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第二十四章

第百話:憎しみの連鎖(2)

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連載を始めて一年とちょっと…ついに!! 100話!?
正直作者も驚いております。

見切り発進気味では在りましたので、恐らく30話程度で終わるだろうなと思っていた時期がありました。

ここまで連載出来たのは読者の方がいてくださったおかげです!!

この場をかりてお礼を言わせてください。 

いつも読んで頂きありがとうございます!! そして今後もよろしくお願い致します。

◆一つ目:ゴリヴィエ
◆二つ目:瀬里奈
◆三つ目:瀬里奈
◆四つ目:グリンドール※『闇』の使い手
********************************************



 帝都で行われるレイア様のお葬式。貴族などの地位の高い人物が死んだ場合には、比較的よく利用される欲望渦巻く泥臭い場所として式会場は有名だ。

 当主が亡くなった場合には、財産分与、家督問題など色々と話し合わないといけない問題が沢山ある。事前に決まっていたとしても、血みどろの展開になる事などもしばしば耳に入る。家督を継ぐ者が一人しかいなければ必然的に次期当主は確定するからだ。

 他にも、参列する貴族目当てで顔を売ろうとする輩までいる。

 しかし、レイア様のお葬式はそんな愚かな行為を実戦しようとする者がいないと信じたい。レイア様と縁もゆかりも無い者が参列などレイア様側の参列者からしたら許しがたい事であろう。それに…ゴリフリーテ様とゴリフリーナ様の精神状態が分からない時に顔を売るためだけに来たとか、死にに来たのかと言いたくなる。

「ゴリヴィエ様。そろそろ、出発のお時間ですよ」

「えぇ、副教祖タルト。後…今後は教祖ゴリヴィエと呼びなさい。設立して間もないとは言え、周りに示しが付きませんよ」

 ツテで聞いた情報では、あのランクAのクロッセル・エグザエルがレイア様を殺害したらしいけど…時期やタイミングを考えて間違いなくギルドが絡んでいる。しかも、レイア様が殺害されたのはゴリフリーテ様とゴリフリーナ様の目の前だという。

 愛する夫を目の前で無くしたお二人の悲しみは想像を絶する。

「それにしても本当にレイア様は、お亡くなりになったんでしょうか。失礼を承知で言いますと…殺しても死にそうにありませんから」

「副教祖タルト!! 間違っても、その言葉を会場で言うんじゃありませんよ!! 貴方の首一つでは済まない事態になります」

 タルトに取って命の恩人でもあるレイア様になんたる不敬な!! 先日、設立したばかりの『筋肉教団』もレイア様のお力無くして実現する事は叶わなかった。そんな大恩のあるお方に対して「殺しても死にそうにない」とか教育がなっていないというレベルじゃありません。

 レイア様と生前お約束したとおり、一から教育をしていかなくてはなりませんね。

「申し訳ありません!! ………あの、教祖ゴリヴィエ。申し訳ないついでに、一つだけ教えて頂きたい事があるのですが」

「なんですか、この忙しい時に」

 『筋肉教団』の代表としてレイア様のお葬式に参列する。失礼の無いように身だしなみを整えるだけでも時間が掛かるというのに。

「この案内状に書かれている喪主なんですが、レイア様のお葬式の場合は喪主となられるのはゴリフリーテ様かゴリフリーナ様ですよね?」

「…? 何を当たり前の事を言っているんですか」

 レイア様は、『神聖エルモア帝国』の大貴族の一人でもあるから一般告知は当然として、それとは別に個別の案内状が一部の者達に送られている。その案内状には、当日のスケジュールやら細かい内容が几帳面に記載されている。そして、そこにはしっかりと、喪主の名前が書かれて…かか…れ…てぇぇぇぇぇぇぇ!!

「あっ、お気づきになられましたか。その喪主の所に記載されているセリナとは、どなたでしょうか?」

 か、考えろゴリヴィエ!! 

 レイア様の周りでセリナという名前を聞いた事があるかを!! ………ない!! いいや、そもそも喪主となるのは親族の誰かになるはずだ。

 ヴァーミリオン王家でセリナと名が付く人はいない。ならば、レイア様の親族関係か?

 その線も怪しい。お二人がご成婚された際にヴァーミリオン王家はレイア様の事を徹底的に調べ上げたようだが、親族の情報は無かったはず。孤児という線が一番濃厚だと結論付いた。ならば、………お二人との子供!?

