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第二十三章
第九十八話:(ゴリフ外伝)ゴリフの結婚前夜(2)
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◆一つ目:ゴリフリーナ
********************************************
◇
人生、一歩道を間違えば取り返しの付かない事があると聞くが…まさか、体験する事になるとは思わなかった。いいや、間違ったというのは相手に失礼だ。なるべくしてなったと考えよう。
私以外にあの二人を幸せに出来るとも思えない。彼女達の過去を知り、今を受け容れる。それが出来る男がどれだけ居るだろうか…きっと、殆ど居ないであろう。仮に居たとしてもそういう紳士の殆どは既婚者だ。
ならば、これは天啓だ。
明日に式を備えている私を気遣ってガイウス皇帝陛下が酒瓶を片手に私の部屋に来てくれた。絹毛虫ちゃんを伸びると言いながらビヨーーーンと伸ばして遊んでいるようにも思えるが、きっとリラックスさせるつもりで敢えてあのような行為をしているのだろう。
モキュウ(伸び~るじゃありません!! ガイウス皇帝陛下!! 乙女の柔肌をなんだと思っているんですか。どうせならブラッシングしてください)
ガイウス皇帝陛下が絹毛虫ちゃんから差し出されたブラシを受け取り、ご自身の髪の毛を整え始めた。あぁ…絹毛虫ちゃんが暴れているが、ガイウス皇帝陛下の物理的な包容力の前には無意味だった。
モッモキュ(いやぁ~、離して~。お父様、ガイウス皇帝陛下が虐める~。お気に入りのブラシが!!)
「いよいよ明日じゃの!!」
「えぇ、ガイウス皇帝陛下…私のような者の為に、お越し頂いたのは非常にありがたいのですが、本当によろしかったのですか?」
聞いた話では、執務を放置して王宮から飛び出してきたとか。
それなりに長いお付き合いがあるにせよ先日まで一代貴族であった私のような者の為に他国まで足をお運び頂けるとは嬉しい限りです。しかし、あまり私を贔屓されてると噂になってしまいます。ただでさえ、隠し子では無いかと疑われているのです。
「ふむ…レイアよ。儂は、レイアの事を実の息子のように思っている。故に、瀬里奈殿が来られない以上、儂が出るのは当然であろう!! それに打算的な考えもある。これを機に『ウルオール』との良い付き合いをする為に色々と手を尽くしている」
恐らく、領地絡みの事だろう。ランクAは、国家防衛の要でもある。一人で国が落とせる強者だ。それが一気に二人も国外に流出するのだ。『ウルオール』側からしてみれば冗談じゃ無いと思うだろう。だからこそ、トップ同士で妥協案を探しているという事か。
幸い、『神聖エルモア帝国』と『ウルオール』は国境が接している。侯爵となったことで新たに国境付近の土地があてがわれるだろう。私としては、彼女達のご両親とも仲良くしたい。『ウルオール』だって、『神聖エルモア帝国』とは仲良くしたいはずだ。
「ゴリフリーテやゴリフリーナをダシに使うのは、いささか気が引けますが…同盟関係を結ぶのには良い機会かと思われます。本当であれば、ガイウス皇帝陛下のご子息の誰かと良縁を結ばれるのが理想なのですが…私以外に彼女達を幸せには出来ないでしょう」
「気にするな。それに、大国の王族同士の婚姻など滅多に無いわ。息子達には、諸外国より国内で頑張って貰わねばなるまい」
それもそうか…国外に目を向けるより国内の地盤を確固たるものにする方が先決か。大国だからこそ、国内に力を入れるべきだとお考えなのであろう。
「そうですね。しかし、結婚は大変だと身をもって実感いたしました。ガイウス皇帝陛下は、何度もご経験されていると思うと本当に頭が下がります。私達の式は極めて異例の小規模ですが…ガイウス皇帝陛下ともなれば招待客の管理などで目が回るほどお忙しかったでしょう」
「儂くらい偉くなれば、そこらへんは人任せでいいんじゃよ。部下達が適当に選別するからな。まぁ、結婚式の影で貴族達が挨拶の順番や入場の順番など様々な事で裏金を動かしていたのは知っているが…あの程度些細な問題じゃ」
