愛すべき『蟲』と迷宮での日常

熟練紳士

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第二十六章

第百十九話:鎮魂歌(9)

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◆一つ目:キース・グェンダル
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 案の定、35層に居た冒険者はキース・グェンダルの手駒だった。おかげで、非常にありがたい情報を得る事が出来た。敵陣営がある50層までの最短ルートを吸い出す事に成功した。他にも、保有戦力や物資など知りうる情報全てを抽出した。

 そんな情報の中で一番驚いたのが、この私が単独で『ネムロ遺跡』に乗り込んできていると思い違いをしている事だ。いつどこにギルドの汚い罠があるか分からない以上、用意出来る最高の戦力で出向くのは当然だというのにね。

「さて、我々の目的地は眼の前だが・・・どうやら、ばれていたようだね」

 どこかの階層の出入り口を見張られていたのだろう。50層の敵本拠地では、大勢が私達を出迎える準備をしてくれている。こんな僻地だというのにご苦労な事だ。

「冒険者、モンスター・・・それと例の子供達ですか。全く、愚かな考えですね」

「その通りですね。戦時中であり、敵兵に大人も子供もありませんわ」

 あぁ、その通りだゴリフターズ。
 
 子供であろうと立派な戦力である。子供だからと言う理由で情けなどかけるような馬鹿者などいたら顔を見てみたい。この世の中、そんなに甘くはないんだよ。どのような理由があるにせよ、我々の前に立ちはだかるのならば老若男女全て始末するのみ。

 では、進軍するとしよう。我々三名・・・だが最強の三人だ!!

 監獄と呼ぶにふさわしい作りをしているギルドの秘匿施設。このご時世で完全な鉄製の建物などをお目にかかれるとは思わなかった。尤も私の実家は、その遙か上をいくがな。

 目標の施設まで約300m程だ。お互いに視認できる距離にまで十分到達しているのだが、一向に逃げ出す気配が無い。この私の左右に居る巨躯なエルフが誰なのか知らない程、無知ではあるまい。いかに、瀬里奈産の強化外骨格を着込んでいるとは言え・・・特徴的な体格に加え、その手に持つ史上最高クラスの大きさを誇るオリハルコン製武器を持っているのだ。

 向こう側の射程距離は150mと言ったところだな。『風』の魔法が滞留しているので、間違いないだろう。150mと言えば、一流の高ランク冒険者である事は間違いないのだが・・・ジュラルドの射程の半分にも及ばないのだよ。

「風下にならないように、『風』の魔法で守っているか・・・この私の毒で死ねたら楽であっただろうにね」

 ちなみに、こちらの射程距離は風上に限定すればこの私の射程は1kmを超える。ゴリフターズも同様だ。ゴリフターズの場合は、魔法と物理攻撃の併用という方法だがね。

ジャラジャラジャラ

 ゴリフターズの鎧の一部が開き、中からミスリル製のパチンコ玉がぼろぼろ零れ始めた。ソレを私が拾い上げる。何をするかと言えば、簡単だ・・・ゴリフターズによるバッティング練習だ。このミスリル玉を『聖』の魔法で包み込む事で劇的な貫通力を持つ更に、エルフ最強と言われるゴリフターズのパワーで打ち出される玉は音速を超えるのだ。それを、こちらの玉がつきるまで避け続けられたり、受け止められる者がいたなら褒めてやろう。

 ゴリフターズがそれぞれ己の武器を構えた。その構えは、一本足打法そのものだ。

「旦那様、いつでもどうぞ」

「あんな施設など、直ぐに蜂の巣にしてみせます」

 蜂の巣で済めば良いけどね・・・下手したらこれで勝負が決まる。いかなるトラップがあってもその効果範囲外から攻める事で無力化出来るのだよ。玉を持ち二人に打ち出そうとして貰った瞬間、敵陣営で白い何かが見えた。

 パタパタパタ

 何名かの者が我々にしか見えないように小さな白旗を振っている。そして、口パクで『降伏する』と言っているのが分かる。戦場で白旗を振る相手を始末するのは条約違反だ。規則を厳守であるこの私ならば守るであろう。

 だがな!!

