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第二十五章

第百七話:苦しみの向こう(3)

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◆一つ目:タルト
◆二つ目:ゴリヴィエ
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 毎朝、目が覚めては『筋肉教団』なんて夢だったのではないかと思わずにはいられない。

 ゴリヴィエ様が中心となって立ち上げた組織で、たまたま居合わせたに過ぎないこの私が・・・今ではその組織のNo.2になり冒険者時代とは比較にならない程のよい暮らしを送っている。レイア様の様な高ランク冒険者と変わらない贅沢な生活だ。尤も、人に使われる立場ではなく、人を使う立場になった事で責任は青天井になった。

 本来であればギルドの下請けとして、粛々と非営利活動に努めている予定だったのだが・・・レイア様が亡くなってから、2週間程度で世界の状況が一変した。南方諸国連盟での大災害に加え、ギルドの大規模な犯罪が暴露された。もはや、ギルドという存在が成り立たない状況にまで追い込まれている。

 母国である『ウルオール』では、議会が満場一致で南方諸国連盟・・・要するにギルドに対して全面戦争を行う事が決定した。それに対して、周辺諸国も便乗して南方諸国連盟に対して宣戦布告。

 おかげで、他国に先駆けて『ウルオール』ではギルドという存在の信頼が地に落ちてしまった。ギルドは、腐っても大組織であった為、所属している者達が路頭に迷い、犯罪に走られては目も当てられない。

 そこでギルドに変わる存在として『筋肉教団』が筆頭にあげられた。

 『ウルオール』の王族であるミルア様とイヤレス様が特別顧問として在籍しており、信頼も信用も抜群。更に、治癒薬に変わりペニシリンという新薬を『ウルオール』王家から委託されて『筋肉教団』が販売する事になり市民への好感度も抜群。

 おかげで、来年度の学習機関の教科書には顔入りでゴリヴィエ様と私が掲載さえる事が確定した。他にも、先日『ウルオール』で最も平和に貢献した者として王家から直々に表彰されてしまった。町を歩けば人から感謝され、サインをねだられて・・・なんとか笑顔で対応できたが内心は胃に穴が開きそうだ。

「副教祖タルト。大口の依頼が二つあります。・・・一つは、『ウルオール』王家から『筋肉教団』に対してギルドを打倒の先兵となり敵を殲滅せよとの依頼です」

「あ、あの~教祖ゴリヴィエ様・・・。非営利組織なのに戦争に参加してもよいのですか?」

「問題ありません。『ウルオール』からの依頼料は、99.99%・・・要するに事務手続き代を除きほぼすべて労働者に還元しています。だから、非営利組織として十分に機能している。ギルドのように3割もピンハネするような組織ではありません」

「・・・あれ、それだと? 私の給料は、どこから出るんでしょうか」

「自分で稼ぐに決まっているでしょう。労働者として戦争に参加すれば、労働に応じた報償が分配されます」

「いやいや、先月までちゃんと支給されていたじゃありませんか。毎日どれだけの書類にサインを書いていたと思っているんですか!! それに、事務手続き代が0.01%ってそんな金額で働いてくれる人いないんじゃありませんか!? それに、労働者と副教祖の仕事を両立させるなんて無理ですよ」

「あぁ、あのお金ですか。それは、私のポケットマネーですよ。後、副教祖タルトが気にしている事務処理についてですが、とある筋の方からご厚意で非常に優れた者を大量にご紹介していただけました。しかも、お給料は本当に最低限でよいそうです。さぁ、入っていらっしゃい」

 お金の事はとりあえず置いておいて、ゴリヴィエ様が招き入れた者達が私の執務室の中にはいってきた。その者達を見た瞬間、言葉を失った。この部屋に入ってきた者達は三名・・・そのどれもがS氏が出版しているウ=ス異本に登場する男の娘だったのだ。