「貴族達は相変わらずですね。お金は確かに大事だと思いますが、ガイウス皇帝陛下の結婚式にまで持ち込まないでも良いでしょうに…」
「良くも悪くもそれが貴族社会だからな。ちなみに、レイアの結婚式にも無理矢理参加しようとしていた諸侯もいたぞ」
えっ!? こう言っては、アレだが…社交界デビューすらしていない私の結婚式に出てこようとする貴族って何を考えているんだ。面識がある貴族なんて殆ど居ないぞ。よくて、冒険者の立場で顔を合わせた事がある程度だ。
「出席者は、ヴァーミリオン王家とガイウス皇帝陛下のみ…。多少無理してでも出席できれば、顔が売れるという計算ですかね」
「そうだろうな。少数精鋭とはこの事かと言うほどの面子じゃ」
「神聖な結婚式をなんだと思っているんでしょう。呆れて物が言えません。そもそも招待客については、相手方に一任しておりますので…ガイウス皇帝陛下以外がご出席する事は叶わないでしょう。座席数も多くありませんし」
ヴァーミリオン王家の出席者は、ご両親であるミカエル国王とゴリフリーザ王妃と至宝の双子。それに対して此方はガイウス皇帝陛下並びに、蟲達の代表で一郎。本当は、瀬里奈さんを呼びたかったのだが、ガイウス皇帝陛下と話し合った据えにお流れになった。
やはり、相手の出方がまだ分からないので、様子をみてから紹介した方がよいだろうとの事だ。
「だろうな。それでレイアは、将来生まれてくる子供の名前は決めたか?」
「将来ですか~。まだ、結婚すらしていないのに気が早いですよガイウス皇帝陛下」
子供の名前…考えないようにしていた。
悪いが、『ウルオール』のヴァーミリオン王家の家系図を見せて貰った。そうしたら驚愕の事実が分かったんだよ!! 王家の女性の名前にある特徴がある事が。我が目を疑うとはこの事だと思った。
ヴァーミリオン王家の家系図に名を連ねた女性は、必ず『ゴリフ…』と付いていた。
嘘だあぁぁぁぁぁぁ!! と思う人も多いかも知れないが歴とした事実だ。最初は、イタズラ好きと聞いた至宝の双子であるミルアとイヤレスの遊びかと思った。だからこそ、王都にある図書館や本屋にまで足を運んで調べた。更には、城下町の者達に聞き込みまでやったよ!!
だけど、返ってくる答えは同じだった。
要するに、私と彼女達の間に女の子が生まれたらヴァーミリオン王家の習わしで『ゴリフ…』と名付けなければいけない。現代人の感性を持つ私にはそれが許容できなかった。何が嬉しくて娘にゴリフなんて付けないといけない!!
そこで考えた…王家で無ければ『ゴリフ…』と付けなくてもいいんじゃないかと!! だから、王位継承権を破棄してもらったのだ。彼女達は、王家の直系かもしれないが外に出たから許してねという作戦だ。
未来に産まれてくる子供達の為に、今から対策をするとかやり過ぎかも知れないが紳士にしか出来ない行為であろう。
「それは、いかんな!! 名付け親は、儂に任せておけ!! こう見えても子供達の名前は、全部儂が考えた!!」
ガイウス皇帝陛下が名付け親になってくれるという申し出は本当に光栄だ。それに、あんなに沢山いる子供達全員の名前をご自身で決められていたとは…知らなかった。だが、コレは期待できるぞ。
世界を股に掛けたという陛下だ。きっと、良い女性の名前をインプットされているであろう。
「ありがとうございます!! 大丈夫だとは思っておりますが、私から一つだけ要望があります」
「言ってみると良い」
「ゴリフと付かない名前を…」
………
……
…
「えっ!?」
「え!?」
今までに見たことが無いような顔をされているガイウス皇帝陛下。本気で困ったご様子だ。そんなに難しい注文を言ったのか!? 三文字を使わなければいいのだから楽勝でしょう。
「まさか…」
「レイアよ!! しばし待て。えーーっと、この頁の名前は…」
ガイウス皇帝陛下が神器プロメテウスを取り出した。私に見えないようにこそこそと…いや、まさかね。そんなはずありませんよね!! 蟲達がガイウス皇帝陛下の側へとワラワラと近寄っていった。
ピピー(このゴリフレットなんて素敵じゃありませんか?)