 それは、戦場での話だ。おまけで言えば、私は公的に死亡しているのだよ。あらゆる権利を放棄しているのだから、義務を守る必要は無いのだよ。

「それに、ギルドがいつも言っているだろう。迷宮でのいざこざは自己責任だと。記念すべき一発目だ。盛大にぶちかませ」

 左右にそれぞれ15発ほどの玉を持ち、一本足打法でミスリル玉を待つ二人に放り投げた。二人もギルドに対しては、思うところがあるだろう。長年の恨みを込めてスイングをしなさい。

「旦那様と祖国の『ウルオール』にした数々の行い。その身をもって償いなさい!!」

「私達の安寧の日々のため、砕け散りなさい!!」

 ガキィィーーーーーン

 金属と金属がぶつかる音と二人の豪腕により発生した爆風で辺りの物が吹き飛んでいった。



 『蟲』の使い手を発見した報告を受けて、怒りで我を忘れそうになった。

 ふざけるな!! 『蟲』の使い手は、それでも男なのか!! なんで、わざわざ最前線にいる『聖』の双子まで連れてきている!! 普通は、男らしく一人で来るものだろうがと文句を言わずにはいられなかった。

 なぜ、『蟲』の使い手はこちらの斜め上をいく。

 確かに、身の安全を確保するならば『聖』の双子を連れてくる事が理想であろう。しかし、恥も外聞も無く女の力に頼るなど男としてどうなのだ。

 だが、迫り来る脅威に無抵抗でやられる程、この私も落ちぶれていないぞ。その為には、この施設の地下にある扉の解錠が急務だ。現在、5つある施錠の4つめを解除しているが、骨が折れる。厳重に保管しすぎた感が否めないが・・・仕方があるまい。万が一の事を考えれば、これでも危ないと思える程だ。

「アレの形状は、変わってないのだな」

「はい。しかし、『蟲』の使い手だけならまだしも『聖』の双子までいては・・・流石に」

 分かっている。

 だが、化け物に対抗するには、ぶつけるしかないのだ。クロッセル・エグザエルが捕らえたランクAのモンスター・・・ドッペルゲンガーと言われている存在をな!! クロッセル・エグザエル本人に聞いた話では、形状が無い流体の様な存在だったがクロッセル・エグザエル自身を模倣してきたそうだ。自身と同等の能力を持つモンスターを捕らえるなど流石はランクAと言わざるを得ない。

 そして、ありがたい事に模倣したクロッセル・エグザエル本人が故人となった今でもその姿は変わらずクロッセル・エグザエルのままだ。

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

 ズドドドドドドーーーン

 建物自体を揺るがすほどの衝撃と崩落音が聞こえた・・・どうやら、地上で戦闘が始まったか。まともな戦闘になれば、マシな方だが・・・高望みであろうな。少しでも時間稼ぎが出来ればと思い、持たせられる最高の装備と子供という肉壁を提供したが、難しそうだな。

「・・・キース様、大変状況がよろしくありません」

「何を言っている。早く残りも解錠しろ」

 扉を確認したところ既に、5つとも解錠されて扉が開いている。ならば、ドッペルゲンガーの拘束具の役目も兼任しているその身にち込ませた支柱を取り外すだけだ。

「地上に放棄してから、外す予定でしたが・・・今の一撃で支柱が砕かれました」
 
  エリアの背後にある壁に穴が開いていた。そこから外の光が入り込んできている。大きさは、さほど大きくはないが何かが貫通したと思われる穴だ。一体、この地下にどうやってと考えてる暇などない!!

「がああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 バリンバリンバリン

 手足の拘束具を引くちぎった音が聞こえた。地上に戻るまでの時間・・・軽く見ても1分は掛かるだろう。ドッペルゲンガーの身体能力ならば、追いつかれることは間違いない。

「エリア・・・お前は、ここで死ね」

「-かしこまりましたキース様。ご武運を」

 僅かならば時間稼ぎになるだろう。先ほどまで拘束されていたドッペルゲンガーだ・・・万全の状態ではあるまい。

 本家本元には及ばないにしてもランクAの模造品だ。相手は、『蟲』の使い手と『聖』の双子だ・・・この際、誰か一人を道連れなど贅沢は言わない。障害が残る程の重傷を与えられればそれでよい!! 