 いいや、その線も無いですね。『ゴリ』じゃありませんから。もしかしたら、ゴリナと記載するはずだったが誤字ったとか。あ、ありえるかもしれない。だが、何時出産したんだ…。

 うむ、分からない!!

「副教祖タルト…そんなの行けば分かります!! ですが、失礼の無いように!!」




 お葬式なんて日本式の物しか知らなかったので、色々と形式を覚えるのが大変だったがなんとかなりそう。いざとなった場合のカンペもあるし、幻想蝶ちゃん達もフォローしてくれるから乗り切れるだろう。

「セリナさん、綺麗!!」

「むむぅ、認めたくありませんが…引き分けにしておきます」

 レイアちゃんの義弟達であるミルアちゃんとイヤレスちゃんと並ぶと絶世の美少女?のドリームチームの誕生だ。右にはミルアちゃん、左にはイヤレスちゃん…まさに両手に花!!

 確か、お葬式にゴリフリーテさんとゴリフリーナさんのご両親も来られるから、言ってみようかしら…「息子さんをください!!」………なんちゃって。

 でも、万が一構わないって返事が貰えたらどうしようかしら!! 息子であるレイアちゃんの義弟だけど、レイアちゃんのパパにもなるのよね。セリナ困っちゃうわ。

 グヘヘヘ

モナァ(セリナ様がよだれを垂らしている。きっと、よからぬ考えをしているに違いないわ)

ピッピ(瀬里奈様~、折角綺麗にお化粧までしたのにヨダレで台無しです!! 早く拭いてください)

「これは、いけないわ。ありがとう。もう少しこのままでいたかったけど、もうすぐ人が集まってくるから受付をお願いね」

「お任せを!! お義兄様のお葬式…がっぽり、お香典貢がせてきますね」

「セリナさん、また後で」

 ミルアちゃんとイヤレスちゃんを見送った。

 可愛いレイアちゃんの葬式に母である私が出席しないわけにはいかない!! よって、ガイウス皇帝陛下やゴリフリーテさんやゴリフリーナさんの力を借りてこの場に出る事が叶ったのだ。

 当然、本来の姿である蟲では面倒になるのは目に見えている。だからこそ、皆で考えた。

 ギルドの思惑は、『ウルオール』と『神聖エルモア帝国』との同盟破棄だろう。当然、それ以外に色々と思惑はあるだろうが、『神聖エルモア帝国』の次期皇帝任命式が来月にあるので直近で解決すべき問題はコレだと考えている。

 『ウルオール』の王族であるゴリフリーテさんやゴリフリーナさんが次期皇帝に跪くのは、戦争の火種にもなりかねない。だが、任命式の際に全ての当主が皇帝陛下の御前で跪き忠誠を誓うのは決まり事である。

 そこで、知恵を出し合って見つけ出した答えがコレだ!!

 レイアちゃんの葬式にも参列したい。更に、ゴリフリーテさんやゴリフリーナさんが次期皇帝に頭を下げずに済む方法…この私がレイアちゃんの後を継いで、セリナ・アーネスト・ヴォルドーとして表舞台に立てば良いのだ!! ガイウス皇帝陛下の取り計らいで、本日の葬式が終わり次第、正式にヴォルドー家の当主に任命される事になっている。私にとってすれば次期皇帝に頭を下げるなど、朝飯前だ。

 幸いな事に、瀬里奈ハイヴには攻め込んできた冒険者達のパーツが沢山ある。融合臓器の研究やレイアちゃんの予備臓器用にと色々備えている。そんな中から、理想的なパーツのみを組み合わせて蛆蛞蝓ちゃんが手を加える事で人並み外れた美貌を持つ人型模型が完成した。

 後は、その模型をリモートコントロール出来るように改良を加える。具体的には、神経を有線接続可能にする。そうすると、あら不思議。どこからどう見ても人間の女性が一人できあがるのだ。そして、お葬式会場の地下に身体を安置して、人型模型を操っている。五感まで再現されており、人語の発音も問題ない。尤も、魔法は使えないが・・・それは仕方が無い。

