放蕩者と誤解されて追放された王子ですが、可愛い弟妹達の為に、陰ながら世直しします!

世界

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第一章

第二話 開かない地下室

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 ウォルフが一仕事を終え、エルエを起こして外に出てみると、さっきまで話をしていた庭先に立派なテーブルと椅子がセットされていた。こんなもの一体どこから?と思ってよく見ると、宮で使っていたものだ。どうやらセヴィので用意したらしい。

 セヴィは生まれつき、ある特殊なスキルを持っている。『4Dポケット』と名付けられたそれは、ギースの念写と同じく、誰もが持っているものではなく、あくまで個人的な才能だ。故に『スキル持ち』と呼ばれる者たちはかなり重宝されたり、犯罪に巻き込まれやすい傾向にある。その為、身を守る手段に自信がないものは、スキルを隠して生活していたりする。
 スキルは便利な能力である反面、それを狙う者たちから標的にされる恐れがあり、リスクも大きいのだ。

 セヴィの4Dポケットは、スキルによって作られた特殊な空間で、セヴィの意思で色々な物を出し入れできるスキルだ。とはいえ、ある程度の制限や限界があるようで、生物は入れられず、セヴィ自身がよほど気に入った物か絶対に必要な物しか入っていないらしい。昨日、彼女がいつの間にか掃除用具一式を装備していたのも、4Dポケットにしまっていたものだろう。絶対に必要なものとして入っているのが掃除用具な辺り、セヴィの性格が伺える。

 テーブルの上には、紅茶と様々な具材のサンドイッチが並べられている。セヴィの作る料理はどれも美味いが、これだけ好天の屋外で食べるとなれば、それは素晴らしいスパイスになるだろう。

「わぁ~!セヴィのサンドイッチだ!ねぇねぇ、ローストビーフの奴あるー?」

「…ありますから、食事の前に手と顔を洗ってきなさい、エルエ。ウォルフ様も手を洗って、汗を拭いてきて下さい」

「ハーイ!」

「ああ、解った」

 二人がセヴィの指示に従って席につく頃、ようやく回復したダンテも身支度を整えて戻ってきた。ついさっきまであれ程ぐったりと疲れ切っていたのに、この短時間できっちり仕上げてくるのだから、さすがである。

 そのまま4人でテーブルを囲んで、歓談しながら舌鼓を打った。エルエは特にお気に入りのローストビーフのサンドイッチを頬張っては、セヴィに口元を拭いてもらっている。ウォルフだけでなくセヴィにとっても、エルエは可愛い妹のような存在だ。そんな二人の姿を見て、ダンテとウォルフは顔を見合わせて笑っていた。

 母は幼い頃に辺境に追いやられ、父からもあまり愛されなかったウォルフにとって、3人は弟達と同じくらい大事な家族のような存在だ。それぞれに事情はあっても、こうやって自分に着いてきてくれたことが、本当に嬉しかった。今回の追放についても、彼らがいなければ今頃どうなっていたか解らない。口に出すのは照れ臭いが、ウォルフは心から3人に感謝している。

 ある程度の食事が済んだ頃、セヴィが思い出したかのように口を開いた。

「…そういえばウォルフ様、昨日お掃除をしていた時に、地下の扉だけが開かなかったのですが、確認して頂けますか?」

「構わないが、開かないというのはどういうことだ?鍵が合わなかったか、それとも足りなかったか?」

「…いえ、鍵は掛かっていないようなのですが、押しても引いても一切ビクともしないのです」

「ふーん…まぁ古い屋敷だからな。扉が錆びついているのかもしれないな。解った、見ておくよ。最悪、壊しても構わんだろう」

 手にしていたタマゴのサンドイッチを口に放り込んで、少し冷めた紅茶で流し込む。タマゴには気持ち多めの胡椒がよく効いていてとても美味しい。ちょうど満腹になった所で、ウォルフも昨日ギースに聞いた話を思い出した。