モナ(いえいえ、こちらのゴリフリーズなんていうのも捨てがたいですよ)
「流石は幻想蝶に蛆蛞蝓じゃ。よく分かっておるな」
………あれ?
何か違和感があると思ったら、ガイウス皇帝陛下が普通に幻想蝶ちゃんと蛆蛞蝓ちゃんと会話している気がする。いつから蟲言語を理解出来るようになったのだろうか。
モキュー(ゴリフォーゼなんていうお名前もかっこいいじゃありませんか)
「もっと女性らしい名前にしてやらねばならんだろう」
やはり、どう見ても会話が成立している気がする。
「あの~ガイウス皇帝陛下。いつから蟲言語を理解できるようになったのですか」
「神器プロメテウスは、いい女を調べるだけで無く身辺調査にも活用できる。それをちょっと応用すれば、いい女である幻想蝶や蛆蛞蝓の言葉が翻訳されて現れるなど当然であろう」
す、すげーーーー!!
神器として、本当にどうでも良い機能しか有していないと思っていたがコレばかりはすごい。あらゆる言語に対応したインターフェースだったとは…いい女の定義は、何も人に限定した物で無かったとか、どうでもいいところで凄いわ。
だが、今はそれどころでは無い。このままでは、場の雰囲気でゴリフ…って名前で決定されてしまう恐れがある。
「ガイウス皇帝陛下、何も今考えなくても…」
「まぁ、待て待て…おぉ!! これなんてどうじゃ…ゴリフィーナ」
なんだか、悪い魔法使いに捕らわれてアレな展開が待ってそうな名前ですね。それに、聞こえは良いが、文字に書けば『ゴリフ』+『ィーナ』だという事実!!
「申し訳ありませんが却下です。その名前を付けると娘が悪い魔法使いに捕まりそうな気がします」
「ふむ…良い名だとおもったのだが。では、ゴリスティーナなんてどうじゃ」
ゴリフから離れた名前だが…なんか、タイムマシーンでも開発しそうな名前だな。世界的に作ってはいけない物を作ってしまいそうな気がしてくる。更に言えば、不幸な事件にまきこまれて死んでしまいそうな予感すらする。
「良い名前ですが…何やら、色々と不幸な事件に巻き込まれる気がしますので却下です」
「不幸な事件か、レイアより事件に巻き込まれる者は早々いないとおもうが…だが、娘の事を案じる父親ならば分からんでも無い。そうなると…ゴリファゼット!!」
また、ゴリフに戻ったぞ!!
「ガイウス皇帝陛下!! ゴリフに戻っております!!」
神器プロメテウスを以てしてもゴリの呪いから開放されないのか。神器の力すら超えると言うのか…もしかして、先日ガイウス皇帝陛下と二人だけで鍋パーティーをした際に鍋敷き代わりにしたのを怒っているのだろうか。神器は、担い手を選ぶと言うので意思を持っている可能性は十分に考えられる。
今度、ご機嫌取りに綺麗に磨き上げよう。
「…どうやら、神器の調子が悪いようだから子供が産まれた時に考えることにしよう」
「そうしましょう」
◆
お父様の話を終えて帰り際に気づいてしまった。
「ねぇ、ゴリフリーナ…私達姉妹よね?」
「何を今更」
「産まれた順番的に私が姉よね?」
「そうなるわね」
…!!
