からささやかなプレゼントがあるので一緒にお渡し願おう。生モノだが、氷を詰めているので『聖クライム教団』に帰るまでは保つでしょう」
「――ヴォルドー侯爵。一応、中身を聞いておきたい」
「中身は、『神聖エルモア帝国』に巣を作っていた『聖クライム教団』反政府テロリストの首ですよ。先日、特使として赴いた際に接触がありましたので殺しておきました。全く、自国のテロリストの拠点を他国に作らせるとか迷惑極まりないですよね」
何を戸惑う事がある。テロリストの生首程度で驚く事でもあるまい。
「渡しておけ。それにしても、やる気があまり感じられないの。では、一つお主等のやる気が出る一言をくれてやろう。――此度の戦争で最大の戦果を上げた王位継承権を保つ者を次期皇帝に任命しよう」
………えっ!?
ちょ、ちょっと待ってガイウス皇帝陛下!! そんな取って付けたかのような感じでさらりと引退しようとしないで!? 確かに、『聖クライム教団』が代替わりして良い機会だよ。戦争で一番の戦果を上げた者を任命するにも良いアイディアだと思うよ。
………
……
…
あれ?ある意味ベストなタイミングじゃない。
えー、なになに。ガイウス皇帝陛下が口パクで『儂、この機会に引退するぞ!! 今なら、娘一人を嫁に娶って、大戦果を上げても構わぬぞ』と。
いやいやいや、別に皇帝とか責任ある役職はいりません。平民の生まれで捨て子である私が国家のトップになったら他に示しが付かないでしょう。そういう、面倒なのは由緒ある家系にやってもらうのが国家安泰の道です。
それに、万が一トップになるなら、ゴリフターズ関係で『ウルオール』の国王をやりますよ。その上で、『神聖エルモア帝国』と同盟関係を継続したほうが利益になるでしょう。
「そのお言葉は、真ですかガイウス皇帝陛下?」
「儂の言葉に嘘偽りなどない。王位継承権の順位が全てではない。世の中は実力主義じゃ。知力、権力、財力、暴力…どのような手段を使っても構わぬ。他の後継者の脚を引っ張るのは、やり方としてはありじゃな。お主等の力を見せてみよ」
戦争に乗り気でなかった貴族達の目に野心が灯る。
自分の支援する後継者が、戦果を上げて次期皇帝になれば出世街道を進む事は間違いない。私財を投売りしてでも支援するだろう。捕らぬ狸の皮算用ではあるが、戦争で勝てば以前奪われた金鉱山が手に入る。報奨金も期待できるという訳だ。
やる気のない連中を動かすにはよい餌だ。
直ぐに、ガイウス皇帝陛下の子供達が部屋を出て行った。それに続いて諸侯達も続々と部屋を退出していった。今後の予定を詰めるのだろう。
「さて、これだけ皆様がやる気だと仕事が減りそうだな」
「ヴォルドー侯爵。儂の引退試合じゃ…派手に飾れ」
「どの程度まで本気を出せばよろしいでしょうか?」
私とてランクAに片脚を突っ込んでいる化物と呼ばれている一人だ。『蟲』の魔法の本領を発揮すれば、大国といえどもジワジワと嬲り殺しにする事はできる。逆に言えば、ジワジワとしか潰せない…攻撃力に劣る私のやり方なんて暗殺、疫病、飢餓しかないからね。一撃で都市を灰に出来るだけの火力が欲しいわ。
「何がどの程度だと!! ガイウス皇帝陛下に失礼であろう。よいか、死力を尽くし、いかなる手段を用いても勝利をもたらすんじゃ。よいな!!」
ガイウス皇帝陛下の代わりに財務大臣が答えてくれた。そうか、死力を尽くせか…。ゴリフターズだけでなく、瀬里奈さんまで動員しろという事か!! 財務大臣のご命令じゃ仕方ないよね。
引きこもり気味の瀬里奈さんをお外に連れ出すには良い切っかけだ。『闇』のグリンドールがいないのだ。死ぬ事はまずないだろう。
「承知致しました。財務大臣殿…それでは、ガイウス皇帝陛下。戦争の準備が御座いますのでこれにて失礼させていただきます。必ずやご期待にお応えいたします」
ガイウス皇帝陛下の引退試合…この忠臣レイアが派手に飾りましょう。
◇
瀬里奈ハイヴ…の地上にある私の新居。いや~、建造途中だとは言え…なにこれ。近未来的過ぎて、理解の範疇を超えている。この時代にあるべき建物じゃないのは明白だ。