 この私からの最後の贈り物だ。




 ゴリフターズによる超貫通力誇る長距離散弾となったミスリル玉がガンガン敵拠点にぶち込まれていく。一発当たれば人が消し飛ぶ威力だ。運よく玉が当たらなかった者達も何度も打ち込まれるこの攻撃をやり過ごす事は不可能だろう。

 そのお陰で、人間もモンスターもまるでボロぞうきんのように粉々になっていく。若干、的をそれてあさっての方向に飛んで行く玉もあるが、ゴリフターズのバッティングの腕前はプロ顔負けだ。

「はーーい、これでラストーー」

 ガキーーーーン

 300発を超える玉を使い切り、眼前にあった秘匿施設は最早廃墟へと変わっている。この場所にこれだけの規模の施設を作るのにどれだけのお金をつぎ込んだか知らないが・・・ご苦労な事だ。

「ふぅ~、良い運動になりましたわ。しかし、旦那様の戦い方は私達とは根本が異なりますね」

「えぇ、射程範囲外からの殲滅戦・・・実に利に叶っております。正面切って殴り合いでは、兵の消耗も凄まじいですからね」

 そうだよね。軍属の者は死亡したら見舞金とか出さないと行けないし、遺族年金も大変だもんね。だから、ヴォルドー領では私と蟲達がいつもメインで戦争に出向いてた。

「見ていたところ・・・キース・グェンダルは表には出てなかった。となれば、あの廃墟の中で朽ち果てているか。それとも、更に下層へと逃げたか。どちらだと思う?」

 個人的な予想では前者だと思っている。理由は、簡単だ。キース・グェンダルの力量ではこの階層付近のモンスター相手に立ち回るのは辛いはずだ。一度や二度ならばなんとかなるかも知れないが・・・生憎と迷宮は、モンスターが自動ポップアップするのだ。終わりの無い戦いで疲弊するのは目に見えている。

「・・・どちらでもありません。なぜなら、廃墟の上に立つ者がおります」

「見間違うことはありませんね。あれは、キース・グェンダル。まだ、生きていたとは運がいいのやら悪いのやら」

 全くその通りだと思うよ。あの散弾を生き抜いたのは、素晴らしく運が良いと思う。だって、地上に居た連中はみんな死んだのだからね。まぁ、建物の中に生き残りはいるかも知れないが、私の毒責めとゴリフターズの『聖』の魔法が控えているのだ。どのみち生きて返す予定はない。

「聞こえているな『蟲』の使い手と『聖』の双子・・・この私からの最後のプレゼントを送ろう」

「命でも差し出して貰えるんですかね。まぁ、差し出してこなくても奪いに行きますけどね」

 それにしても、隠れていればもう少しは長生きできたのに万策尽きたと言うことか。

 一応、警戒しておく必要はあるな。最後のプレゼントと言った・・・万が一、本当に最後の切り札が存在するとした場合には、何かしらアクションがあると見て間違いない。

 だが、我々三名相手に対等以上にやり合える人材など私には一人しか心当たりが無い。その人物である『闇』の使い手は、私の実家でグラシア殿とコタツムリちゃんと一緒に蜜柑を食しているころだ。今頃になってギルド側につくような人物では無い。

 ならば、ランクAに片足を突っ込んでいると言われるキチガイの者達にも数名心当たりはあるが・・・それでも無いだろう。崩壊寸前のギルドに荷担して何になるというのだ。

 キュピーーン

 蟲の知らせがした。私の第六感とも言える頼りになる勘だ。なぜ、このタイミングでそんな知らせが届くのだ。既に袋のネズミと化したキース・グェンダルを殺しに行くだけだというのに。

「旦那様、なにやら嫌な予感が致します」

「ゴリフリーナも感じましたか、私も同じです」

 やはりか。一番楽で確実な選択肢は、今から『ネムロ遺跡』を全力で引き返すという選択肢だ。キース・グェンダルがどのような罠を仕掛けていようが、発動する前にこの場を去れば良いのだ。