この瞬間、姉であるゴリフリーテが何を考えているか分かってしまった。明日は結婚式…更に言えば、新婦が二人という事で一般的な形式からは少し外れる。そう言った、例外的な結婚式では、年功序列でバージンロードを歩み、誓いのキスを行うのが慣わしとなっている。
ちなみに、この形式で結婚式を行った著名な人はガイウス皇帝だ。双子の姉妹を纏めて娶った時にこの形式を用いた事から広まったと言われている。
「双子の場合、位置的に言えば最初に産まれた方が妹という地方もあるらしいですわよ」
「何処の地方の話かしらね。ここ『ウルオール』とは全く関係の無い地方のことでしょう」
私達姉妹の中では、幾つかの暗黙のルールがある。
一つ目は、家族の為ならば死をも厭わない。
二つ目は、姉妹で争う事になった場合にはエルフらしく腕力で解決させる。
三つ目は、幸せになる。
今回の案件は、二つ目と三つ目に抵触している。
ゴリフリーテの瞳に闘志が灯っている。結婚前夜だというのに、一戦交える事を厭わないその覚悟。
「姉の顔を立てて譲る気は無いようですね」
「無論。後でもめる位なら今すぐに決着を付けましょう。その方が後腐れないわ」
「今から、30分後…地下闘技場で」
闘技場…王宮地下にある王族専用の訓練場の名称だ。迷宮にいけない日には、ソコを利用して技を磨く。それが王家の習わし。尤も、『聖』の魔法に耐えうる構造になっていないので魔法の技では無く肉体の技を磨く場所となっている。
王家の中で総合的には私とゴリフリーテが一番強いが、魔法なしの場合だとお母様も私達に並ぶ。あの細身で何処にそんな力があるのかと疑問が尽きない。
………
……
…
「姉妹で本気で戦うのは久しぶりかしらね」
「えぇ、ですが手加減は致しません。私も、一番手がいいので」
長い時間一緒に活動していたからこそお互いの手の内は知り尽くしている。やりづらいことこの上ない。だけど、女の意地があるので負けられない。
「お互い明日の事もあるので、万が一を考えて顔などの露出する部分への攻撃は禁止で」
「当然ですわね。では、ご覚悟をゴリフリーテ!!」
筋肉と筋肉の熱い衝突が始まった。
************************************************
結婚前夜なので式まではありません!!
ちなみに、明日の結婚式後は初夜をめぐって殴り合いが発生しております!!
次話から本編に戻りますね^^
来週も同じ時間に投稿出来るようにがんばりますが…間に合わなかったらごめんなさい。
PS:
3回OVL大賞に応募しようと思います^^
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人生、一歩道を間違えば取り返しの付かない事があると聞くが…まさか、体験する事になるとは思わなかった。いいや、間違ったというのは相手に失礼だ。なるべくしてなったと考えよう。
私以外にあの二人を幸せに出来るとも思えない。彼女達の過去を知り、今を受け容れる。それが出来る男がどれだけ居るだろうか…きっと、殆ど居ないであろう。仮に居たとしてもそういう紳士の殆どは既婚者だ。
ならば、これは天啓だ。
明日に式を備えている私を気遣ってガイウス皇帝陛下が酒瓶を片手に私の部屋に来てくれた。絹毛虫ちゃんを伸びると言いながらビヨーーーンと伸ばして遊んでいるようにも思えるが、きっとリラックスさせるつもりで敢えてあのような行為をしているのだろう。
モキュウ(伸び~るじゃありません!! ガイウス皇帝陛下!! 乙女の柔肌をなんだと思っているんですか。どうせならブラッシングしてください)
ガイウス皇帝陛下が絹毛虫ちゃんから差し出されたブラシを受け取り、ご自身の髪の毛を整え始めた。あぁ…絹毛虫ちゃんが暴れているが、ガイウス皇帝陛下の物理的な包容力の前には無意味だった。
モッモキュ(いやぁ~、離して~。お父様、ガイウス皇帝陛下が虐める~。お気に入りのブラシが!!)