5層にも及ぶ高い塀、コンクリートのような素材で固められた地面、設置された数々の罠、重火器モドキを背負った蟲達の定期巡回、建造中のピラミッド型の住居。中には、蛍光色の体液を利用した照明や水洗トイレまである。
そして、そんな近未来的な住居の一室でゴリフターズと瀬里奈さんを交えて今後の戦争に向けての会議を行っている。
ギッギ『あぁ~、いいわね。この孫の手…背中の痒いところによく届くわ』
瀬里奈さんが、グリンドールからお土産で貰った神器テミスで背中を掻いている。神器を持ってアレコレ頑張っていたけど何も起こらなかったのでついに孫の手にまで地位が降格した。
まぁ、気持ちはわかるよ。私も神器を持ってスイングをしてみた。他にも『ギルド滅びろ!!』とか叫んでみたりもした。色々試してみたが効果はなさそうだった。要するに、私は神器の担い手になり得なかったのだ。
ゴリフターズも同様に試してもらったが、生憎と効果は無かった。まぁ、これが現実だよね。特別な属性に加えて、神器があれば安心した生活が送れただろうから少し残念だ。
「まさか、旦那様が『聖クライム教団』でそんな無碍な扱いを受けたいたとは」
「どうやら、身の程を弁えさせる必要がありそうですわね。ゴリフリーテ」
「そう言ってくれるのは、理解ある妻達と親しい者くらいだよ。先日、帝都で行われた会議じゃ…完全に悪人扱いされていたからね」
「私達が旦那様の味方なのは、当然ですわ。旦那様が受けた屈辱は、私達への挑戦でもある事を教えてあげる必要がありますわね」
やっぱ、結婚してよかったな。
こんな出来た妻達がいるなんて、羨ましいだろう? この世にステータスが確認できる技能があれば間違いなく全項目カンスト並びに全スキル習得済みだぜ。非の打ち所がないよ。
「ありがとう皆、私の為に怒ってくれて。しかし、私兵を出すにしても…領地移籍をしたばかりで都合の良い人材なんて居ないよね。まぁ、前の領地でもお金の無駄になるから私兵なんて雇っていなかったけどさ」
本来、領主は私兵を雇っている事が多い。荒事解決や治安維持などを行っている。だが、私の領地では無縁であった。ゴリフターズが出張って始末してくれていたからね。
ゴリフターズは単騎で戦況をひっくり返せる存在だが…やはり、戦争とか数が大事である。見栄え的にもね…それに、派手に飾れと言われたのだ。それなのに私とゴリフターズ、瀬里奈さんの四人だけポツンと戦場にいるのでは寂しいだろう。
だから、派手にする為に色々とやってやろうじゃないか。
「『ウルオール』の友軍を旦那様の傘下に加えるのはどうでしょうか?」
「一つの案としてはありだが…流石に、他国の軍隊を私の傘下に加えるのは問題がある。友軍として参加してもらえるだけでも御の字だ。それ以上求めるのは双方に宜しくない」
ゴリフリーテの意見は、却下だ。『ウルオール』王族から他国に嫁へ出た身だとは言え、ゴリフターズの『ウルオール』における発言力は今でも健在している。その気になれば、友軍を私の傘下に編成する事も可能であろう。全く、ランクAという看板は伊達じゃない。
「では、領民に対して徴兵を行いますか? 領地の場所が場所だけに、質も量も無いよりマシといった程度にしかならないかと思われますが…」
一般人など本当に無いよりマシと言った程度だ。肉壁と蟲達のエサにしかならない。しかも、そんな役にも立たない連中を食わせる食料などの準備も必要となればもう目も当てられない。むしろ、お前等が食料だと言いたくなるわ。
よって、ゴリフリーナの徴兵案も却下だ。
「領民に武器を持たせたところで肉壁程度しか役に立たんさ。それなら、私の蟲を出せば事足りる。だが、蟲達だけではガイウス皇帝陛下の引退試合を飾るのには些かインパクトが欠ける」
『蟲』の使い手である私がいるのだ。蟲系モンスターが戦場にいるのは当然。なんのインパクトもない。当然の事なのだ。
「インパクトですか…」
ギギ『じゃあ、高ランクモンスター達を連れて戦場を荒らすとかどうかしら? ゴブリン、オーク、ウルフ、グリフォン、ドラゴンなど高ランクモンスターで知性が高い個体なら交渉に応じるかもよ』
瀬里奈さんの言葉をゴリフターズにも理解できるように、蟲達がホワイトボードに翻訳を書く。
………
……
…
す、素晴らしい名案だ!!