「どうじゃ瀬里奈殿」

「えぇ、完璧です!! とはいえ、レイアちゃんには若作りすぎると言われました」

 イセリアちゃん同様にガイウス皇帝陛下の渾身の思いが詰まったこの模型デザイン…はっきり言って女性であるこの私から見ても見惚れてしまうデザインだ。しかも、レイアちゃんと同じアルビノ!! これならば、母と名乗っても通じるであろう。

 アルビノという遺伝子疾患は遺伝しないのだが、インパクトを考えればコレが一番だ。

 まぁ、ガイウス皇帝陛下もゴリフリーテさん、ゴリフリーナさん、ミルアちゃん、イヤレスちゃんも私の事をレイアちゃんの母だと証言してくれると言っているから問題は無いでしょうけどね。

「なーに、問題ない!! しかし、流石レイアじゃ…ここまでの準備をこんな短い期間で全て整えるとは」

「えぇ、元々ギルドという胡散臭い組織は信用しておりませんでしたから、有事の際にいつでも行動出来るように常日頃準備を行っておりました。ただ、火葬される予定のレイアちゃんの擬態は少し勿体ないですが仕方がありません」

 あの日…レイアちゃんが強襲を受けた日の事は一生忘れない。

 心臓を抉られたレイアちゃん。本当ならば即死しても不思議では無かったが、『蟲』の魔法のおかげで一命を取り留めた。蟲の中には、心臓を持たずに筋肉を伸縮させる事で血流を常時動かしている者達もいる。レイアちゃんは、肉体の一部だけを変身させられるようになってから内蔵機能など一部を常時変身させている。コレによって、人としての弱点を克服しているのだ。

 とはいえ、心臓を抉られたのだ。死んでいないだけであってレイアちゃん自身は地獄の苦しみを味わったであろう。いかにレイアちゃんの治癒能力を以てしても心臓を抉られれば即座に回復は難しい。

 だから、そう言った万が一の事態にも対応できるようにレイアちゃんの肉体は脳を除いて全てスペアを瀬里奈ハイヴの機密区画で培養している。そして、その貴重な臓器を蛆蛞蝓ちゃんが体内に取り込んで運搬をしているのだ。いざという時に即座に対応できるようにと…。

モナァ(うううぅ、いかに偽物だとはいえ寸分狂わぬお父様が火葬されるなんて…いや~、私も一緒に焼かれる)

モキュー(蛆蛞蝓ちゃんがご乱心したわ。誰か止めてー。うぉぉぉ、なんてパワーだ)

 この葬式で火葬されるレイアちゃんの死体を予備パーツから作り上げた。しかも寸分狂わぬ形で再現させている。ギルドの目を欺くためとはいえ、ここまでしなければいけないとはね。

 まぁ、何処にギルドの監視の目があるか分からない。寧ろ見ていて貰わないと困る。端から見れば蟲達がレイアちゃんとの別れを悲しんでいるように見える。だからこそ、欺けるはずだ。

「蛆蛞蝓ちゃん、あまり困らせては駄目よ。よしよし」

モナァーー(瀬里奈様に慰められるとちょっと悲しい)

 むむ、そんな事を言う子には、この新しく開発した油性マジックもどきで額に肉と書いちゃいますよ。

「蛆蛞蝓ちゃん、ちょっと頭下げて…」

 さささささ

 額に肉と記してコレで完成。その名も肉蛞蝓ちゃん…あら、美味しそうなお名前。

モッモナ(いやぁぁぁ~、瀬里奈様が虐める)

ピッピ(プッ…に、にく蛞蝓ちゃん~)

 大丈夫よ。肉なんて漢字は誰も読めない。蟲達の中でも知能指数が極めて高い子だけが最近漢字を覚え始めた。だから、大丈夫よ…普通の人には模様にしか思われないだろうから。



 日本式で言うお通夜が始まってから、ぽつぽつと案内状を持った人がやってきた。

 『神聖エルモア帝国』の大貴族としては、あり得ないほどの小規模のお葬式…結婚式しかり、レイアちゃんの人間関係はいまいち広く無いらしい。まぁ、学校などの教育機関には通っていなかったので人脈が少ないのは仕方が無い事かしら。

 そう考えていると此方に歩いてくる二人の女性がいた。一人は見覚えがないが…ほとばしる女子力から察するにレイアちゃんが以前に話していたフローラ嬢で間違いないだろう。そして、その横にいるのはギルド受付嬢のマーガレットという名前だったはず。