「いよいよ明日じゃの!!」
「えぇ、ガイウス皇帝陛下…私のような者の為に、お越し頂いたのは非常にありがたいのですが、本当によろしかったのですか?」
聞いた話では、執務を放置して王宮から飛び出してきたとか。
それなりに長いお付き合いがあるにせよ先日まで一代貴族であった私のような者の為に他国まで足をお運び頂けるとは嬉しい限りです。しかし、あまり私を贔屓されてると噂になってしまいます。ただでさえ、隠し子では無いかと疑われているのです。
「ふむ…レイアよ。儂は、レイアの事を実の息子のように思っている。故に、瀬里奈殿が来られない以上、儂が出るのは当然であろう!! それに打算的な考えもある。これを機に『ウルオール』との良い付き合いをする為に色々と手を尽くしている」
恐らく、領地絡みの事だろう。ランクAは、国家防衛の要でもある。一人で国が落とせる強者だ。それが一気に二人も国外に流出するのだ。『ウルオール』側からしてみれば冗談じゃ無いと思うだろう。だからこそ、トップ同士で妥協案を探しているという事か。
幸い、『神聖エルモア帝国』と『ウルオール』は国境が接している。侯爵となったことで新たに国境付近の土地があてがわれるだろう。私としては、彼女達のご両親とも仲良くしたい。『ウルオール』だって、『神聖エルモア帝国』とは仲良くしたいはずだ。
「ゴリフリーテやゴリフリーナをダシに使うのは、いささか気が引けますが…同盟関係を結ぶのには良い機会かと思われます。本当であれば、ガイウス皇帝陛下のご子息の誰かと良縁を結ばれるのが理想なのですが…私以外に彼女達を幸せには出来ないでしょう」
「気にするな。それに、大国の王族同士の婚姻など滅多に無いわ。息子達には、諸外国より国内で頑張って貰わねばなるまい」
それもそうか…国外に目を向けるより国内の地盤を確固たるものにする方が先決か。大国だからこそ、国内に力を入れるべきだとお考えなのであろう。
「そうですね。しかし、結婚は大変だと身をもって実感いたしました。ガイウス皇帝陛下は、何度もご経験されていると思うと本当に頭が下がります。私達の式は極めて異例の小規模ですが…ガイウス皇帝陛下ともなれば招待客の管理などで目が回るほどお忙しかったでしょう」
「儂くらい偉くなれば、そこらへんは人任せでいいんじゃよ。部下達が適当に選別するからな。まぁ、結婚式の影で貴族達が挨拶の順番や入場の順番など様々な事で裏金を動かしていたのは知っているが…あの程度些細な問題じゃ」
「貴族達は相変わらずですね。お金は確かに大事だと思いますが、ガイウス皇帝陛下の結婚式にまで持ち込まないでも良いでしょうに…」
「良くも悪くもそれが貴族社会だからな。ちなみに、レイアの結婚式にも無理矢理参加しようとしていた諸侯もいたぞ」
えっ!? こう言っては、アレだが…社交界デビューすらしていない私の結婚式に出てこようとする貴族って何を考えているんだ。面識がある貴族なんて殆ど居ないぞ。よくて、冒険者の立場で顔を合わせた事がある程度だ。
「出席者は、ヴァーミリオン王家とガイウス皇帝陛下のみ…。多少無理してでも出席できれば、顔が売れるという計算ですかね」
「そうだろうな。少数精鋭とはこの事かと言うほどの面子じゃ」
「神聖な結婚式をなんだと思っているんでしょう。呆れて物が言えません。そもそも招待客については、相手方に一任しておりますので…ガイウス皇帝陛下以外がご出席する事は叶わないでしょう。座席数も多くありませんし」
ヴァーミリオン王家の出席者は、ご両親であるミカエル国王とゴリフリーザ王妃と至宝の双子。それに対して此方はガイウス皇帝陛下並びに、蟲達の代表で一郎。本当は、瀬里奈さんを呼びたかったのだが、ガイウス皇帝陛下と話し合った据えにお流れになった。
やはり、相手の出方がまだ分からないので、様子をみてから紹介した方がよいだろうとの事だ。
「だろうな。それでレイアは、将来生まれてくる子供の名前は決めたか?」
「将来ですか~。まだ、結婚すらしていないのに気が早いですよガイウス皇帝陛下」
子供の名前…考えないようにしていた。
悪いが、『ウルオール』のヴァーミリオン王家の家系図を見せて貰った。そうしたら驚愕の事実が分かったんだよ!! 王家の女性の名前にある特徴がある事が。我が目を疑うとはこの事だと思った。
ヴァーミリオン王家の家系図に名を連ねた女性は、必ず『ゴリフ…』と付いていた。
嘘だあぁぁぁぁぁぁ!! と思う人も多いかも知れないが歴とした事実だ。最初は、イタズラ好きと聞いた至宝の双子であるミルアとイヤレスの遊びかと思った。だからこそ、王都にある図書館や本屋にまで足を運んで調べた。更には、城下町の者達に聞き込みまでやったよ!!
