日本帝国恋愛譚

徳川輝夜

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壱-大正時代

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時は大正。窓の外を見れば、バス、馬車、自転車。色々な乗り物がひっきりなしに行き交っている景色が目に映る。街を歩いているのは黒のスーツにシルクハットを被った男性や、カラフルなドレスにお揃いの色の日傘をさしている女性たち。とてもお洒落で憧れる。ああいう女性の服装をハイカラと言うらしい。米騒動が落ち着いてから、原敬による本格的な政党内閣開始された事よって民主主義(デモクラシー)の風潮が広がっていき、服装もみんな自由になっていった。それに、私たち女も学校に通える様になった。友達が増えると楽しい事もうんと増えたから、毎日がキラキラと輝いている。
 私、海崎 ミフミ には今日、とても楽しみにしていることがある。私は心を躍らせながらダイニングに行った。すると母と姉がとびっきりのお洒落をしていた。さっき窓の外に見えた女性の様な格好だった。
「母さん、姉さん、何処かへお出かけ?」
「ええ。トーキーを観に行こうかと思って。」
「ミフミ、貴方も行きますか?」
どうやら二人は最近巷で有名な有声映画を観に行くらしい。私はまだ観に行った事がなく、いつかは行ってみたいと思っていた。しかし、今日、私には何よりも優先すべき事がある。
「せっかくのお誘いですが、今日は先約がございまして。」
「あら、残念。ではまた今度一緒に行きましょう。」
姉はそう、笑顔で言った。
「ええ、是非。では、お気をつけていってらっしゃいませ。」
「貴方もね。では、行ってきます。」
母のその言葉に続いて、姉も、「行ってきます。」と言い、二人は馬車で出かけて行った。
 私は出掛ける為に、服を着替える事にした。今日は何色の袴にしようか、何の柄にしようか、考えるのは凄く楽しかった。数十分悩み、桜柄の半着に、紅の袴にした。着替えてから、髪型をマガレイトに結った。いつも練習していたからか、綺麗に結うことできた。リボンは赤色をつける事にした。あの人の好きな色だから。あの人と言うのは、今お付き合いさせてもらっている男性だ。親が決めた相手と結婚する事が当たり前の世の中で、自由に恋愛をしている人はほぼいない。当然、私にも彼にも婚約者がいる。しかし、私達は心から愛し合っているのだ。恋仲になってからは主に手紙でやりとりをしていた。互いに家族にバレない様にしながら。そして今日、ついに、私はその人に実に三ヶ月ぶりに会いに行く事が出来る様になった。何でも、彼の家族が皆んな旅行に行くらしいのだ。その間に私達は会う約束を取り付けた。私は彼に会えるのが楽しみで仕方がない。 
 そこから出掛けるまで、少し時間があったので私の普段の日課であった、新聞を読む事にした。新聞の見出しには、「普通選挙法成立」と書いてあった。今まで選挙権が与えられていたのは、『直接国税十五円以上を納めている満二十五歳以上の男子』だけだったけれど、新しく制定された普通選挙法の選挙権は、『満二十五才以上の男子』に与えられている。つまり、納税額に関係なく二十五歳以上の男子は全員、選挙に参加できるようになったのだ。女の私でも、いつか選挙に参加できる様になれば良いのに、と考えていた。
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