高次元世界で生きていく

エポレジ

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第2章 地下世界

23話 次元を修復する力

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「はああああああああ!!!」

 パシュッ!!!!

 俺は二宮の足の糸を切り裂いた。

「こ……九重さん……」

「早く逃げろ!!」

 ゴゴゴゴ……!!!

 大蜘蛛の脚が俺をめがけて振りかざされる。

「九重さん危ないっ!!!!」

 カキーーーーーーーーン!!!

「お……お前は……!!」

「命の恩人に、ここでくたばられてたまるかよ」

 それは、先ほど救った4人の男のうちの1人、成瀬。
 新庄をはじめ残りの3人は逃げて行ったが、成瀬だけは残ってくれた。

「あの動き……!! 九重避けろっ!! 糸を吐いてくるぞ!!」

「え……!?」

 パシュッ!!! シャキンッ!!

 飛んできた糸を二宮が剣で防いでくれた。

「そうですよ。九重さんは絶対に死なせません!」

「お前ら……!」

「さあ、戦うぞ。絶対に全員生きて帰ろう!!」

 クリスタルを1つも持たない3人と、大蜘蛛との戦いが始まった。

「はああああああああ!!!」

 パシュッ!! カキーン!!!

 二人とも、何かしらの次元の能力者のようで、武器による攻撃で着々と大蜘蛛にダメージが入っている。しかしながら、致命的なダメージには程遠い。

「はあ……はあ……」

「くそっ……やっぱり人数が足りないか……!」

 戦況は悪い。にもかかわらず、俺の頭はだんだんとさめてきて、なんだか大蜘蛛が生き物には見えなくなっていた。あれはただの次元の歪み。そう考えた時、不思議とぶっ壊せる気がした。以前、死神をぶっ壊したように。

 シュッ!!!!

 再び大蜘蛛の脚が俺に向かって飛び込んできた。

「「九重(さん)!!!」」

 カランカラン……

 俺は右手で持っていた武器を捨て、拳を握りしめた。

 バキィィィィィィッ!!!!!!!

 俺は大蜘蛛の脚を思いっきり殴った。すると大蜘蛛の脚はひびが入り、粉々になった。

「九重さん……い……今のは……!?」

「素手で大蜘蛛の脚を潰しやがった……!!」

 やっと分かった……俺は次元の歪みを修復できるんだ。歪みの小さいB3の魔物には効果がなかったが、ここまで次元を捻じ曲げて生み出された魔物には効果抜群なんだろう。

 タッタッタ!!!

「これで終わりだ!! この狂った次元をぶっ壊してやる!!!」

 ドカンッ!!! ドドドドドドド!!!

 思いっきり大蜘蛛の顔面を殴りつけ、大蜘蛛は崩壊していった。

 カランカラン……

 そして、クリスタルがドロップした。

「終わったん……ですか……? やった……やった!!!」

「うおおおおお!! 俺達勝ったぞ!!!」

 二人が喜ぶ中、俺は薄気味悪いものを見るように自分の右手を眺めていた。

「この力にもっと早くに気づいていれば……雪夜はあんなことにならなかったのに……!」

「やりましたよ九重さん!! はい!」

 二宮は笑顔でクリスタルを渡してくる。でも、喜んで受け取る気持ちにはならなかった。

「……いらない。もう……うんざりなんだ……」

「え……?」

「もううんざりなんだよ!!! こんな石ころのために裏切り合い、騙し合い、盗み合う!! なんたって俺達はこんな胸糞の悪いゲームをしなくちゃならねえんだ!! もうしんどいんだ……人を信じて裏切られるのは……こんなもの……こんなもの!!」

 パシッ!! カランカラン!!

 床に思いっきりクリスタルを投げつけた。

「九重さん……」

「ん……? あれ、この先になんかあるぞ……!」

「え……?」

 B5、ここがダンジョンの最深部のはず。なのに、確かにまだ先があった。

(そもそも、この場所は一体どこなんだ? 学校の地下だとすると、どうして外へ出られないんだ?)

 まるで1つの『世界』。
 狭いとはいえ、外と隔離されている。まるで、高次元世界と現実世界のように……。

「まてよ……そもそも高次元世界ってなんなんだ……? 次元が開かれた世界って聞いたけど、本質はそこじゃない……この世界はどうやって存在しているんだ……? なんでこの世に世界が2つもあるんだ……?」

「おーい! 二人とも来てみろよ!」

 成瀬が呼ぶ方へ行ってみると、不思議な光を放つ時計のようなものが宙に浮いていた。

「なんだこれ……? 針が刻々と刻んでいるようだが、時計ではない」

「私は【逆時間の次元】を認識できるのですが、めちゃくちゃに歪んでいます……。まるで、この地下全体の次元を支配しているような……」

「もしかして……これがこの地下世界を創り出しているんじゃ……」

「どういうことだ?」

「だっておかしいと思わないか? 何千、何万の魔物をはじめ、この地下世界に存在するこんなに大きな次元の歪みを、外の誰かが操作しているとは思えない。となると、この地下世界は人が動かしているのではなく、物が動かしているんだ。だが当然、この地下世界を動かす物ならば、地下世界の中にないとおかしいだろ。となると、最も人が来そうにないところに置くんじゃないか?」

「なるほど。ここが地下世界の『核』を置くのに打って付けの場所ってことですね」

「そう。つまりこの『核』を破壊すれば、この世界が壊れて外に出られるかもしれない。そして、どうやら俺には歪んだ次元を修復できる力がある」

「まさか九重、お前の力でこれを破壊するのか!?」

「ああ。言っただろ、もううんざりなんだよ。こんな世界でいがみ合うのはもう……。こんな世界、俺がこの手でぶっ潰してやる!!」

 俺は右手に力を込め、思いっきりその時計のようなものを殴った。

 パリーーーーーンッ!!!!!!
 シュワァァァァ!!!!!!!

 その瞬間『核』は破壊され、凄まじい光が辺り一帯を照らした。

「うわあああああああ!!!!」

 そして、地下世界は崩壊した。
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