だけど、返ってくる答えは同じだった。
要するに、私と彼女達の間に女の子が生まれたらヴァーミリオン王家の習わしで『ゴリフ…』と名付けなければいけない。現代人の感性を持つ私にはそれが許容できなかった。何が嬉しくて娘にゴリフなんて付けないといけない!!
そこで考えた…王家で無ければ『ゴリフ…』と付けなくてもいいんじゃないかと!! だから、王位継承権を破棄してもらったのだ。彼女達は、王家の直系かもしれないが外に出たから許してねという作戦だ。
未来に産まれてくる子供達の為に、今から対策をするとかやり過ぎかも知れないが紳士にしか出来ない行為であろう。
「それは、いかんな!! 名付け親は、儂に任せておけ!! こう見えても子供達の名前は、全部儂が考えた!!」
ガイウス皇帝陛下が名付け親になってくれるという申し出は本当に光栄だ。それに、あんなに沢山いる子供達全員の名前をご自身で決められていたとは…知らなかった。だが、コレは期待できるぞ。
世界を股に掛けたという陛下だ。きっと、良い女性の名前をインプットされているであろう。
「ありがとうございます!! 大丈夫だとは思っておりますが、私から一つだけ要望があります」
「言ってみると良い」
「ゴリフと付かない名前を…」
………
……
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「えっ!?」
「え!?」
今までに見たことが無いような顔をされているガイウス皇帝陛下。本気で困ったご様子だ。そんなに難しい注文を言ったのか!? 三文字を使わなければいいのだから楽勝でしょう。
「まさか…」
「レイアよ!! しばし待て。えーーっと、この頁の名前は…」
ガイウス皇帝陛下が神器プロメテウスを取り出した。私に見えないようにこそこそと…いや、まさかね。そんなはずありませんよね!! 蟲達がガイウス皇帝陛下の側へとワラワラと近寄っていった。
ピピー(このゴリフレットなんて素敵じゃありませんか?)
モナ(いえいえ、こちらのゴリフリーズなんていうのも捨てがたいですよ)
「流石は幻想蝶に蛆蛞蝓じゃ。よく分かっておるな」
………あれ?
何か違和感があると思ったら、ガイウス皇帝陛下が普通に幻想蝶ちゃんと蛆蛞蝓ちゃんと会話している気がする。いつから蟲言語を理解出来るようになったのだろうか。
モキュー(ゴリフォーゼなんていうお名前もかっこいいじゃありませんか)
「もっと女性らしい名前にしてやらねばならんだろう」
やはり、どう見ても会話が成立している気がする。
「あの~ガイウス皇帝陛下。いつから蟲言語を理解できるようになったのですか」
「神器プロメテウスは、いい女を調べるだけで無く身辺調査にも活用できる。それをちょっと応用すれば、いい女である幻想蝶や蛆蛞蝓の言葉が翻訳されて現れるなど当然であろう」
す、すげーーーー!!
神器として、本当にどうでも良い機能しか有していないと思っていたがコレばかりはすごい。あらゆる言語に対応したインターフェースだったとは…いい女の定義は、何も人に限定した物で無かったとか、どうでもいいところで凄いわ。
だが、今はそれどころでは無い。このままでは、場の雰囲気でゴリフ…って名前で決定されてしまう恐れがある。
「ガイウス皇帝陛下、何も今考えなくても…」
「まぁ、待て待て…おぉ!! これなんてどうじゃ…ゴリフィーナ」
なんだか、悪い魔法使いに捕らわれてアレな展開が待ってそうな名前ですね。それに、聞こえは良いが、文字に書けば『ゴリフ』+『ィーナ』だという事実!!