忘れていたが瀬里奈さんは、他種族のモンスターとも会話できる。幼少期の乳母や衣服を手に入れる為に他種族と交渉していたよね。
それに、考えようによってはモンスターと人間が手を取り合う良いキッカケではないか。
「それだぁ!! よっし、そうと決まれば高ランクモンスターがいる場所に片っ端から襲撃して交渉する事にしよう」
「モ、モンスターを交えての戦争ですか!? そんな前代未聞な事をして大丈夫ですか旦那様」
「財務大臣から死力を尽くせと言われたから大丈夫だろう。確かに戦争でモンスターを活用するのは前代未聞かもしれないが、裏ではモンスターの繁殖力を利用したパワーレベリングとかもうやっていた連中もいるからね。さて、交渉にはゴリフリーテ、ゴリフリーナの二人にも一緒に来てもらおう」
圧倒的強者がいれば従順になるだろう。モンスターは強い者に従う事が多いからね。
各種族のトップと話して、自種族を統率してもらえばいいさ。当然、交渉故に…労働に応じた対価をモンスターに支払う予定だ。幸い戦争だ。人間の血肉が欲しい場合は、好きなだけ持って行かせるまでだ。使えもしない人間に食料や物資を準備するくらいなら、働くモンスターにくれてやる方がマシだ。
「お義母様と我々まで新居を離れてしまえば、ギルドのスパイなどが侵入してきた際に些か不安があります…」
それは、あるね。先日も地底湖から侵入してきたギルドの犬がいたそうなので瀬里奈さんが全滅させた事件もあった。死体から回収した武装はオリハルコン製であった。ギルドも本腰を入れてきたと考えられる。
だが、一歩遅かったな。既に、ゴリフターズも揃い万全な布陣が築かれた。
「エーテリアとジュラルドを新居の警備に雇おうと思う。戦争で私達が新居を離れた隙にギルドが行動を起こす可能性も高いから…期間は、戦争が終わるまでが理想かな」
「なるほど、あの二人なら我々が抜けた穴を埋められそうですね」
その通りだ。二人揃えば、私でも勝てない。当然、この広い敷地を二人ではカバーしきれないだろうから、警備に必要な蟲達も残していく。
◇
迷宮でなくともモンスターは存在している。但し迷宮とは異なり湧いて出てくる事はない。その為、根絶やしにすればそれで終わる。だが、当然モンスター達もそれを理解している。生きるための術を身につけているのだ。
「だけど、この戦力差…逃げ切れると思っているのか?」
『神聖エルモア帝国』にあるオーク種族が暴れるこの場所。希に、集団から独立したオークが町を襲って種族を残すための牝を確保しつつ勢力圏を広げる。
数十を超えるオークがこちらを見ており、その中には高ランクモンスターが混ざってはいる。まぁ、私の蟲達はそれを遥かに上回る数を出しているがね。
ギーー『それ以上、侵入すれば全軍をもって相手にするって…』
全軍をもって相手にする?やめてくれよ。こちらには私だけでなくゴリフターズもいるんだぞ。どれだけ数がいようと私達に勝てるはずがないであろう。知恵がある為、誇りというモノがあるのだろう。全く、素直に従えばいいものを。
「別に、誰かの依頼でここに来たわけでも無いのにね。じゃあ、一発降伏勧告を出そう…ゴリフリーテ、ゴリフリーナ。派手な花火を一発上げて差し上げろ」
完全武装のゴリフリーテとゴリフリーナ。そこに立っているだけで発せられる威圧感を覚えぬモンスターでもあるまい。正直言えば、私でも若干怖いぞ。