 ギルドの者がよくここに顔を出せた者だと褒めてあげたい位だ。

 レイアちゃんがこの場にいれば、どんな人物なのかコッソリと聞けたのだが・・・生憎と別件で動いているので連絡は付かない。

ピー(左がフローラ嬢です。レイア様がネームレスで大変お世話になった方で我々蟲達から見ても大変素晴らしい女性です。右にいるのが戦争でセリナ様の擬態モデルとなっていたギルド受付嬢のマーガレット嬢になります。死神に相応しい厄を持つお方です)

「初めましてフローラと申します。セリナさんでよろしかったでしょうか?」

「はい。セリナ・アーネストと申します。フローラさんの事はレイアちゃんからよく伺っております。幼い頃から大変お世話になったとの事で本当にありがとうございます。訳あって私は、レイアちゃんと共にネームレスに行く事ができず、その節はご迷惑をお掛け致しました」

「そんな事はありません。お恥ずかしながら、レイア様には色々と助けて頂いておりまして…」

 そんな女同士の会話をしていると、その横にいるマーガレットという女性が何やら驚いている。「ちゃん付け!? あのレイア様を!?」と小声で言っている。

「フローラさん、大変失礼ですが…横におられるマーガレットさんはギルド受付嬢でしたよね。こう言ってはアレですが、ギルド関係の方はちょっと…」

「ご安心くださいセリナさん。先日、ギルドに退職届を出して今は無職です。それより!! セリナさんはレイア様とどういったご関係なんでしょうか? 見たところご年齢はレイア様と同じか…それより若い感じに見えます」

「マーガレット失礼でしょう!! すみません、うちの者が…」

 や、やっと、その質問をしてくれる人が来たああぁぁぁぁぁ!!

 今まで誰も聞いてくれなくてつまらなかったのよ。他の人達は、勘が良いのか…なんとなく察している様子だった。それとも誰かが突っ込むのを待っているのか。

 まったく~、早く聞いてよね!!

「いいえ、お気にせずに。改めまして自己紹介をさせていただきます。セリナ・アーネスト…レイアちゃんの母です」

「レイア様のお母様!? お、お幾つですか?」

ピー(本体はこの地下にあるんですけどね!! まぁ、母である事に間違いはありませんから、嘘じゃありませんが)

 レイアちゃんのお葬式で不謹慎だけど、楽しい!! そうよ、こういう反応を求めていたのよ。えーーと、レイアちゃんの年齢と出産可能年齢を考慮して…。

「今年で35になります」

 肉体年齢は10代後半になっているけど、嘘じゃ無いわよ。嘘じゃ!! 

「そうなんです、じゃ私と近いですね。あまり、お時間を取らせてしまうと申し訳ないのでまた後でお話致しましょうセリナさん」

「えぇ、レイアちゃんの昔話を聞かせて貰えると嬉しいはフローラさん」

 なにやら、マーガレットという女性が「あり得ないわ…そんな」とか口にしている。痛快で気持ちいいわ。愉悦!!

 二人が去って行った後に逞しい肉体をしたエルフと猫耳亜人が驚愕の顔をして立っていた。寧ろ、そんな顔されたら此方が驚きたくなる。どうしたのかしらね。

「お初にお目に掛かりますセリナさん。レイア様には生前色々とお世話になりましたゴリヴィエと申します。こちらは、タルトと申します」

ピッピー(エルフの方が、ゴリヴィエ様。ゴリフリーテ様とゴリフリーナ様の従姉妹に当たる方です。重度の筋肉マニアで色々と残念なお方です。横にいる猫耳の方がタルト様。お父様に命を救われた亜人です。なんでも下半身が緩い腐女子で、セリナ様のウ=ス異本を集めております。現在は、『筋肉教団』という宗教団体を設立してお二人が教祖と副教祖をやっております)

 だ、大丈夫よね亜人って!? 変態しかいないんじゃないの。

「ご丁寧にありがとうございます。レイアちゃんの母のセリナ・アーネストと申します。この度は遠いところからご足労頂きありがとうございます。お二人の事については、レイアちゃんから伺っております。何でも、『筋肉教団』の教祖と副教祖をされているとか」

「聞き間違いじゃなかった!! あ、あのレイア様をちゃん付け!! しかも、若!? 今年で35とか嘘でしょう!?」

 それにしてもゴリフリーナさんとゴリフリーテさんの従姉妹ね。言われてみれば似ているわね。主に筋肉が!!