「申し訳ありませんが却下です。その名前を付けると娘が悪い魔法使いに捕まりそうな気がします」
「ふむ…良い名だとおもったのだが。では、ゴリスティーナなんてどうじゃ」
ゴリフから離れた名前だが…なんか、タイムマシーンでも開発しそうな名前だな。世界的に作ってはいけない物を作ってしまいそうな気がしてくる。更に言えば、不幸な事件にまきこまれて死んでしまいそうな予感すらする。
「良い名前ですが…何やら、色々と不幸な事件に巻き込まれる気がしますので却下です」
「不幸な事件か、レイアより事件に巻き込まれる者は早々いないとおもうが…だが、娘の事を案じる父親ならば分からんでも無い。そうなると…ゴリファゼット!!」
また、ゴリフに戻ったぞ!!
「ガイウス皇帝陛下!! ゴリフに戻っております!!」
神器プロメテウスを以てしてもゴリの呪いから開放されないのか。神器の力すら超えると言うのか…もしかして、先日ガイウス皇帝陛下と二人だけで鍋パーティーをした際に鍋敷き代わりにしたのを怒っているのだろうか。神器は、担い手を選ぶと言うので意思を持っている可能性は十分に考えられる。
今度、ご機嫌取りに綺麗に磨き上げよう。
「…どうやら、神器の調子が悪いようだから子供が産まれた時に考えることにしよう」
「そうしましょう」
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お父様の話を終えて帰り際に気づいてしまった。
「ねぇ、ゴリフリーナ…私達姉妹よね?」
「何を今更」
「産まれた順番的に私が姉よね?」
「そうなるわね」
…!!
この瞬間、姉であるゴリフリーテが何を考えているか分かってしまった。明日は結婚式…更に言えば、新婦が二人という事で一般的な形式からは少し外れる。そう言った、例外的な結婚式では、年功序列でバージンロードを歩み、誓いのキスを行うのが慣わしとなっている。
ちなみに、この形式で結婚式を行った著名な人はガイウス皇帝だ。双子の姉妹を纏めて娶った時にこの形式を用いた事から広まったと言われている。
「双子の場合、位置的に言えば最初に産まれた方が妹という地方もあるらしいですわよ」
「何処の地方の話かしらね。ここ『ウルオール』とは全く関係の無い地方のことでしょう」
私達姉妹の中では、幾つかの暗黙のルールがある。
一つ目は、家族の為ならば死をも厭わない。
二つ目は、姉妹で争う事になった場合にはエルフらしく腕力で解決させる。
三つ目は、幸せになる。
今回の案件は、二つ目と三つ目に抵触している。
ゴリフリーテの瞳に闘志が灯っている。結婚前夜だというのに、一戦交える事を厭わないその覚悟。
「姉の顔を立てて譲る気は無いようですね」
「無論。後でもめる位なら今すぐに決着を付けましょう。その方が後腐れないわ」
「今から、30分後…地下闘技場で」
闘技場…王宮地下にある王族専用の訓練場の名称だ。迷宮にいけない日には、ソコを利用して技を磨く。それが王家の習わし。尤も、『聖』の魔法に耐えうる構造になっていないので魔法の技では無く肉体の技を磨く場所となっている。
王家の中で総合的には私とゴリフリーテが一番強いが、魔法なしの場合だとお母様も私達に並ぶ。あの細身で何処にそんな力があるのかと疑問が尽きない。
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「姉妹で本気で戦うのは久しぶりかしらね」
「えぇ、ですが手加減は致しません。私も、一番手がいいので」
長い時間一緒に活動していたからこそお互いの手の内は知り尽くしている。やりづらいことこの上ない。だけど、女の意地があるので負けられない。
「お互い明日の事もあるので、万が一を考えて顔などの露出する部分への攻撃は禁止で」
「当然ですわね。では、ご覚悟をゴリフリーテ!!」
筋肉と筋肉の熱い衝突が始まった。
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結婚前夜なので式まではありません!!
ちなみに、明日の結婚式後は初夜をめぐって殴り合いが発生しております!!
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来週も同じ時間に投稿出来るようにがんばりますが…間に合わなかったらごめんなさい。
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公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
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