「力の温存をさせる為のバッティングだったのだが・・・仕方ない。ゴリフリーテ、ゴリフリーナ。敵拠点を分解した後に撤収する」

 全力で攻撃すれば山すら半壊させられるゴリフターズの攻撃だ。その攻撃で死ねるのだから光栄に思うと良い。

 ドーーーン

 ゴリフターズが私の指示で粉砕するための貯めに入る前に、キース・グェンダルの真下の地面から何かが飛び出してきた。地上に打ち上げられた土の量や規模、高さなどを考えるに強いと確信できる。

「はっはっはっはっは!! 見るが良い『蟲』の使い手、『聖』の双子!! これが私の最後の切り札だぁぁぁぁぁ」

 砂埃こそ晴れないので誰なのかハッキリとはしないが・・・我々三名を相手に勝てる者では無い。私一人ならば、負けていたかも知れないがな。

 さぁ、どこの誰だかしらないがその面を拝ませて貰おうか。

 徐々にその容貌が明らかになっていった。片手には、元は人間だった思われる肉塊をつつかんでいる。だが、そんなことよりも驚くべき事があった。

「確かに、死んだはず。偽物・・・でもないな。それに、若干若い」

 誰かと思いきや、現れたのが先日殺したはずのクロッセル・エグザエルなのだ。偽物だと思ったのだが、全身から発せられる威圧感が本物だという事を暗に示している。

 ・・・・・・・・・後、どうでもいいが服をきろ!! なんで、全裸なんだよ。強敵を目の前にして、目を離すことが出来ないゴリフターズへの嫌がらせなのか。もし、そうだとするならば、キース・グェンダルの策略に敬意を抱くよ。実にくだらないアイディが最高の威力を発揮するのだからね。

「どうだ驚いただろう。以前にクロッセル・エグザエルが捕獲した迷宮の主だ。ドッペルゲンガーと呼ばれるモンスターだ」

 ド、ドッペルゲンガーだと!?

 それに、迷宮の主を捕獲とか狂気の沙汰だな。ドッペルゲンガーという名前をしたモンスターが私の推察通りの能力を有していたとしたら・・・それを捕獲するなどどうやったのかと言いたくなる。己と待ったく同じスペックなんだぞ。戦いながら成長したとでもいうのだろうかね。

「ゴリフリーテ、ゴリフリーナ気をつけろ。アレは、クロッセル・エグザエルのクローンみたいなものだ。最悪なことに身体能力まで完全にコピーされていると思ってくれ」

 ゴリフターズに注意を促したはずなのに、なぜか二人はうれしそうである。

「それは僥倖!! 例え、あの時のクロッセル・エグザエルでは無いにしても私達の愛する旦那様に対して闇討ちをしたお礼が出来るのですから」

「私達があの時に味わった絶望感、無力感。それを晴らす機会が訪れるとは、神に感謝せねばいけませんね」

 確かに、あの時と異なり体力魔力ともにほぼ全快。更には、防具に関しては瀬里奈産の趣ある物で内蔵兵装なども充実しており歩く機動要塞だ。

「わかった。二人の事は止めない・・・だから一つだけ約束してくれ。絶対に死ぬなよ」

「「もちろんです旦那様!!」」

 二人のやる気に地面が震え出す。高まる『聖』の魔法に身を守られた二人相手にどのように達振る舞うか見せて貰おうドッペルゲンガーよ。

「二人のコンビネーションに私が混ざると連携が乱れる。あちらに居るゴミを始末した後に、援護に回ろう」

 現に、予備パーツがないこの場で何年か前のクロッセル・エグザエルのコピーとはいえ、殺し合いをするのは不利と言わざるを得ない。よって、このパーティーのヒーラー役であるこの私は大人しく後方支援に付くのだよ。

 さぁ、いよいよ大詰めだぞキース・グェンダル。
************************************************
しかし、最後のボスの方が以前に倒したボスより弱いのが残念だ。
まぁ、消化試合的なギルド崩壊だからしかたないよね!!

最後まで執筆頑張ります~。


さて、エピローグは勿論。まだ外伝を書いていない蟲についても簡単なお話を考えております。頭の中で構成を練り練りしております。どれを執筆しようかな@@
「【蛆蛞蝓外伝】天獄に到達した 蛆蛞蝓」※蛆蛞蝓・オーバー・ヘブン
「【幻想蝶外伝】実家に帰らせていただきます」
「【一郎外伝】一郎と秘密のメロン畑」
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