「は、初めましてタルト様。本日から、おはようからおやすみまで付きっ切りでサポートいたします」

「こんにゅ・・・こんにちは」

「モキュー!! じゃなかった。よろしくお願いしまーーす」

 全員が女物の服をきて恥じらいながら挨拶してくるので思わず鼻血が出そうになった。

 だが、よーーーく見ると頭部にある『蝶の髪飾り』や首に巻いてある『フサフサの白いマフラー』や右目の中に『蜂のオブジェクト』があったりするのはご愛敬だろう。絶世の美少年の前ではその程度些細な問題だ。

「副教祖タルトが執務を蔑ろにするならば、秘書はいりませんね。残念ですが、この子達には別の仕事を・・・」

「お、お待ちください!! 教祖ゴリヴィエ様!! 『筋肉教団』の執務はこのタルトにお任せください!! ですから、そのためにも秘書を是非つけてください」

「そこまで言うのでしたら、この3名を秘書としてつけましょう」

 おっしゃーーーー!!

 灰色の人生が一気にバラ色に変わった瞬間だ。どこの誰の配慮かは言わずとも何となく察する事ができた。

 『筋肉教団』の副教祖として仕事をしていると、いろいろと情報が回ってくるのだ。その中に、レイア様の生存についての報告書もあった。

 亜人として嗅覚が優れているため、レイア様のお葬式で火葬されたご遺体は間違いなく本物であったと言い切れる。だが、凡人では理解できない領域にいるレイア様の事だから骨から生き返ってきても驚きはしない。だから、生存報告は、誤報と思っていない・・・やっぱり生きていたんだと思っている。

 ちょっと、試しに・・・。

「あ、あんなところにレイア様が!!」

「「「お父様!! どこど・・・はっ!?」」」

 全員が一斉にきょろきょろする仕草が可愛くてたまらない!! この子達と一緒にお仕事、さらには衣食住もともにする事になると思うとにやけずにはいられない。

 いや~、いろいろあったけどレイア様側について正解だったわ。

「では、副教祖タルト。これからの執務に励むように・・・後、『神聖エルモア帝国』からの依頼は任せましたよ」

「もちろんです!! 副教祖タルト、身を粉にして働きます」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

 見渡す限るの人!! いったい何人いるのだろうかと思えるほどだ。

 『筋肉教団』が受けたもう一つの大口依頼は、『神聖エルモア帝国』に向かってくる難民の対策であった。どこからの難民かと言えば、南方諸国連盟だ。国内が荒れて、各国が宣戦布告した事から戦火を避けようと大国・・・主に『神聖エルモア帝国』に身を寄せようとする難民が大量に発生した。

 『神聖エルモア帝国』は、経済面、治安面においても非常に優れており統治者であったガイウス皇帝陛下の能力の高さがはっきりとわかる。当然、統治者が優れていても民あっての国であるから、民の民度が高くなくてはそれもかなわない。

「タルトお姉ちゃん~、みんなは位置についたよ」

 きゃーー、可愛いわね。お姉さんが後でご褒美あげちゃう!!

 私の可愛い秘書二号のオルハ・ヴォルドーちゃん!! 本体は、頭部の髪飾りに偽装している幻想蝶というレイア様の蟲。S氏・・・いいや、もうセリナ・アーネスト・ヴォルドー様から頂いた取扱説明書には、こう書かれていた。

 蟲ファイバーを用いた有線接続をしているので取り外し自由!?

 別の蟲を繋げる事で見た目はそのままで性格が変わる!?

 『筋肉教団』のお仕事をして貰える筋肉ポイントが貯まると、オプション追加や更にハイスペックな蟲系亜人にバージョンアップも!?

 他にも色々あったが、理解が及ばない程だ。凄すぎて何が凄いがわからない程に。これが、特別な属性と呼ばれる『蟲』の魔法の真骨頂なのだと理解した。・・・これひょっとしたら、全人類がレイア様の手に落ちる日も近いのではないかと思ってしまう。

 まぁ、そうなったとしても問題ない!! レイア様ほど公平な人はいませんから、きっと管理された素敵な社会になるに違いない。現に、私はいま幸せになったから!!