「そういえばギースから聞いたんだが…この屋敷、幽霊屋敷と呼ばれているらしいぞ」

「ああ、それは私も聞きました。何でも夜になると笑い声がしたり、怪物が現れるとか」

「昨夜は俺が散々笑ってたからな…」

「ハッハッハ!若が新たな怪談として有名になるかもしれませんな!」

 それはちょっと勘弁してもらいたいが、幽霊の正体が自分達であれば、誤解を解くのも楽だろう。どうせ幽霊などいないのだから、ちょうどいいのかもしれない。

 楽しい食事の時間は終わって、ダンテとセヴィ、そしてエルエの三人は、一度王宮へ戻り荷物の整理を行ってくることになった。ウォルフは王宮への立ち入りを禁止されているので、今回は留守番になるが、庭と森の境目は早めに整備しなければならないと思っていたので好都合だ。

「さて、庭の整備を始めるか」

 初めて屋敷に到着した際にダンテも言っていたが、森と屋敷の庭までの距離はかなり近い。この森は奥に行くと比較的大型の獣や魔獣が生息しているという噂もあるので、なんらかの対策をしておかないと万が一の事態を招きかねない。見た目に反して割と頑丈に出来ている屋敷だとはいえ、強力な魔獣が相手では楽観はできないだろう。

 まずは、古くから魔獣除けに使われるホーエンビリアという植物の種を庭の外周に蒔いていく。この花は、光を浴びるとその熱を蓄えて放出する性質があり、知らずに触れると火傷する恐れもあるという、魔法植物の一種だ。夜になると溜め込んだ熱の分淡く発光するという特性もある事から、主に街道沿いに植えられて、旅人や商人などが安全に通行する際の手助けになっている。またホーエンビリアの花が出す匂いを魔獣が嫌うことも、対策になる理由の一つである。
 魔法植物だけあって、植えるのも種を土に蒔くだけで済む事から、一時間強ほどで作業は終わった。

 その後、セヴィ達が買ってきた荷物の中身を確認してウォルフ用の物を自室に運ぶと、少し手持ち無沙汰になった。
 王宮での暮らしは常に忙しく、今まで時間を持て余したことなどなかったウォルフは、やることがないというのは困ってしまう。鍛錬の時間にでも充てるかと考えた所で、食事の際にセヴィから頼まれていたことを思い出した。

「そうだ。地下室の扉を確認して欲しいと言われていたな」

 扉の確認など大した事ではないだろうが、やる事が出来たのは好ましい。それが終わったら鍛錬にしようと思い立って、ウォルフはいそいそと二階に設けられた自室を出て、問題の地下室へと向かった。

 その扉は、半地下のような場所にあった。

 この屋敷は二階建てで、玄関の大扉を開けるとすぐに広いホールがあり、ホールの奥には二階へ通じる大きな階段が、またホールからは左右に別れた廊下があり、それぞれ別の部屋に繋がっている。
 一階の右廊下側手前には食堂と台所が、また廊下を挟んで反対側には浴室とリネン室、そしてトイレがある。左廊下側は、ちょっとしたパーティを開けそうな大きな広間になっていた。

 地下室があるのは階段下のスペースに用意された倉庫の中だ。

 階段自体が大きく作られているからか、倉庫もそこそこ大きくて広いのだが、その中央に下り階段があった。そのせいで階段の傍には物が置けない為、デッドスペースがかなりある。
 妙な造りになっているなと思いつつ、折り返しの階段を下っていくと短い通路があり、壁掛けの燭台と両開きの扉があった。

 扉そのものに豪華な意匠が施されていて、ノブや鍵穴らしきものは見当たらない。これが開かないというのはどういうことだろう。ウォルフはとりあえず、軽く扉を押してみた。

 ウォルフが扉に触れた途端、バキンと何かが割れたような音がした。

「何の音だ?…お、動くな、開くか」

 もしかすると、扉の向こうで何かがつっかえていたのかもしれない、そう思って扉を開くと、その先は石造りの古いらせん階段になっていた。黴臭いような、少し冷えた空気が漏れてきて、思わず身震いがする。
 階段はとても暗いので、一度ホールに戻って、荷物の中からランタンを持ってきた。灯をともし、改めてらせん階段を下っていく。
 数分かけて長い階段を降りきると、洞窟のような広い空間が現れた。
 
 そしてそこには、巨大な鎖に繋がれた白いドラゴンが横たわっていた。
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