ゴリフターズに瀬里奈さんが可変機構付きの大剣と大鎌なんて渡すから、試し切りしたそうでウズウズしているじゃん。あらゆる状況に対応できる近接武器…そんなの夢のような仕様を基に開発された武器がコレだ。
「旦那様からの平和的な提案を無碍に扱うとは。あまり、私達一家を舐めないでいただこう!!」
「モンスター如きが旦那様の提案を蹴る!? 笑止!!」
ゴゴゴゴゴゴ
ゴリフターズを中心にした地響きが発生する。本当に、規格外だ。ゴリフターズの『聖』の魔法を頭脳明晰な蟲達と色々と研究した結果、ある事が分かった。『聖』の魔法は、【分子結合の切断】と【分子変換】が可能である。有り体に言えば錬金術に近い事が実現している。まぁ、【分子変換】といってもあらゆるモノに変えられるわけではない…特定の物資だけを変異させられるようだ。
以前、戦闘でミスリルにも匹敵した私の外皮を触れただけでズタボロにした秘密やモンスターを食べられるようにする秘密もそこにあった。恐らく、オリハルコンですら壊す事も可能であろう。
「では、母さん。逃げようとしているオーク達に伝えて欲しい。二発目は、直撃させる。そして、我々は交渉の窓口を広く開いているとね」
全員がこちらの言葉を理解しているわけではないだろうから、瀬里奈さんにお願いしてこちらの思いを伝えてもらう。
ギッギ『貴方達!! さっきも伝えたけど、私達は交渉に来ているだけよ。話の分かるトップを連れてきなさい。さもなければ、殲滅するわよ』
瀬里奈さんの声は届いただろうか。だが、警告はした。対等な交渉をする用意をしてきた私を門前払いした罪を受けるがいい。
ゴリフターズが全力で放つ『聖』の魔法。二人の力が合わさった魔法は、どれほどの威力を出るのか想像を絶する。近くにいるだけで、肌がピリピリする。
「旦那様、何時でも準備は出来ております」
5m程の光の球体…これこそ、ゴリフターズが揃って放つ究極の一撃。
きっと、この直撃を食らったら私も跡形もなく消失するだろう。そんな気がする…いいや、間違いなく死ぬ!!
「偵察の結果、主力は森林の深部にいる。参加させる戦力を全滅させたとなっては意味がない。手前にある山を吹きとばせ」
「「消し飛べぇぇぇぇぇ」」
さぁ、この一撃で会談に応じなければ巣ごと滅ぼすぞ。
ゴリフターズの一撃が…山にぶつかり木々や土を一瞬にして分解していく。まるで近未来の新型爆弾でも見ているかのような光景だ。SF映画でこんな爆弾あったよね。対物質消滅弾みたいなやつ。
「衝撃波到達まで後3秒…全員、影に隠れてなさい」
威圧の為に展開させていた蟲達が一斉に影の中に戻っていく。さりげなく、瀬里奈さんも『よっこらせ』と入ろうとしたので拒んでおいた。
ダメでしょう!! 確かに、瀬里奈さんを受け入れるだけの許容量は持っている。一度影に入ってしまうと無差別に洗脳してしまう。何度か、影に取り込んで洗脳しない事は可能かと試してみたが不可能であった。
もし、将来的にそんな芸当が可能になれば、瀬里奈さんを究極生命体にしてあげたい。
ギッギー『きゃー、レイアちゃん。入れないわよ!! 仕方ない、レイアちゃんに掴まるのよ!!』
「それは名案です!! 旦那様~」
「狡いわよゴリフリーナ。私も…」
モナー(お父様~、ギューーー)
モキュ(ひっつき蟲~)
明らかに私より物理的な重量がある家族が伸し掛ってきた。そのおかげで、衝撃波なんて全く感じなかった。寧ろ、家族の暖かさを感じた。
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