放蕩者と誤解されて追放された王子ですが、可愛い弟妹達の為に、陰ながら世直しします!

世界

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第二章

第七話 ちょっとそこまで

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 アイテールが仲間になってから、あっという間に数日が経過した。

 あの後、アイテールを交えた5人は、簡単な食事と風呂を済ませて就寝する事になった。皆一様に、考えを纏める時間が欲しかったというのもあるだろう。ちなみに現在、日常生活のアイテールの世話(食事の仕方や風呂の入り方)などはセヴィが率先して行っている。どうやら、寝る時も一緒に寝ているらしい。
 とても幸せそうに甲斐甲斐しく世話を焼いたり、膝の上に置いて抱き締めたりしている辺り、実は可愛いものが好きな所があるんだなと、ウォルフはセヴィの新たな一面を知った。

 そんな中、ずっと元気をなくしているのがエルエである。普段はあれほど元気一杯な娘が、この所はその鳴りを潜め、何かを思い詰めたように考え込んでは溜息を吐いている。そんなエルエの異変にウォルフは気付いていたが、今まで彼女のそんな姿を見た事がなかったので、どうしていいものか解らず、ちらちらと様子を伺っては胸を痛める事しかできずにいた。

(これは、少し考えねばならんな…)

 そんな二人をみて、ダンテは知恵を絞ろうと考えた。思えば、ウォルフもエルエも幼い頃から傍で成長を見守ってきた、自分の子どもも同然の存在だ。もちろんセヴィも同じように大事な存在だが、セヴィは二人よりも大人でしっかりしていたし、何より彼女にはちゃんと家族がいる。自分が父親面をしたら、きっと嫌がるだろう。
 そんなわけで、特にウォルフとエルエに関しては、何かしてやれる事があればしてやりたいという思いが強いのである。
 よし!と何かの決意をしたダンテは、先日持ちだしてきた蓄えの中から少し多めの金を持ちだすと、鍛錬を終えて自室で休んでいるウォルフの元へ向かった。

「うーん、そろそろ仕事を探し始めるべきだが、何をするか」

 ウォルフは、自室で机に向かって頭を悩ませていた。弟達の力になるような事をしたいと考えていたものの、具体的に何をすればいいのかが分からない。ハミドのような解りやすい悪漢の成敗が出来ればいいが、そもそもそれはその土地の領主や正規兵の仕事だし、そうそう都合よく悪人はいないだろう。生活の糧になるほど悪人の類いがたくさんいたら、それはそれで大問題だ。

 とりあえず稼ぎたいのであれば、腕っぷしを活かせる隊商の護衛や、用心棒などがいいかもしれない。5人パーティならば、大きな隊商を探せばいけそうだ。となると、問題はアイテールである。彼女はまだ人間の暮らしに慣れていないので、長期間の移動や拘束を伴う隊商の護衛は厳しいだろう。ウォルフの曽祖父である先々代の王カールの時代には、冒険者という職業があったらしいが、現在そのような職業は存在していない。今は未踏の大地があり、モンスターが跋扈するような時代ではないのだ。

「市井の暮らしというのは、やはり大変なんだなぁ」

 あちらを立てればこちらが立たぬとはよく言ったもので、ウォルフは改めてそれを実感する。それでも、これからは民として生きる事を余儀なくされたのだから、なんとかせねばならない。そう思っていると、部屋のドアをノックする音がする。「ああ、今出る」と声をかけてドアを開けると、そこに立っていたのは、やけに神妙な面持ちをしたダンテであった。

「ダンテか、どうしたんだ?午後の鍛錬にはまだ早い…」

「若、これを」

 ウォルフの言葉を遮るように、ダンテは食い気味で何かを差し出した…金だ。ちょうど仕事を探していたのが聞こえたのだろうか?とはいえ、まだ王から貰った金は残っていて、当面の生活費には困っていないので、受け取る理由がない。ウォルフはそれを受け取らず、事情を聴くことにした。

「ち、ちょっと待ってくれ。急にそんなものを渡されても困る。心配せずとも、父上から貰った金はまだ残っているぞ。仕事を探していたのはあくまで今後の為であって…」

「仕事を探していたので?あ、いや、この金はそういう意味ではありません、これはエルエの為です」

「エルエの?何かあったのか?」

 最近、エルエに元気がないのは気になっていたので、エルエの為と聞けば黙ってはいられない。ウォルフはダンテを部屋に招き入れて、詳しい話を聞くことにした。

「で、どういう事だ?エルエの為に何故金がいるんだ?」

「若、最近エルエが何かに悩んでいるのはお気づきでしょう?あれも年頃の娘です、きっと私やセヴィには言いにくい悩みがあるのかと…であれば、そこは若の出番です!あの金でエルエを連れ出し、悩みがあるなら聞いてやってください。若が相手なら、エルエもきっと素直になれるでしょうから」

 そこは同性のセヴィの方がいいのでは?と思うが、確かに普段の言動を思い返せば、エルエが一番懐いているのはウォルフである。逆に同性にこそ言い辛い事もあるだろう。歳も近いのだし、言われてみれば自分が相談に乗ってやるのが道理かとウォルフは思った。

「それは解ったが、何故ダンテが金を?さっきも言ったが、父上からの金はまだあるぞ」

「そこは親心…いえ、年長者としての心意気というものです」

 最初はよく聞き取れなかったが、年長者としての…とまで言われては、突き返すのも悪い気がする。よく解らないが、ダンテの出身であるキクアオイでは、そういう風習のようなものがあるのかもしれない。そう考えて、ウォルフはひとまず金を預かる事にした。

(まぁ、必ずしも使わねばならないということもないだろうしな、後で返そう)

 残念ながら、ダンテの健気な親心はウォルフには届かなかったようだ。そもそも、ウォルフは親が子に小遣いを渡すという行為を知らずに育っているので、無理もない。そんなウォルフの心を知らず、金を受け取って貰えた事に安堵したダンテは、ニコニコと微笑みながら部屋を後にした。彼も彼で、少し感覚がズレているようだ。

 去り際に、ダンテから午後の鍛錬を禁止されてしまったので、ウォルフは完全に予定がなくなってしまった。エルエの事は心配だし、せっかくなのでその言葉に甘えて、エルエと出かけることにする。

 身支度を整えてエルエの部屋へ向かい、ドアをノックすると、覇気のない返事と共にエルエが顔をみせた。普段ならば、天気が良ければ外で日向ぼっこをしているか、ウォルフに絡んで来ているはずの彼女が力なく自室に篭っているというのは、やはり何か問題があるのだろう。ウォルフは努めて明るい表情を作り、声をかけた。

「あー、エルエ。天気もいいし、少し出かけないか?」

「お出掛け…?」

 やはりおかしい。いつもならば、こんな誘いをすれば一も二も無く喜んで出かけただろうに、明らかに面倒くさそうという顔をしているエルエを見て、ウォルフは酷く心を痛めた。

「ああ、外に出るのが面倒なら、ちょっとそこまででもいい。気分転換をしよう」

「あーね…主にもメーワクかけちゃったか、ゴメンね。いいよ、行こう」

 その口振りから、エルエ自身も、本調子でない事は自覚しているようだ。元より、エルエが迷惑だと思ったことなど一度もないが、今はそんな問答よりも、気分を変えさせる方が先だ。

 何を悩んでいるのか解らないが、早くいつもの明るいエルエに戻って欲しい、そう思いながらウォルフはエルエを連れ出すのだった。
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