 そして、猫耳亜人のタルトさんは…これぞ亜人というタイプだ。下半身が緩いなら…今度、ウ=ス異本に是非とも物理チョロインで出演させたいわ。

「そう言われましても、事実ですので………あの、タルトさん。いつも、私の本をご購入して頂きありがとうございます。また、サイン本をお送り致しますね」

「……えっ!? アイエーーー!! ナンデェェェ!! ぐほ」

 ゴリヴィエさんの肘鉄がタルトさんの腹部に直撃した。タルトさんは、くの字になり悶絶している。そして、ゴリヴィエさんに首根っこを捕まれて連行されていく。

「副教祖タルト…ここを何処だと思っているんですか!? そんな大声で恥という物を知りなさい。レイア様のお母様、たびたびうちの駄目猫が失礼致しました。このお詫びは後日必ず」

 面白いわねあの子。打てば響くタイプか。

………
……


 それからは、ぽつぽつと人が来た。なんでも、蟲カフェというレイアちゃんが個人経営していたお店の常連達らしい。蟲カフェ…そんな面白い企画をやっていたなんて、お母さんも誘って欲しかったわ。

 これでも、昔はウェイトレスのアルバイトをしていた時期もあるのよ!! 接客は任せなさい。

 キュピーーン

 むむ!!

 なにやら高貴な気配を感じると思えば、ミルアちゃんとイヤレスちゃんの受付の目の前に見るからに王族!! って感じのオーラを放つ美丈夫と美女がいる。なるほど、あの二人からミルアちゃんとイヤレスちゃんが産まれてくるなら納得だわ。遺伝子がしっかりと仕事をしている。

 受付を終えて此方に歩いてきたので一礼をした。

「初めましてレイアちゃんの母のセリナ・アーネストと言います」

「初めまして、ゴリフリーテとゴリフリーナの父親のミカエル・ダグラス・ヴァーミリオンと申す。この度は、なんと言えばいいか…お悔やみ申し上げます」

「母のゴリフリーザ・クリスト・ヴァーミリオンです。一人息子をお亡くしになられたの事で、大変お辛いでしょう。何かお力になれる事があれば何でも言ってくださいね」

 ほ、本気でお悔やみを頂くと心が痛い。早く、夜の親族だけの集まりになって色々と事情を説明したい。助けてゴリフリーテさん、ゴリフリーナさん!!

「お心遣いありがとうございます。結婚式に参加出来ず…今まで顔合わせも出来なかったのでまた後ほどお話致しましょう」

「えぇ、喜んで」

 ゴリフリーザさん…きっと、後何回も変身を残しているのだろう。女子力がまだ上がると思うと恐ろしい。

「お父様、お母様…」

「ゴリフリーナか…辛かったであろう。泣いても構わんのだぞ」

「いいえ、このゴリフリーナ。まだ、やることが残っております。それが片付くまでは泣きませぬ」

 ゴリフリーナさんに釣れられてお二人が移動した。

 なんとかなりそうね。レイアちゃんの方はうまくいったからしら…順調にいけば本日の日中には帝都に戻ってくるはず。



 予想通りというか、やはり『聖クライム教団』は負けたか。

 無理も無い。『蟲』だけでも手を焼くのに、『聖』まで参戦しては勝負は火を見るより明らかだ。それすら分からない程、落ちぶれている教祖など見るに耐えん。だが、そんな事よりも問題のは、蟲達じゃな。

もきゅーもきゅー

「よしよし、大丈夫じゃよ…『蟲』の使い手が簡単に死ぬわけがないだろう」

 『蟲』の使い手から譲渡された蟲達が、生みの親である『蟲』の使い手の死亡の知らせを耳にして泣いておる。おかげで、グラシア殿との旅も一時中断して明日帝都で予定されている『蟲』の使い手の葬式に参列する為に蟲車を『神聖エルモア帝国』目指して走らせている。

 それにしても、今頃になってクロッセル・エグザエルが現れるとは間違いなくギルドが一枚絡んでいるだろう。

 グラシア殿に抱きついて泣く絹毛虫達に一言だけ言いたい事がある。

 代われ!!