「では、さくっと終わらせて一緒にお風呂に入りましょうね」

 私の幸せを守るため!! その為には、ヴォルドー領がある『神聖エルモア帝国』を守る必要がある。その為ならば、鬼にも悪魔にもなってみせる。

 国境に押し寄せてくる難民全てに対処する事は、現状の『筋肉教団』の総力を以てしても難しい。特に今回は半数近くの人材は、ゴリヴィエ様と一緒にギルド打倒の先兵として戦場に向かったのだ。敵兵の首一人一人に筋肉ポイントが掛けられており、非常に人気が高い依頼になった。

 その為、此方にいる者達は高ランクの者は殆どいない。だけど、セリナ・アーネスト・ヴォルドー様のご配慮でステイシス2000体という過剰戦力がここに配備された。その命令権は私に委ねられている状態だ。

「はーーい!! じゃあ、お風呂も沸かして来ちゃうね」

………
……


 国境近くに来てみれば、都合の良い罵声の嵐だ。

「俺達は、戦火から逃れるために来たんだ!! 早く、国内に入れてくれ!!」

「お願いですから、子供に食事を…」

 元はと言えば、南方諸国が仕掛けてきた事だ。無論、民に罪があるかと言われれば微妙だが…この際、そんな事は関係ない。大事なのは、この者達を受け容れる事で発生する国内の不満だ。

「副教祖タルト様…これ以上、難民達を押しとどめるのは限界です」

 今回連れてきた、私の副官が現状を教えてた。難民達には、こちらが引いた絶対ラインを越えた場合には無条件で処理すると伝えている。無論、最初は信じていなかったので百名近い死者を出す結果になった。

 当然、こちらも鬼では無いので難民の中でも『神聖エルモア帝国』に有用な人材は招き入れる準備が出来ている。その基準も全て秘書達が作ってくれた。条件は単純明快、【「読み書き」と「四則演算」が出来る事】か【ステイシスに致命傷を与える事が出来る事】のどちらかを満たせば良い。当然、その大前提で当面の生活費を所持している事だ。

 後、食料についても無償提供では無いが有償で販売している。ヴォルドー領がギルドに卸している価格と同じお値段という非常に優しい価格設定だ。しかし、難民達への販売用に用意した物資だというのに一部の商品が我々教団員によって馬鹿みたいに買い占められて品切れ状態だ。なんでも、某双子の残り湯を詰めた物だとか…。

「そうですか。で、難民認定を受けた者達は何名いました?」

「850名です。その内30名ほどがステイシスに致命傷を与えました」

「上々です。では、武力に優れた者達には、筋肉教団に所属して難民対策をするか提案をしてください。報酬は、規定通りの額で」

「畏まりました」

 秘書達の見立てでは、難民達の空腹も限界に近いだろうとの事で本日の午後には一斉にラインを超えてくると予想している。2000体中1995体のステイシスが地下で今か今かと食事を待っていることも知らずに…。

 どんなに大勢で押し切ろうとしても不可能だという現実を知ることになるだろう。その不可能を可能にする可能性があった高ランク冒険者は此方に引き入れた。後は、消化試合だ。

 レイア様!! 見ていてください!! このタルトを!! だから、筋肉ポイントお願いしますね!! 