「よしよし、ほら泣かないのアイスちゃん。可愛いお顔が台無しよ」

 この気配は。

………
……


「グラシア殿少し外に…蟲車の中でお待ちを」

 蟲車を止めさせて、グラシア殿を残して外に出た。夜に訪問する場合は事前にアポイントメントを取るべきでは無いのだろうか。

 少し離れた場所の切り株に腰を掛けている。アルビノの男に声を掛けた。

「その距離は既に儂の射程距離だが…」

「知っている。此方の誠意を見せる為にわざとこの距離にいる」

 まぁ、良しとしよう。

「こちらの位置が特定されたと言うことは…ガイウスの神器プロメテウスを使ったな」

 我が主であるグラシア殿に対してあのような神器を使用する事など許しがたい所行だ。本来であれば、即座に葬ってやるのだが…今の生活を提供した者であるから、一度限り許してやろう。

「その件については、完全に此方に非がある。可能な限りの償いはさせて貰う」

「まぁ、よい。で、死んだはずの人間が今更何のようじゃ?」

 行方不明扱いと死亡扱いでは、似ているようでその扱いは非常に違う。しかも、国家から死亡認定されたとあれば人権がないのと同じだ。どのような扱いをしようとも誰も咎める者はいない。この世に存在していない人として扱われるのだ。

 死亡認定は取り消せない。失った地位や権力は戻らないのだぞ。まぁ、興味はないだろうがな。

「『闇』の魔法の使い手グリンドール・エルファシルの力を借りたい」

「儂は今幸せの絶頂なんじゃよ。それなのに、わざわざ厄介ごとに関わるなどごめんこうむりたいの」

 恐らくはギルドへの復讐を計画しているのだろうが…手を貸す義理はない。蟲達譲渡の対価は神器テミスで支払っている。それに、ギルドに関わってグラシア殿に万が一の事などあってはならんのだ。

「こちらが用意できる報酬を聞いてからにして欲しい」

「いいだろう。何が用意できるか言ってみると言い」

 『蟲』の使い手の事だ。金銀財宝など下らない報酬では無いのだろう。

「失礼を承知で言うが…グラシア殿と『闇』の使い手は高齢だ。二人の間に子供が出来る事はまず不可能であろう。だが、私の蛆蛞蝓ちゃんならばその願いを叶えられる!! 一般的には知られていない技術だが…コレを読んで貰えれば納得してもらえるはずだ」

 100頁はありそうな分厚い本を蟲が此方に持ってきた。書物のタイトルは、『体外受精とクローンについて』と『脳移植と若返りについて』書かれている。聞き覚えの無い単語だ。

「普通なら下らんと切り捨てるのだが…儂はこう見えて『蟲』の使い手の事を高く評価している。一時間ほど待て、中身を読んだ上で不明点を纏める。話はそれからだ」

 儂とグラシア殿との子供…望んだ事が無いわけでは無い。だが、お互いの立場や年齢などから既に諦めていた。そして、今やこの年齢だ。だが、その願望が叶うチャンスが来たか。

 『蟲』の使い手が嘘を使って儂に取引を持ちかけてくるなど思ってはいない。だが、聞いた事もない技術を信用する事はできない。

 当然、最終判断はグラシア殿と相談を行ってからになるが、前向きに検討しよう。

公的行方不明扱・・・・・・・いの『闇』の使い手。色よい返事を期待している。希望するならば、若返りも無償で行おう。当然、何度でも希望するだけ対応させてもらおう」

公的死亡扱・・・・いの『蟲』の使い手。それは、グラシア殿の判断次第だ」

 モッキュウーーーー

 生みの親の気配を察したのか、蟲車の中に居た絹毛虫達が一斉に飛び出して『蟲』の使い手に飛びついていった。

「あらあら、みんな行っちゃたわね。おばあちゃん寂しいわ」

 グラシア殿が窓から顔をだして此方を見た。
 
************************************************
予想されていた方も多かったようですが…レイアの生命力はG並ですぜ!!

あとがきで記載しておりました「死亡確認」という言葉は、ある有名な漫画の名言です。その判定をされてるとほぼ復活して登場する!! 全く、何を確認しているんでしょうね。

と言うわけで、ギルド死すべし!!
 
定期更新…と、途切れたらごめんなさい(ボソ
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