「私の平和を守るために礎になってね」




 戦場で空気が張り詰めている感覚は、よく知っているがこれほど張り詰めた状況は初めてかしら。ゴリフリーテ様とゴリフリーナ様から漏れ出す魔力と殺気で一般兵達の顔が青ざめている。この私も身震いしてしまいそうだ。

「落ち着いてくださいお二人とも…開戦まで後30分を切りました」

「えぇ、落ち着いていますわよ。今だって、どれだけ早く片付けて家に帰るかしか考えていませんもの」

「ゴリフリーナ…開戦と同時に全力で上空に投げるわ。そのまま本陣に先行しなさい。私は、地上を平地してから追いかけるわ」

ギェギ

 普通なら冗談に聞こえるが、それを実現出来るお二人である。確かに、この度の戦争は、ギルドの大規模な犯罪が引き金だったとは言えお二人がソコまで焦るのは何故なのだろうか。

 恐らく、隠れて生きているであろうレイア様関係の事であろう。何処で何をしているか分かりませんが、個人的な予想では近くにいそうな気がしている。レイア様もお二人を非常に大事に思われていますからね。

 それとも、レイア様の母君であるセリナ・アーネスト・ヴォルドー様が領地に残られているらしいので、それ事を案じているのだろうか。いいや、領地に残るのが危険ならばお二人がこの場に連れてこないはずが無い。お二人の側こそ、この世で一番安全な場所だ。

「教祖ゴリヴィエ様、我々の準備は整いました。開戦と同時に仕掛けられますが…いかが致しましょう」

「ゴリフリーテ様とゴリフリーナ様の邪魔になってはいけません、一呼吸置いてから動きます。後、お二人の側にいる蟻は味方…だと思いますので、くれぐれも攻撃を当てないように」

 この私もあの蟻については、味方であると思うとしか意見がいえない。お二人からご紹介がないのだから。レイア様の蟲だったならば全身の色素が抜けてアルビノのはずだが、それに該当しない。それに、見たこと無いモンスターだ…迷宮には生存していない希少個体なのであろう。

 どちらにせよ、普通のモンスターで無い事は明らかだ。

 見ただけで分かるが…この私でも勝てないであろうオーラを放っている。ゴリフリーテ様とゴリフリーナ様を除けばこの戦場にいる最強の筆頭候補になるであろう。それに、素晴らしい意匠を凝らした武装は、どことなく見覚えがある…デザイン性から察するにガイウス皇帝陛下の鎧やミルア様やイヤレス様が身につけている装備にも類似点が見られる。それだけの情報でも間違いなくレイア様関係であろうと疑う余地は無い。

「『筋肉教団』の皆に連絡しておきなさい。後の憂いを残さないように、しっかりと働くように。情け無用!! 必要なのは成果だけ」

「ご安心ください教祖ゴリヴィエ様。我ら教団員…全員、死すら厭わぬ覚悟があります!! 」

 規定の報酬とは別に、敵兵一人あたり1筋肉ポイントが支給される事になっている完全な歩合制。1000ポイント溜まると一年間秘書が一人付く特典付きだ。タルトが皆に自慢するかのように連れ回したおかげで、秘書の宣伝効果は抜群だったようだ。

 『ウルオール』だけでなく、世界各国で未婚の高ランク冒険者が多く、色々と問題になっていたけど、これで解決するめどが立ったわ。他にも問題となっていた老人問題にも大きく貢献する事になっている。セリナ様が企画されている可愛いお孫さん付き有料老人ホームの建設に筋肉教団も絡ませて頂いているのだ。

 本当に世の中がどんどん良い方向に回っている。

 だからこそ、これほどまでの人が集まったのだろう。隠居した高ランク冒険者達までこぞって筋肉教団に入団してきた。一線を退いたとは言え、蓄えられている経験は一目置くに値する。そういった百戦錬磨の者達をチームリーダーに据えた少数部隊を大量に用意できた。

 この戦争を機に新しい時代の幕開けとなるでしょう。
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投稿が不定期に戻ってしまい申し訳ありません。
色々とどうしようかなと思いつつ、休み休み執筆しているとどうにも><

さて、作者も筋肉教団に入団してポイント集めてこようかな。

次は、レイア側のお話になります@@
さて、いよいよ大詰めになってくるかも・・・?
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